謁見のために
裏道からの迷宮攻略あこがれますね。
楽してハイリターン!
「不老不死と死者蘇生ですか?」
両開きの扉――ほとんど門である――を狭そうにくぐりながら死霊魔術師デニム様が尋ねた。それに私達を先導する桃色道化師――アーネスト・エンド様が答える。
「そうよん。人間の夢、永遠の若さと命。それに失われた者の復活よ。まっ、命令した王様はとっくに亡くなって、今は死霊王様が自ら望んでやっているんだけど・・・・・・あら?」
アーネスト・エンド様は、そこで一旦言葉を切り歩みを止めた。
どうしたのだろう?
頭蓋骨を一瞬傾げた私は、すぐにその理由に気づいた。扉の先が青一色で何も見えないのだ。通路の明かりが届く範囲に辛うじて本と巻物が積まれているのが見えるだけだ。
「死霊王様ったらまた明かりも点けないで・・・・・・死者祟火」
青い世界を血のような赤が照らし、本と巻物そしてがらくたの山が見えるようになった。倉庫か書庫なのだろうまったく整理されてなく、人一人が通れる隙間がある程度だ。
「アーネスト様・・・・・・その魔術は、明かりに使うような・・・・・・それに死霊王様に謁見するのでは?」
長身の死霊魔術師がおずおずと言った。私もここに王様がいるとは思えない。兵舎の武器庫のほうがまだましである。
「死者祟火、魂しか燃やさないから明かりに便利なの。それにここが謁見の間、兼研究室なのよ。玉座も・・・・・・どこかに埋まってるわ」
「謁見の間が研究室・・・・・・」
「デニムだっけ? あきらめな! 死霊軍団は、幹部が幹部なら王も王なんだ!」
「俺も初めて謁見したときは唖然としやした!! 部屋もですけど王様もてんで弱そうで・・・・・・」
理想と現実の狭間で苦悩する賢者のように嘆くデニム様をバトゥーリア様とマサ様が慰めて・・・・・・いや、同情している。
「本とか周りのものは崩さないようにね。全部、魔術書とか魔術を刻んだ魔道具だから下手に動かすと大変なことになるわよ~ん」
再び道案内――というか部屋案内――を始めたアーネストエンド様が私達に注意をする。私は、ゴスバタドンガンッとできるだけ慎重にその後についていく・・・・・・ジフ様の棺が少々山を崩したが狭いので仕方がないことだ。
「おわっ」「つっ! なんで床に穴が!」「これ異世界追放!! やべっすよ!!」
後ろから随分とにぎやかな声が聞こえた。話がはずんでいるのだろう。
「御二人とも手を放してください!」「馬鹿野郎! 死に損ないをこれ以上見捨てられるか!」「流石っす!! 兄貴こそ死に損ないの鏡っす!!」
徐々に遠ざかる声は、やたら熱い男の友情に溢れていた。”骸骨洞窟”の死に損ないを思い出す。
・・・・・・コメディが懐かしい。もうすぐだぞコメディ、顎割れ死体騎士、蛇骨兵、超蛇骨兵・・・・・・
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「もうそろそろよ~ん。この谷を抜ければ・・・・・・あら? 他の三人は?」
本の山を越え、巻物の川を渡り、カサカサ這う黒い蟲を無視して進むことしばし、前を歩くアーネスト・エンド様がこちらを振り向いて不思議がった。私も背後を見るが死体獣踊子隊以外誰もいない。
はぐれたのだろうか? 蛇嫌いの学者の冒険譚のような険しい道のりだったから仕方が無い。
私は、頭蓋骨に残る毛ほど悩んでからアーネスト・エンド様に進言する。
【ジフ様の出世】
「そうね! 三人とも人間じゃないんだし大丈夫よね!」
意見が一致した私とアーネスト・エンド様は死霊王様に会うべく最後の障害に挑む。
ノーリスクとは言っていません。
むしろ裏ダンジョンなんて・・・・・・