戯け者
知らないってある意味、幸せなことです。
ダッダッダッ! ダッダ~ダン! ダッダ~ダン! ダッダッダッ! ダッダ~ダン! ダッダ~ダン!
「誰が雑魚だ! 誰が小物だ!! そういうことを言う奴が雑魚で小物なのだ!!!」
死体獣踊子隊が重厚かつ悲劇的な音楽を奏でる中、ジフ様が金ピカ一味に宣言する。
はて? 『小物』とは言ってなかった気がするが・・・・・・まあ、ジフ様の言うことはいつも正しいのだからいいか。さあ金ピカ達よ! ジフ様の偉大さにひれ伏すがよい!
ダッダッダッ! ダッダ~ダン! ダッダ~ダン! ダッダッダッ! ダッダ~ダン! ダッダ~ダン!
「おい、エタリキ・・・・・・あの楽器鳴らしてるちっせーのは希少魔族か?」
「ふむむむ!? ・・・・・・ま、間違いなく超希少魔族です! あの可愛さ! この演奏力! オークションに出せば王侯貴族がいくらでも出してくれます。一匹三十として金貨で千五百ぐらいでしょう。イーデスさんもそう思いませんか?」
「あたしにはただの死体獣に見えるけど。創造主の個性じゃない? ・・・・・金貨ってアンスターそれともダブロス?」
「当然、アンスター金貨ですよ。ダブロス金貨なんてダブロス王国でしか使えないでしょう」
「なんにしろ高価で売れるなら拾っていけばいい・・・・・・我が掴むと壊れそうだ。拾うのは任せる」
こいつら!!
ジフ様のありがたい御言葉を聞かずに死体獣踊子隊に見とれている・・・・・・しかし凄い食いつきだ。金ピカ男も薄ら笑いを止めて目を見開いている。
「星の金貨で千五百かーーー! この雷光の剣もいいけどさー。竜殺しとか買いてーな」
「アライさん、何を言ってるんですか? 千五百は開始値ですよ。裏ですからサクラは使えませんが一万はいくでしょう」
「一万! ホント!! 嘘じゃないでしょうね!!!」
「・・・・・・さて我も本気を出すときがきたようだな」
「「「おまえ(あんた)(あなた)は手を出すな!!!」」」
人間達は四人ともジフ様を完全無視で盛り上がっていた。女魔術師は髪を振り乱し、神官は算盤を弾いている・・・・・・精悍な大男だけは落ち込んでいるようだ。
「わ」
ん? ジフ様が震えてる。
「わ、私を無視するんじゃなぁぁぁーーーーーーーーい!!」
叫んだ。絶叫である。
確かにジフ様を無視するなんてやってはいけないことだ・・・・・・後で死体獣達にもほどほどの音楽にするように注意しておこう。せっかくの効果音もジフ様が食われてしまっては意味が無い。
「うるせー雑魚物野郎。無名のマイナー死に損ないはそこで黙ってろ!」
「だっ誰が無名のマイナーだとぉぉぉーーー!!! 私こそが死霊軍団第七席の・・・・・・」
無礼な言葉にジフ様が三度絶叫したそのときだった・・・・・・
ギッバチッチッチッチッチッチッチッチッチッチッチッチッチッチッチッ!!!
・・・・・・金属の衝突音と謎の異音が響いたのは。
「黙れって言ったろー雑魚物野郎・・・・・・どうだ俺様の雷光の剣は? 痺れて動けねーだろ?」
な、なんと卑怯な!
私は無い目を見開き驚愕する。金ピカの男――自称最強勇者は、ジフ様が名乗りを上げている最中に斬りかかったのだ。ジフ様の棺に当たったその剣は、明滅しながら火花と低い唸りを上げている。
異音はあの剣から? ・・・・・・それよりジフ様!?
「そうか雷の魔術を刻んで!」
デニム様! 何を納得しているか知りませんが今はジフ様を!
心の中でデニム様に突っ込みつつ私は金ピカ男の剣に大鉈を叩きつけようと右手をしならせる。しかし私の大鉈は外れた・・・・・・目測を誤ったわけではない。剣のほうが動いたのだ。
「名乗りの途中で攻撃するとは・・・・・・まさに小物だな」
剣を掴んだジフ様の嘲りと共に。
「俺様が小物だ・・・・・・? ・・・・・・な、なんで、動けるんだ! 雷は!?」
金ピカ男は、自らの剣とそれを握り締めるジフ様を交互に見ながら狼狽している。後方の三人もジフ様に視線を向けたまま微動だにしない。
雷?
ジフ様の手にある剣をよく見ると確かに小さな稲光が瞬いている・・・・・・ジフ様の青黒い精気に全部弾かれているが。
「やはりはずれだな。あの勇者は私を斬り裂いたぞ?」
「な、馬鹿な! くっ! そっ! なんで動かない、ヒッ!?」
金ピカ男が両手で柄を握りジタバタしてるとその首に指輪だらけの骨指が伸びた。
「さて、もう一度聞こうか・・・・・・誰が雑魚だと?」
ジフ様の尋問が始まった。
手遅れにならなければ。




