愚か者
未知の敵に挑むときは慎重に戦いましょう。
「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」
勇ましく叫びながら三人の騎士が人間達の集団から跳び出した。先ほどの狼狽はもう感じられない。
目指すはジフ様・・・・・・私のことは眼中にないようだ。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!
死体獣踊子隊も盛り上げるように勢いのある音色を流す。
「はっ!」
一人は右、銀の剣が風を斬る。
「たっあぁぁぁ!!」
一人は左、白く光る刃が地から伸びる。
「だすとぉぉぉ!!!」
最後の一人は正面、灰に塗れた鉄塊が天から落ちる。
どれも私を粉々にした勇者の仲間――鉄鎚の戦士に匹敵する者だろう・・・・・・しかし私は慌てなかった。あいつらは勇者ではないからだ。
ガガッガッガ!
三撃が連なり一つの打音となる。
人間達の間抜けな声と共に。
「ハ?」「アッ?」「エ?」
全ての攻撃は、ジフ様の両手、あるいは頭蓋に頂く冠の先端で・・・・・・止められていた。
「邪魔だ」
ジフ様は煩わしそうに言いながら手と頭を振るい騎士達を突き放した。
目と口を開いたまま人間達は後退する。その様はジフ様を恐れるようにも見える。
そして・・・・・・それを追うかのごとくジフ様が叫ぶ。
「勇者はどゴだぁぁぁ! どこに隠したアァァァ!! 出世を返せぇぇぇーーーーーー!!!」
やはりいつもと様子が違う。いつもなら相手の首を絞めながら尋ねるのに。
「狂化している・・・・・・これが死霊軍団の最奥、死霊王の正体なのか」
人間よ! ジフ様はジフ様だぞ!
「大神官様! ここは一旦引いて他の勇者と合流を!」
「・・・・・・それもやむなしか」
人間達が暢気に逃げる算段を開始する・・・・・・自分達の失言に気づかずに。
「ゆ・う・しゃ!?」
ジフ様が嬉しそうに笑った。先輩が恋人の名前を言うような口調だ。ちなみにその翌日、先輩はふられた。
さて私もジフ様を手伝おう・・・・・・一人生け捕れば十分だろう。あの勇者の居場所を吐かせ・・・・・・あれ? 私はジフ様を止めにきたような。
「ユウシャーーーーーーーーー!!!」
私が本来の目的を思い出したときジフ様が人間達に突進した。
ああ! いつものジフ様だ!
「神聖騎士守れ! 神官は二班に分かれて後退せよ!」
紫の衣を着た大神官――人間達の指揮官が命令を下すがジフ様の動きのほうが早い。
「ぐほぇぇぇぁぁぁっ!!!」
人間達に迫ったジフ様は、吐き気を催す声と共に口から黒い粉塵を撒き散らした。青く光っている・・・・・・棺に詰めた同胞の灰だろう。
「あっ!」「目ぎゃ!」「目潰しかひごっほ!」
「死者の灰だ! 吸い込むな! 騎士は神官を中心に円陣を組め! 神官は灰の浄化をしろ!」
視界が黒く染まる中、赤く光る人影が白く光る人影を囲むように並びを変えていく。
命令に対する動きに無駄がない。指揮官を信頼しているのだろう。同士討ちを防ぎ守りを固めて状況を改善する判断も素晴らしい。
・・・・・・ジフ様が相手でなければ。
私は黒い粉塵の中、赤と白を見下ろす青を見ながら思った。青い光――陰の精気を撒き散らし人間達の頭上に舞うジフ様だ。
「出世はぁぁぁぁぁぁどきょぉぉぉぉぉ!?」
急降下しながら叫ぶジフ様に人間達が頭上を仰ぎ・・・・・・
「盾をズジョボェ」
指揮官の命令は、果実を叩き潰すような音に掻き消された。
同胞の灰が地に落ち視界が戻ってきた。
人間達は円陣を組んだままだ。しかしその視線は外側ではなく内側に向いており、騎士の剣は地を向き神官の腕は恐怖に震えていた・・・・・・柘榴の果肉と汁を浴びながら。
「勇者はどきょだ?」
ジフ様が問う・・・・・・棺の下の真っ赤になった大神官に。
「・・・・・・」
返事はなかった。
無理もない・・・・・・口も喉もないのだから。
ジフ様は頭蓋骨を傾げ今度は自分を囲む神官や騎士達に問う。
「勇者はどこだあ?」
「「「「!ーーーーーーーーーー!」」」」
今度も返事はなかった。
そこにあるのはただ一つの感情のみ。
ジャーーーーーーーーーン!!!
可愛い小動物たちが大きな音で鳴らす。
恐怖がはじける。
相手が悪いと全滅します。




