ジフ様を追え
迷宮に(自分から)消えたジフ様。
凶悪な敵(勇者)の魔の手(正義の鉄鎚)より早く見つけましょう。
・・・・・・ジフ様がヒロインのようです。
「・・・・・・」
一同が呆然と穴を見る中、
「・・・・・・ドルフィーレン、片付けておけ」
最初に視線を外したのは死霊王様だった。机に向かい作業――勉強なのだろう――を再開する。それを皮切りに全員が動き始める。
私がやることは決まっている。ジフ様を追いかけるのだ。勇者に遭遇する前に御止めしないといけない。”骸骨洞窟”の二の舞は御免である。
私は、平らになったがらくた――ジフ様が吹き飛ばした元山である――を駆け壁の穴へと向かう。
「ま、待てっ! 私も行くぞ! 骸骨兵!」
「デニムちゃ~ん、お先ね!」
死霊魔術師デニム様の声が背を叩き、アーネスト・エンド様が私の横に並ぶ。
「俺も行くぞ!」「御供します!!」
バトゥーリア様とマサ様もジフ様を心配して・・・・・・
「バトゥーリア様は、司令室にて指揮を御願いします」
「なぜだ! ドルフィーレン! 死霊王がいるだろ!」
「死霊王様は、『些事は任せる』とのことです」
「言ってねぇだろ!」
「些事は任せる」
「とのことです」
「・・・・・・」
・・・・・・バトゥーリア様はついてこれないようだ。
「俺にも戦わせろぉぉぉーーーーーーーーー!」
バトゥーリア様の遠吠えが響く中、私達三人はジフ様を追う。幸いジフ様が開けた穴は人一人楽に通れるほど大きい。
「兄貴!! 御供します!!」
謁見の間から届くマサ様の兄弟愛に胸骨が震えた。
私も負けてはいられない。
主人愛を滾らせ私は進む。
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ジフ様の後を追うのは非常に楽であった。崩れ落ちた壁、砕かれた岩、倒れている柱、竜でも暴れたような破壊の痕が続いている・・・・・・私はジフ様が怪我をしていないか不安に襲われる。
「・・・・・・アーネスト・エンド様、”絶望の岬”は巨大な大岩を魔術で刳り貫いたと聞いたことがあるのですが」
「大丈夫よ~ん! デニムちゃん! 少々壊されたぐらいで崩れたりしない・・・・・・」
桃色道化師――アーネスト・エンド様は、途中で顎骨を閉じた。視線の先に通路を裂く罅割れ、いや、長く深い亀裂を見たためだろう。棺が落ちるほどの幅はないからジフ様が落ちている可能性は低い。
「早くジーン様をとっ捕まえましょう!」
「・・・・・・えぇ! 一刻も早く!」
なぜか御二人のヤル気が上昇している。
さらに進むと死に損ないを見つけた。一応確認のため足を止める。
恐らくは死霊騎士だろう。なぜ恐らくかというと・・・・・・
「これは!?」
「あららら? 粉微塵」
そうバラバラなのだ。特徴的な黒い鎧も骨の体も、大は掌、小は小指程度まで分解されている。
頭蓋骨裏に私の体を粉砕した勇者の仲間――鉄鎚の戦士が浮かぶ。
【おのれ! 勇者!】
「影の鎧は、修復の魔術が刻まれているはずですが・・・・・・」
「魔術・・・・・・違うわね。精気で引き裂いたように見えるわ~ん。これじゃ魔術を刻んでいても無駄よ」
残虐な勇者達の行いに怒る私の横で、デニム様が困惑しアーネスト・エンド様が冷静に確認している。
「精気ですか?」
「えぇ、とても強い精気・・・・・・陰のね」
「陰ですか・・・・・・」
「他の精気が感じられないもの・・・・・・とにかく急ぎましょう!!」
「はい!!」
御二人のヤル気が急上昇した。私と同じく勇者の非道にジフ様の危機を感じたのだろう。
しかし私達が再び走り始めたときそれが襲ってきた。
突風である。
「うぉぉぉーーー!」「あらぁぁぁーーー!?」
通路の先から衝撃のような風が吹き抜けたのだ。デニム様とアーネスト様の御二人は声だけ残して飛ばされていく。私も咄嗟に踏ん張ったが足骨を掬われ倒れてしまう。
石の床を鎧が叩く耳障りな音を聞きながら思う。
攻撃!?
地に伏しながらも前方を睨むと複数の人影と宙を舞う棺――ジフ様を見つけた。
【ジフ様!】
体を押さえつける風を振り払い立ち上がった。全身の骨が軋むが気にならない。
私は風渦巻く戦場に飛び込む。
勇者からジフ様を救うために。
主人公より強いヒロインなんていくらでもいます。
役柄も肩書きも能力には関係ありません。