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初登校

「入口はここでいいんだよな?」

 たしかに入り口はあるのだが来た道を振り返るが学生は見当たらない。

 入試は学校で受験したがどこから学校に入ったか記憶が定かでない。

 

 死んだ魚の目をした男は入口で立ち止まる。

 柳田淳は今、山丘看護専門学校の入口にいる。

 大学在学中に就職先は決まらず卒業してしまった。

 大学生活にはバイトもせず、サークルにも入らずおまけに恋人はおろか友人を一人として作ることができず4年間の灰色の大学生活を送ってきた。

 キャンパスライフを謳歌してきたリア充とエリートぼっちでは就職戦線での戦闘力はだんちであり結果は自明であった。

 そんなわけで淳も最初は意気込んでいたがお祈りメールをもらうたびに淳の就職に対する意欲は失われた。

卒業後も実家に戻ってきたがバイトなどせず昼夜逆転の生活を送ってきた。

 見かねた母親が勝手に必要書類をそろえ勝手に応募してしまっていた。受験日前日に受験票を受け取り淳は気乗りしなかったがこのままではいけないという思いもあり、受験したらなんと受かってしまったというのが顛末である。手ごたえは全くなかった。あれだけ多くの受験生がいたのに、なぜ自分が合格したのか不思議でならなかった。


    時計の針は深夜二時を指す。

    「なになに。」

 

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 「おいおい俺の大学卒業するよりも大変じゃないのか。」PCに向かって一人話しかける。

 淳は画面に映し出される膨大な情報に不安ばかりを募らせた。

 初登校まで数時間になり少し眠らなくてはと思いつつも、性欲に負け淳はティッシュを片手に画面に映し出される二次元の美少女を見て股間を熱くしていた。

   

 玄関で持参した靴に履き替え、階段を上る。

 腕時計をみると時刻は8時55分オリエンテーション開始まであと5分。

 足取りは重い。

 「第一教室でいいんだよな……」

 教室のドアのガラス越しに学生が着席しているのが見える。

 ぱっと見で自分の席以外が埋まっているのがわかる。

 それを見た時、淳のぼっちアラートが脳内で鳴り響く。

「ぼっち衆目を集めることなかれ。」「ぼっち衆目を集めることなかれ。」

 なぜこれほど人の視線を気にするのかといえば大学卒業後淳が話すのはもっぱら家族かコンビニ店員ぐらいで自分に複数の視線が向けられるということに耐性がないのだ。

 ドア開けた時に自分に視線が注がれることを考えるとなかなか教室に入ることができない。

 「こんなことなら抜くんじゃなかった。」

 数時間前のことが頭をかすめる。

 眠気に襲われながら股間を熱くしていた自分に今更ながら腹が立つ。

 淳の賢者タイムは通常10分で終わるのだが、その時のかつてないほどの虚脱感に襲われた。

 もしかしたら俺は本当の賢者になれるのではなど馬鹿なことを考え、事後処理そっちのけで思索にふけってしまっていた。

 なぜかその時のことが頭に浮かび全能感がわきあがる。

 根拠のない自信が淳を動かす。

 ドアノブに手をかけ、ドアを押し教室に入る。

 今から見るすべての人間はじゃがいもになる。

 心の中で「じゃがいも じゃがいも」とチャントしながら黒板に張られた座席表に目をやる。

 「おーい君、ここだよ。ここ。」声がする方向を振り返ると目鼻立ちの整ったイケメンが席を指差す。

 おかしいな俺が知っている友達は鳴海 ○之と伊藤 ○ ぐらいなんだが。

 今までこんなイケメンから話しかけられることすらなかったのにこれがイケメンの優しさなのか。俺 が逆の立ち位置なら全力で我関せずだからね。ああ、そうか。だからぼっちなのね。てへへ。

 指差された自分の席に座るとと後ろから肩をたたかれ振り返る。

 「小山 徹っていいます。よろしく。山でいいですよ。」

 「あ、さっきはありがとうございました。柳田 淳っていいます。よろしくおねがいします。」

 見れば見れるほどかっこいいな。しかも優しいし。神様不公平じゃありませんか。前から思ってました。天は二物与えず。これ絶対嘘だから。俺一物も与えられてないのですが……。現実って厳しいです。

 「淳さん、男子は俺と淳さんともう一人。男子は三人だけみたいです。」

 「お、おう。」

 「ところで淳さん教室に入って来た時、じゃがじゃが言ってましたよね。じゃがリンボーが好きなんすか。俺もじゃがリンボー好きなんすよ。チーズ味うまいですよね!」

 「え、あ……あ~、じゃがリンボーね。そ……そうだね。俺もチーズ味好きよ!」

 (まさか、視線が怖くて心の中で俺以外の全ての人間がじゃがいもに見える魔法を唱えてたんですとはいえない。山さんおまえがいい人で俺はよかったよ。あ、ちなみにチーズ味も嫌いじゃないんだけど。マイ・フェイバリットテイストは塩味なんだよね!)

 

「先生がきたみたいですよ。」

学生の視線が正面の教卓に集まる。

 遠目からでも出るとこは出ていて、へこんでいるとこはへこんでいるのがわかるぐらいスタイルがいい。

 大腿部は程よい筋肉付き方で脂肪と均整がとれている。均整のとれた下肢はスキニーパンツをはくことでより美しく見える。下にカットソー、その上にジャケットを身につけている。適度な運動を行ってスタイルを維持していることうかがえる。

 薄化粧に目、鼻、口とそれぞれが強調しすぎずにバランス良く配置されている。

 髪はきれいにヘアピンでまとめられ、形の整った団子頭になっている。

 看護学校の先生という言葉がぴったりのルックスだ。 

 「君たちの担任の風舞岬だ。これからよろしく頼む。私は君たちを差別する。もちろん君たちに看護師になるために必要なことは全て教える。好き嫌いを私は隠すことができないからだ。だから今臨床ではなくここで教員をしている。今日のオリエンテーションは以上だ。授業で必要なものはすべて図書館にある。受け取ってから帰るように。」

 (好き嫌いを隠すことができない? ――― 姉さん 事件です! 今日は初登校日だったんですが、担任の風舞先生は好き嫌いを隠さないそうです。僕はあの先生に嫌われないでしょうか。今から学校を変えることはできないのでしょうか。とても不安です。)

 

 

  

  

   

 

  

 

 






  

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