彼の者、再び!
彼が再登場!
自らの正義を胸に、我が道を進むあの人です。
「ジュウゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーセッェェェェェェーーーーーーーーーーーー!!」
蒼の輝きと闇の奔流の中、懐かしき声と共に棺を突き破り白き骨腕が現れる。
ファッファッファッファッファァァァァァァァァーーーーーーーーー!!!
おっ!
死体獣踊子隊が見たこともない道具――楽器だろう――で勇ましい音楽を奏で始めた。ジフ様の健やかな目覚めのために気を利かせているのだ。
「チュウ!」「スクィル!」
死体鼠と死体栗鼠が棺を駆け上がりジフ様の両腕に指輪や腕輪をカチカチカチと着けていく。金や玉に細かい装飾が施されたものだ。
視界の端にがらくたの山を漁っている死体獣達がいる。
問題ない……ジフ様の復活場面に戻ろう。
「しょぉぉぉぉぉぉーーーーーーしぃぃぃぃぃぃーーーーーーん!!!」
再びの絶叫は、まるで空間を歪めるかのごとく黒い穴を無数に出現させる。
ファッ! ファ! ファ! ファファファ~~~~~~!!
「きゃーーーん! ジフ様! 凄いわ!! 空間が歪んでるぅ!!!」
音楽にあわせてアーネスト・エンド様が叫んでいる。
どうやら本当に空間に穴を開けているらしい。起きるだけで世界を歪ませるなんてジフ様は凄い。
ボト
虚空に開いた穴から見覚えのある三人が落ちてきたが……気しない。
ジフ様は、豪華に飾られた両腕を握り締め最後の咆哮を上げる。
「ワタシィィィハカエッテキィィィィィィタアァァァァァァァァァァァァ!!!」
棺を打ち抜き唯一にして絶対の主――ジフ様の頭蓋骨が登場する。
おおおおおぉぉぉぉぉぉぉ! ジフ様!!
「ハハハハハハハハハッハハハハハハッハハハハハハハッ……」
「ピョン!」
高笑いするジフ様に死体兎が蛇を模った冠を被せた。
わっ私も何か御渡ししなければ!
視線を巡らすと足元に黒地に金糸の豪華な旗がある。身を屈め取り上げた。
これがいい……掴んでも溶けないし。
髑髏と螺旋が描かれた布、私はそれをマントのようにジフ様の肩……は棺から出てないので棺ごしに巻きつける。
うむ! 棺が隠れて丁度よい。
金と黒の衣から覗く頭蓋骨、そこに頂く王冠、財宝に包まれた両腕・・・・・・正に死者の王である。
「ピョン!」「ニュアー!」「コーン!」「チュウゥ!」「スキュウゥ!」
死体獣踊子隊達も感激したのか一斉に鳴く。
【ジフ様】
私は万感を込め呼びかける。
「ハハハハハハハハハッハッ、ん? ……なんだ?」
【よくぞ再び……】
「誰だ? おまえ?」
…………えっと……最近耳が遠くなったようだ。ジフ様が『誰だ』とか言ったような気がした。
【ジフ様! 大鉈!! 大鉈!!!】
私は念のため愛用の大鉈を抜いてから、ジフ様に見せつけ連呼した。
「な、なんだ! 危なっ……鉈……大鉈か! おまえは、いや、私は一体?」
良かった。やはりジフ様は覚えていてくださった。一瞬記憶喪失なんていうお約束の展開を想像してしまった。
「私は……勇者に挑んで……全身に毒蛇を……腕を引き裂いて……そして」
なんかジフ様が頭蓋骨を傾げている。
「ジーン!」
ん?
さっき虚空から落ちてきた三人の一人――死霊魔術師デニム様がジフ様に駆け寄った。
「ジーン起きたのか! 大丈夫か。意識はあるんだな。良かった! 本当に良かった! あの状態から覚醒するとは……流石だ! 昔からいつかはやる男だと思っていたぞ!」
「えっ! はっ! へっ! デッ、デニム! なぜ? ……そうだ! 出世を倒して勇者せねば! 私はおまえを!」
「デニムちゃ~ん! ジフ様が混乱しているわ。少し落ち着いて……そして」
ジフ様との再会を激しく喜ぶデニム様をアーネスト・エンド様が嗜めた。
そう、まず最初に感動の再会を果たすのは私の特権で……
「そして、初めましてジフ様。わたくしアーネスト・エンドと申します。御会いできて感激です……第七席への昇進、おめでとうございます」
抜け駆けである。
「アーネスト……最後の道化師か! ……なぜ桃色なんだ……それより第・七・席……そうだ! そうなんだ!! 私はっ!!」
「この桃色の道化服は、ジフ様の偉大なる創造に魅せられて……」
私とジフ様の感動場面を邪魔して桃色道化師がジフ様を独り占めする。
【アーネスト・エンド様、ジフ様……】
「ジーン! 第七席かっ! 凄いじゃないか! これからはジーン様だな……実は、家の娘達が最近幽霊になってな。どうだ? 見合いでもして……」
抗議しようとした私を今度はデニム様が突き飛ばす。
おのれ! 神め! そんなに私が憎いのか!
神を憎悪しながら私は立ち上がり再びジフ様に……
「御話中失礼致します」
今度は誰だ!
私が振り向くと始めてみる執事――腐っているから死体兵だろう――が立っていた。
実物の死体兵執事……想像していたよりいい。
「な~にん? ドルフィーレン」
「”絶望の岬”に数十名の人間が侵入しました」
? 以前もこんなことがあったような?
その身なりのいい死体兵の言葉に私は既視感を覚える。
「さっさと始末すればいいじゃな~い」
「大陸中央への援軍で指揮官……死霊魔術師様がいません」
そう、あれは……”骸骨洞窟”で……
「たった数十人でしょ? 死霊騎士団で十分じゃない」
「侵入者は数グループに分かれ、それぞれが神官を連れています」
私の同胞を殺し、ジフ様を奪ったあいつら……
「各グループは、このように名乗ったそうです。『我々は勇者である』と」
勇者――私の絶望である。
ジフ様が大好きな出世の糧――脇役の再登場。
ジフ様復活を記念して団体さんです。