脅威
掟破りの団体勇者。
死霊軍団の対応は?
『我々は勇者である』
御伽噺の英雄、魔王の天敵、現代に蘇った伝説、歩く理不尽、同胞の仇・・・・・・そしてジフ様の出世を阻む者。
腐った執事――ドルフィーレンさんだったか――が告げた勇者襲撃の報に対する反応はさまざまだった。
「勇者か」
死霊王様は、手を止め虚空を見上げながら呟く。その視線はより遠くを見ているようだ。
「本当か!」
いつの間にか合流したバトゥーリア様は素直に驚く。ただしその驚きは喜色を帯びていた。
「兄貴どうしやす!!」
その弟君――マサ様は冷静に叫ぶ。もちろん喜びが透けて見えた。
「ふぅ~ん? 複数の勇者?」
頭蓋骨を傾げるのは、アーネスト・エンド様。悩みながらもその仕草は、余裕を感じさせた。
「勇者・・・・・・」
娘さんとの見合いをジフ様に勧めていたデニム様は、顎骨を大きく開けて動きを止める。見たことがあるような無個性な反応だ。
そして偉大なる主――ジフ様は・・・・・・
「勇者・・・・・・」
顎骨を大きく上げて動きを止めていた。目玉と舌があったらさぞかし派手に飛び出していただろう。地獄の覇者にも見える装いと庶民的な反応の食い違いが、他とは違う味わいを生んでいる。
流石はジフ様!!! この感動久しぶり!!!
そして、私はそんな皆様の様子を見ながら・・・・・・現実逃避していた。
当然のことである・・・・・・勇者・・・・・・もし、うっかり意識してしまったら。
・・・・・・勇者・・・・・・灰となった顎割れ死体騎士。
・・・・・・勇者・・・・・・砕かれ散乱する蛇の骨。
・・・・・・ゆうしゃ・・・・・・炎に包まれ崩れる超蛇骨兵
・・・・・・ユウシャ・・・・・・ジフ様の断たれた頭蓋
・・・・・・ユ・ウ・シャ・・・・・・コロス!
【ユウシャ! ギュウシャ!! ギョウザ!!!】
溢れる狂気が部屋を揺るがした。滅ぼされた恨みか蛇骨の腕が出鱈目に宙を駆ける。
「狂化だな」「おぉぉぉ! いい気合だ!」「ですね!! 兄貴!!」「殺す気満々ね」「骸骨兵落ち着け! ジーンもっ、いや、ジーン様も止めろ」
ユウシャコロス・・・・・・その想いが体中の骨に満ちる。周囲が何か言っているが頭蓋骨の中まで届かない。
「そうだ、私は勇者の剣で・・・・・・」
しかしあの方の・・・・・・ジフ様の・・・・・・微かに震える御声が私の魂に僅かな冷静さを与えた。
「頭を斬られ・・・・・・」
勇者・・・・・・同胞の仇、ジフ様の敵、殺すべきもの・・・・・・しかし! しかし!! それは、本道に非ず!!! 優先すべきはジフ様!!!!
「倒され・・・・・」
まずは恐怖に震えるジフ様を安心させなければならない。
【ジフ様、御安心ください。今度こそは・・・・・・】
「出世を逃した!!!」
不安を取り除こうとしたそのときジフ様の声から震えが消えた。私の想いが通じて安心したと思ったが・・・・・・違うようだ。今度は体――ほとんどは棺の中だ――が震え始めたのだ。
「あの時・・・・・・大人しく私の糧になっていれば・・・・・・」
呟きながらジフ様が再び宙に浮かぶ。黒と金の衣を翻す半身を棺に包まれたジフ様・・・・・・とてもこの世の存在には見えない。
「こんどこそ! こんどこそやらせはせん!! いや! 二度とやらせはせん!!! 出世の邪魔は絶対にさせん!!!!」
叫び! 宣言し!! 怒り狂う!!!
「欲望の権化か」「こっちもいい気合だ!」「ですね!! 兄貴!!」「ジフ様?」「こんどはおまえか! もう出世したんだ! 落ち着け!」
ボーーーッとジフ様を見上げていた私は、周りの声に我に返る。
ジフ様・・・・・・もう出世しましたよ・・・・・・もう成果を上げなくてもいいんですよ。
そう伝えようとした。しかしジフ様はさらに早く激しく猛っていた。
「殺される前に、殺しましょう!!! 昔の人はいいことをいゅゅゅーーーーーーーーーう!!! ヒャヤハァァァァァァーーーーーーーーーーーー!!!」
あああぁぁぁーーージフ様が飛んでいく!
がらくたの山を吹き飛ばしながら!
灰色の粉塵を撒き散らし!!
部屋の壁を打ち抜き!!!
たった御一人で!!!!
・・・・・・いや、死体獣踊子隊は効果音を奏でてついていった。
「・・・・・・」
死霊王から私まで全てが全て、ただただ穴の開いた壁を見つめる。
掟破りには掟破り。
ジフ様が発進しました。
独断専攻? 遊撃ですよ!