最期の墓所
ジフ様は求める人に会えるでしょうか。
「この階段を上がれば最期の墓所になりま~す。さっ、どうぞジフ様!」
「う、うむ。分かりまっ、ゴホン! 分かった」
アーネスト・エンド様が大袈裟な仕草でジフ様を案内した。道化服に相応しいが・・・・・・ジフ様も面食らっている。
聖一教の神聖騎士や神官と戦った回廊から最期の墓所に向かった私達は、上へと続く階段に到着した。薄明かりの中に浮かぶ階段は、岩ながら滑らかなつくりで大きく幅も広い。
”骸骨洞窟”と比べると同じ迷宮とは思えない・・・・・・あの狭くごつごつとした岩の階段とは・・・・・・
私は数日前に旅立った”骸骨洞窟”を思い出し少し悲しくなる。
・・・・・・決して迷宮の落差に落ち込んでいる訳ではない。ただ懐かしさに無い胸を打たれていただけだ。
”骸骨洞窟”か・・・・・・何もかもが皆懐かしい。
「骸骨兵、早くこないと置いていかれるぞ」
ん?
頭蓋骨を巡らすと階段をかなり上ったところから長身の死霊魔術師デニム様が私を見下ろしていた・・・・・・御一人で。
ジフ様とアーネスト・エンド様は? ・・・・・・あっ! いた!
長身の魔術師より遥か先、明かりの届かぬ闇に私は青い光が二つ見えた。
・・・・・・!?
ジフ様! 置いてけぼりはあんまりです!
ガシャガシャと岩の壁に不快な音がこだまする。
~~~~~~~~~
『敵がいるんだ静かにしろ』とデニム様に叱られながらもジフ様と合流した私は、黙々と階段を上っていた。その声が聞こえるまでは・・・・・・
「ギャァァァァァァァッ!!!」
他の方達にも聞こえたのだろう。全員が足を――ジフ様は棺ごと浮遊しているが――止めた。
階段の先から聞こえた声は悲鳴――見本にしたくなるような断末魔の叫びだった。
さらにグシャシャンと大きな音が続いた。中身の入った鎧を床に倒したらこんな音が鳴るだろう。中身、つまりは体ごと倒したら・・・・・・
「死に損ないでしょうか?」
「”絶望の岬”に死体騎士はいないわ~ん。それに最期の墓所・・・・・・というか”絶望の岬”の最深部は、幹部や死霊騎士以外立ち入り禁止よ~ん」
死霊魔術師デニム様とアーネスト・エンド様が話される中、再び叫び声が上がる。
「勇者かっ!!! 勇者が他の奴にやられたのか!!!」
空飛ぶ棺から・・・・・・ではなく棺に入ったままのジフ様から。
「いかんっ! 駄目だ!! 認めん!!!」
全身を青く発光させながらジフ様の叫びは続く。
「死霊騎士様なんかに負けるな!!! 気合を入れろ勇者!!! 待っていろ出世ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーー!!!」
飛ぶっ!
灰色の粉塵を撒き散らし始めたジフ様を見て悟った。しかし私はジフ様を止めない。守り従うと決めたからだ。
「私が殺すまで死ぬんじゃなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!!」
「お、おい! ジーン様!」「ちょっ! ジフ様!?」
驚く二人を置いて私は飛翔する主に遅れないよう階段を駆け上がる。死体獣踊子隊も・・・・・・死体栗鼠などの小さい子は、死体狐に乗せてもらって追いかけてきている。
可愛いぞ同胞たちよ!
死体獣達の新芸を見ているうちに階段が終わり、足元が平らになる。
前方を見るとジフ様が飛翔を止め床に降りているところだ。
ジフ様に近寄りながら周囲を確認する。
巨人が入れそうな高い天井、一定の間隔で並ぶ石棺、竜や鬼と戦う人間が刻まれた壁、そして・・・・・・人間達。
『人間は殺せ!』
船長ガデム様の洗脳に従い私は動いた。情報を確保しつつ身を屈め大鉈を引き抜く。
人間は七。戦士が二人に魔術師と神官が一人ずつ、そして下で見た神聖騎士が三人。
数の不利を理解しながらも撤退はしない。デニム様とアーネスト様が合流すれば数の上では互角になるからだ。
四対七ではない四対四である。三人の神聖騎士は血塗れで地に伏していたのだ。
ジフ様から逃げた騎士達だろう。ここで倒れて・・・・・・?
そこで私は疑問を覚えた。ジフ様の尋問は一撃必殺――首落とし――である。
なぜ血を流している? そもそもここまで血の跡なんてなかった・・・・・・
「ちっ! ただの死に損ないか」
男の吐き捨てるような声が私の思考を邪魔する。
私はともかくジフ様に対してなんと無礼な! ただのではない! すごい死に損ないだ!
憤る私を前にその男――黄金を纏う戦士が続ける。
「他の自称勇者達かと思ったじゃねーか。驚かすんじゃねーよ」
血が滴る黄金の剣を私達に向けながら。
面会の約束は重要です。
確認せずに行ったら思わぬ場面に出くわすことも・・・・・・