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骸骨の夢  作者: 読歩人
第六章 人類反撃編
89/223

脅威

掟破りの団体勇者。


死霊軍団の対応は?

『我々は勇者である』


 御伽噺の英雄、魔王の天敵、現代に蘇った伝説、歩く理不尽、同胞の仇・・・・・・そしてジフ様の出世を阻む者。


 腐った執事――ドルフィーレンさんだったか――が告げた勇者襲撃の報に対する反応はさまざまだった。


「勇者か」


 死霊王様は、手を止め虚空を見上げながら呟く。その視線はより遠くを見ているようだ。


本当(マジ)か!」


 いつの間にか合流したバトゥーリア様は素直に驚く。ただしその驚きは喜色を帯びていた。


「兄貴どうしやす!!」


 その弟君(おとうとぎみ)――マサ様は冷静に叫ぶ。もちろん喜びが透けて見えた。


「ふぅ~ん? 複数の勇者?」


 頭蓋骨を傾げるのは、アーネスト・エンド様。悩みながらもその仕草は、余裕を感じさせた。


「勇者・・・・・・」


 娘さんとの見合いをジフ様に勧めていたデニム様は、顎骨を大きく開けて動きを止める。見たことがあるような無個性な反応だ。


 そして偉大なる主――ジフ様は・・・・・・


「勇者・・・・・・」


 顎骨を大きく上げて動きを止めていた。目玉と舌があったらさぞかし派手に飛び出していただろう。地獄の覇者にも見える装いと庶民的な反応の食い違いが、他とは違う味わいを生んでいる。


 流石はジフ様!!! この感動久しぶり!!!


 そして、私はそんな皆様の様子を見ながら・・・・・・現実逃避していた。


 当然のことである・・・・・・勇者・・・・・・もし、うっかり意識してしまったら。


 ・・・・・・勇者・・・・・・灰となった顎割れ死体騎士。


 ・・・・・・勇者・・・・・・砕かれ散乱する蛇の骨。


 ・・・・・・ゆうしゃ・・・・・・炎に包まれ崩れる超蛇骨兵スーパーバイパーヘッドスカル


 ・・・・・・ユウシャ・・・・・・ジフ様の断たれた頭蓋


 ・・・・・・ユ・ウ・シャ・・・・・・コロス!


【ユウシャ! ギュウシャ!! ギョウザ!!!】


 溢れる狂気が部屋を揺るがした。滅ぼされた恨みか蛇骨の腕が出鱈目に宙を駆ける。


「狂化だな」「おぉぉぉ! いい気合だ!」「ですね!! 兄貴!!」「殺す(やる)気満々ね」「骸骨兵(スケルトン)落ち着け! ジーンもっ、いや、ジーン様も止めろ」


 ユウシャコロス・・・・・・その想いが体中の骨に満ちる。周囲が何か言っているが頭蓋骨の中まで届かない。


「そうだ、私は勇者の剣で・・・・・・」


 しかしあの方の・・・・・・ジフ様の・・・・・・微かに震える御声が私の魂に僅かな冷静さを与えた。


「頭を斬られ・・・・・・」


 勇者・・・・・・同胞の仇、ジフ様の敵、殺すべきもの・・・・・・しかし! しかし!! それは、本道に非ず!!! 優先すべきはジフ様!!!!


「倒され・・・・・」


 まずは恐怖に震えるジフ様を安心させなければならない。


【ジフ様、御安心ください。今度こそは・・・・・・】


「出世を逃した!!!」


 不安を取り除こうとしたそのときジフ様の声から震えが消えた。私の想いが通じて安心したと思ったが・・・・・・違うようだ。今度は体――ほとんどは棺の中だ――が震え始めたのだ。


「あの時・・・・・・大人しく私の糧になっていれば・・・・・・」


 呟きながらジフ様が再び宙に浮かぶ。黒と金の衣を翻す半身を棺に包まれたジフ様・・・・・・とてもこの世の存在(もの)には見えない。


「こんどこそ! こんどこそやらせはせん!! いや! 二度とやらせはせん!!! 出世の邪魔は絶対にさせん!!!!」


 叫び! 宣言し!! 怒り狂う!!!


「欲望の権化か」「こっちもいい気合だ!」「ですね!! 兄貴!!」「ジフ様?」「こんどはおまえか! もう出世したんだ! 落ち着け!」


 ボーーーッとジフ様を見上げていた私は、周りの声に我に返る。


 ジフ様・・・・・・もう出世しましたよ・・・・・・もう成果を上げなくてもいいんですよ。


 そう伝えようとした。しかしジフ様はさらに早く激しく猛っていた。


殺さ(やら)れる前に、殺し(やり)ましょう!!! 昔の人はいいことをいゅゅゅーーーーーーーーーう!!! ヒャヤハァァァァァァーーーーーーーーーーーー!!!」


 あああぁぁぁーーージフ様が飛んでいく!


 がらくたの山を吹き飛ばしながら!



 灰色の粉塵を撒き散らし!!




 部屋の壁を打ち抜き!!!





 たった御一人で!!!!


 ・・・・・・いや、死体獣踊子隊ゾンビビーストダンサーズは効果音を奏でてついていった。


「・・・・・・」


 死霊王から私まで全てが全て、ただただ穴の開いた壁を見つめる。 

掟破りには掟破り。


ジフ様が発進しました。


独断専攻? 遊撃ですよ!

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