足掻く
足掻く・・・・・・必死の抵抗、あれこれ試みることです。
「どけぇぇぇぇぇぇ!」
私は振り下ろされた剣を左手でなんとか受け、動きを止めた騎士の足に素早く右手を巻きつけた。蛇骨の腕は騎士の体を這い上がり拘束する。
「なあっ!?」
止めに変な声を上げながら倒れる騎士の頭部に左手――竜骨毒手を押付け黙らせる。
「ギャガアァァァーーーーーーグェウウェ」
ダァァァン!
これでやっと二人目・・・・・・
悲しい音が響く中、私は虫歯が痛むような忌々しい気持ちで滅茶苦茶に逃げる人間達を睨みつける。
・・・・・・死体獣踊子隊が楽器を派手に鳴らした後、ジフ様に紫の色の大神官――指揮官を倒された人間達は、統率を失った。騎士達はジフ様に挑み、神官達は距離を取ろうとしたのだ。
ここでそれまでの連携、つまりは円陣が災いした。外側の騎士達は内側に、内側の神官たちは外側にと二つの動きがぶつかることになった。
そこにジフ様が『ちょっとお話したいなぁ』という感じで手を伸ばしたのだ。
結果・・・・・・人間達は完全に混乱した。
騎士の振るう剣は神官を傷つけ、逃げようとする神官は騎士の動きを阻害するという最悪の状況が生まれたのだ。
そんな状況でまともな返事ができるわけもなく、一人また一人とあの勇者のことを話せないままジフ様の丁寧な質問に頭を落とされていった。
今は、ジフ様の棺に剣が効かないことをやっと理解した騎士達が逃げ始めたところだ。騎士達の半分はジフ様を挟んで反対側に逃げた・・・・・・それはいい。問題は、残り半部がこちら側・・・・・・私に、いや、私達に向かってきたことだ。
早くジフ様の近くに行きたいのに! とても邪魔だ!
「その音を止めろぉぉぉぉぉぉ!」
焦る私にまた騎士が突っ込んでくる。
トゥルルルルルルルルルルルルルルルル! ドトゥドトゥドトゥドトゥドトゥドトゥ!
そして私の背後からまた効果音が流れる。緊迫感と戦闘意欲を煽るような音楽だ。
「もおぉぉぉ! やめろぉぉぉぉぉぉ!」
騎士が叫びながら剣を振り下ろしてきた。切羽詰っているのかあまりにも大振りだ。
私は、身をそらすことで容易く避けると騎士の足に右手を引っ掛け二人目と同じように処理をする。
「グガアァァァアナ!?」
ダァァァン!
騎士が絶命すると気分が落ち込む残念な音色が短く響いた。
私は、背後を振り返り注意する。
【人間寄ってくる。止めろ】
「スキュル?」「ワァフン?」「キュン?」「チュウ?」「ピョン?」「ニュア?」
柱の影や足元に隠れる死体獣踊子隊は、可愛く鳴くが私は躊躇わない。
この子達は、人間達が命を落とすたび、ジフ様が新たな拷・・・・・・尋問を開始するたびに悲劇的な音を鳴らすのだ。その音色は徐々に、しかし確実に人間達の心に影響を与えた。
人間は死に損ないに人生の最期を奏でられるのは頭にくるようなのだ。
あげくの果てにジフ様から逃げたのにわざわざ私に挑んでくる。
「神よ我が身と魂をサギャ!?」
ダァァァン!
またジフ様が人間――怪我で動けない神官に尋問を終えた。死体獣踊子隊も断末魔に合わせて楽器を鳴らす。
しかし私は注意しない・・・・・・もうこの回廊に生きる存在はいないからだ。
「勇者はどこだ?」
近づいてきたジフ様が私に尋ねてくださる。
ここであのことを伝えねば!
【ジフ様は出世しました。第七席です】
「・・・・・・第七席・・・・・・」
【大出世です! 勇者はもういらないです!】
私はここぞとばかりに強調した。ジフ様にこれ以上危険・・・・・・あの勇者と戦う必要がないことを知っていただくためだ。もう後は深い迷宮の奥、高笑いしながらたまの来客に応じればいいのだと。
・・・・・・私も同胞の仇は討ちたい。しかし今も昔も明後日もジフ様の安全が最優先である。
「・・・・・・そうだ第七席だ。私は出世した」
ジフ様は思い出すように噛締めるように呟く。溢れる精気と酔ったような言動が落ち着いてくる。
よかっ・・・・・・
「だが! 足りない!」
ジフ様?
嫌な予感に私は背骨を震わした。
手に入らないものを求めることを
悪足掻き
とも言います。