死霊王
あの幹部達の上司です。
どんな奴やら・・・・・・
「あそこにいらっしゃるのが死霊王様よ~ん」
あっさり谷を抜けた私達は、少し広い空間に出た。広いと言ってもジフ様の部屋より狭いのだが・・・・・・とにかく皿や毛布などが散らばる空間の中心にその人物はいた。
【・・・・・・学生?】
そうアーネスト・エンド様が示す先にいたのは、机にかじりつくように何かを書いている・・・・・・青年だった。書物を読んでは手を動かし、少し悩んでは手を動かし、たまに長い白髪をかいては手を動かしている。
生きた人間そっくりなのだが敵意を持つ前に、死霊王という名前からあまりにも斜め下の外見に戸惑ってしまった。服装も灰色の貫頭衣でどこの苦学生かと・・・・・ただ・・・・・・その気配だけは、奥さんに離婚を切り出された兵士長に似てやばいものを感じる。
「確かに学ぶために生きているから学生って呼んでも間違いじゃないけど・・・・・・ああ見えて首席様の師匠で死霊軍団の支配者なのよ」
アーネスト・エンド様が再度教えてくれるが・・・・・・ヨミヨミカキカキ・・・・・・やはり王には見えない。
私の疑念が晴れる前に桃色の道化師は、机に近づき声をかける。とても静かな冷たい声を響かせる。
「死霊王様」
・・・・・・同一人物が喋ってるように思えない。
「ん」
道化師の呼びかけに死霊王は短く声を漏らすだけだ。顔を上げず、手も止めず、視線さえ向けない。
耳が遠いのだろうか? 若いのに・・・・・・よし!
「死霊魔術師の昇進を許可願います」
「ヒドラーに任せる」
アーネスト・エンド様がジフ様の昇進を求めると今度ははっきりと応じた。私は伸ばしていた左手を引っ込める。気づいてないから肩を叩こうと思ったのだ。
「首席様は戦死しました」
「・・・・・・逃げたな」
やっと死霊王様が手を止め顔を上げた。長い髪に半ば隠されているが、髭などはなく健康そうな顔で・・・・・・なぜか見てるだけで不安になる。どこかで見たような気がするのだ。
「逃げた・・・・・とは?」
「ヒドラーは不死身だ。昼寝をしているだけだ・・・・・・桃・・・・・・いい」
「人間達の新兵器で吹き飛ばされたのですが」
「新兵器か・・・・・・天使だ」
「御存知なのですか?」
「古代からある神の兵器だ。三角形、六枚羽根、円盤そして塔、どれでもヒドラーは殺せない」
「弱点は?」
「無い・・・・・・燃費が悪い点だけだ」
「燃費、ですか?」
「神官が身も魂も捧げるのだ」
身も魂も捧げるって・・・・・・どこの悪魔ですか。
「悪魔?」
アーネスト様も同じ感想のようだ。
「それで誰の昇進だ? 早くしろ研究の邪魔だ」
「死霊魔術師第459席ジフ・ジーンを聖女殺しの功績により第・・・・・・」
「聖女だと!?」
『聖女』その言葉が桃色道化師によって紡がれた途端、質問に答える教師のような態度が一変した。いや、常人程度の感情がやって出たというべきか。とにかく体ごとアーネスト・エンド様の方を向くほどには興味があるようだ。
「聖女はどうなった?」
「死、にました」
「亡骸は?」
「分かりません」
「そうか・・・・・・」
死霊王様は、聖女に興味があるようだが・・・・・・それよりジフ様の出世である!
私は横道に逸れる話をジフ様の昇進に戻すべく動く。
【ジフ様の出世!】
「・・・・・・餓者髑髏と死霊魔術師か、聖女殺しだな・・・・・・好きにしろ些事は任せる」
私に一瞬だけ視線を向けそう言うと死霊王様は、再び机に――元の状態に戻った。『聖女』に比べればどうでもいいとはっきり分かる。しかしそんなことは私もどうでもいい。
好きにしろ! ・・・・・・任せる!! ・・・・・・!!!
言葉の意味を理解した私は、右腕で巻いたジフ様にさらに抱きついた。
【ジフ様!!! やりました!!! 出世です!!!】
「静かに!」
アーネスト・エンド様が静かに怒鳴るという器用なことをされた。しかし私は止まらない。ジフ様に昇進を全身で伝える。
「・・・・・・しゅーせっ・・・・・・しょーうしーん・・・・・・」
ジフ様の反応も大きい。
「とにかく静かにしなさい! 早く辞令を伝えたいの!」
アーネスト・エンド様も口では静かにしろと言いつつも声に喜びが溢れている。
「・・・・・・ジフ様、あなた様をただ今をもって第七席に任じます」
【ジフ様! 七席!! 大出世!?】
「・・・・・・」
昇進の辞令が終わると棺の中から響いていたジフ様の声が聞こえなくなる。
は、てっ!
私が訝しげに思う間もなく棺から右腕――巻きつけてた蛇骨がはじかれた。
棺から漏れる暗い光によって・・・・・・
ジフ様!!
棺が宙に浮く・・・・・・
起床!!!
棺の蓋が・・・・・・
破れる!?
意外とまとも・・・・・・今のところは・・・・・・
珍しく次回予告 ジフ様復活!?