意思
言葉を使っても意思を伝えるの難しいものです。
「司令部に遠話しますから~ん。少し御待ちくださ~い!」
アーネスト・エンド様は、ジフ様にそう言うと水晶玉を取り出し手をかざした。私はその遠話を止めるため桃色道化師の背後に回り必殺の左――竜骨毒手を打ち込もうと・・・・・・
ピ~ヒャラ! ピ~ヒャラ! ピッ! ピッ! パラパ!
・・・・・・したところ鳴り響く音に腰骨が折れた。
力が抜けたため躓いた私は、床に手をつき罵る。
な、なんなのだ! この脱力感満載な音楽はっ!!!
私は犯人・・・・・・死体獣踊子隊を睨みつける。
【どういうつもりだ?】
私が問うと死体獣踊子隊の中から一体が進み出て鳴く。
「スキュフフ! キュフフ!」
その死体獣――死体栗鼠は、手に持った細長い枝――指揮棒だろうか――と首をフリフリ私に何かを訴えかけてくる。
何を言いたい? 言いたいことがあるならはっきりと・・・・・・!?
そこで私は死体獣達は喋れないことを思い出した。しかしそれでも私は同胞の言いたいこと、やりたいことを理解した。
おまえ達はアーネスト・エンド様を傷つけるのを止めたいのか! その想いは分かった。確かにジフ様の恩人・・・・・・ではなく恩骨を手にかけるのは良くない。
立ち上がった私は、三度左手を構える狙うは道化師の腕・・・・・・その先に輝く水晶玉。
「司令部聞こえる~ん? こちら癒しの道化師のアーネストよ~ん!」
既に遠話が始まっている! 急がねばっ!!
私は必中の左――竜骨毒手を打ち込もうと・・・・・・
ピ~ヒャラ! ピ~ヒャラ! ピッ! ピッ! パラパ!
・・・・・・したところ、またもや鳴り響いた音に再び腰骨が折れた。今度は膝をつくだけで済んだが・・・・・・
何なんだっ!
再び死体獣踊子隊を睨むと死体栗鼠、死体鼠、死体狐・・・・・・何十という死体獣が私を見つめいた。
・・・・・・可愛くてもこれだけ数が揃うと・・・・・・
私がほんの少し気圧されていると死体獣達が一斉に動いた。左右に首を振り始めたのだ。
さまざまな小動物たちが並んでフルフル頭を揺らす姿は、本来なら心を和ませるのだが・・・・・・
何が駄目なのだ?
「アーネストかっ! 俺の話を聞けーーーーーー!!!」
「はいはい! 何?」
「俺にも戦わせろぉぉぉーーーーーー!!!」
「はい! 聞いたわよバトゥーリアちゃん。だから侵入者・・・・・・勇者の情報をちょうだ~い」
こうしている間にもジフ様があの勇者の居場所を知ってしまうかもしれないのだ!
しかし死体獣達はただ首を振るのみ。その仕草は無理無理、駄目駄目、無駄無駄と・・・・・・とにかく否定の意思を私に伝えている。
・・・・・・もしかして?
私は、まさかと思いつつ尋ねる。
【遠話をさせたいのか? ジフ様の望むままに?】
死体獣小さく縦に頭を振った。私はその行動に驚く。
なぜなら遠話をさせるということは、勇者の居場所を・・・・・・勇者とジフ様が戦うと言うことだからだ。
この子達は何を考えているのだろうか? 勇者のことを知らないのだろうか? 悪者――主に魔王、たまに偽者の神様――がいれば脈絡もなく現れて、どんな危険も突破し最後には必ず勝利するあの英雄のことを。子供でも御伽噺で知っているというのに。
「勇者の情報だぁ!?」
「そうよ~ん。主に居場所を知りたいの~ん」
「ちっ! 自分だけ戦おうってか! ・・・・・・・まあいい! 一番分かりやすいのは・・・・・・生贄回廊辺りにいる聖一教の勇者達だ! こいつら”絶望の岬”を全部浄化するつもりか出会った死に損ないを片っ端から・・・・・・」
「聖一教の勇者ならジフ様が倒したわ~ん。他のを教えて~ん」
まだあの勇者のことは分からないようだ。
私は、アーネスト・エンド様の遠話も意識しつつ死体獣達の真意を考える。
勇者とジフ様が戦うの止めない・・・・・・しかしジフ様が傷つくのをこの子達が望むはずがない・・・・・・どういうことなのだ?
悩む私がうつむくと身に着けた鎧――顎割れ死体騎士の鎧が見えた。罅割れ灰に塗れた同胞の形見・・・・・・ジフ様を守るため勇者に挑み浄化され灰になった顎割れ死体騎士。
なるほどっ!
私は死体獣踊子隊の伝えたいことが分かった。
ジフ様があの勇者との戦いを・・・・・・出世を望むのなら、止めさせるのではなく盾になってジフ様を守れと言いたいのだな!
主の望みを叶えつつ守る・・・・・・まさに忠義の鏡。危うくジフ様の望みを邪魔するところだった。
【私はジフ様の壁になる・・・・・・ありがとう】
私が感謝の意を伝えると死体獣踊子隊はチョコンと小首を傾げた。
控えめないい子達だ。
「聖一教の奴らを倒したのかっ! やるじゃねいか! 死霊騎士の一団がまとめて消されたってのに・・・・・・じゃあ・・・・・・最期の墓所に南部王国連合所属の勇者がいる」
「最期の墓所ね? ありがと~ん・・・・・・ジフ様、ここから一階上にある最期の墓所に勇者がいるそうでぇ~す」
「よ、よし! 逝くぞっ、いや、行くぞ!」
どうやら勇者の居場所が分かったようだ。しかし私は慌てない。ただ盾に、壁になればいい。
迷いの消えた私は、ジフ様達に続いて歩き出す。
意思はともかく遺志は伝わったようです。