絶望の岬
絶望の岬に辿り着く主人公達。
死霊王の迷宮をどう突破するのか?
「ついたわよ~ん」
黒い光――闇に呑まれた次の瞬間、アーネスト・エンド様がそう言われた。
【えっ!】
前回――昨日の移動との違いに驚きが漏れる。昨日はもっとこう沈むような、浮かぶような感覚が長々と・・・・・・
【はっ?】
転移の違いに驚く私を更なる驚きが襲う・・・・・・周囲が凄いのだ。床の紋様は同じだが先ず部屋が広い。そして天井が高い。
立っている場所は、邪教の祭壇みたいに一段高くなっている。そこら中に篝火があり、水路まではしって・・・・・・本当に室内――建物の中なのか不安になる規模なのだ。
「ア、アーネスト様! ここは・・・・・・」
死霊魔術師デニム様が私と同じく動揺しているのか震えた声で尋ねる。
「ん? あぁぁん! デニムちゃんは初めてだもんね。驚くのも無理ないわ~ん。ここは”絶望の岬”最深部、死霊王様の個人用転移陣よ~ん」
「こっ!」「おい!」「ちょっ! 旦那!」【個人用転移陣?】「チュウ?」「ピョン?」
私を含む全員が驚きと疑問を一度に示した。
個人用って他の人が使ったら個人用ではないような?
しかし、至極まっとうな疑問を持つ私と他の方々の思いは違うようだ。
「アーーーネスト様! 死霊王様のこっこっこっこっこっじん用って!」
「おまえな! 何考えてんだ! 何使ってんだ! 何してんだ!」
「アーネストの旦那!! 迷宮に裏道転移陣から入るなんて!! 滅茶苦茶ですよ!! 俺の美学的に!!」
約一名――マサ様以外は、完全に混乱されているようだ。
しかしマサ様、裏道とは一体なんでしょうか。
疑問に思った私は一応質問する。
【マサ様、裏道とは?】
「ん!! そんなことも知らねぇのか!! ”絶望の岬”みたいな迷宮――ダンジョンには住んでる奴が楽できるように裏道・・・・・・」
「マサ! 今、突っ込むべきところはそこじゃねい! ・・・・・・アーネスト! 何やったか分かってんのか! 王の私室に裏から入るなんて謀反を疑われるぞっ!」
厚着死霊魔術師バトゥーリア様がマサ様を遮り怒声を上げた。青い光が柱のように立ち上がっている。私はジフ様の棺が倒れないよう右手に力を込めた。
「怒らないでよんバトゥちゃん。緊急時に個人用転移陣を使う許可は、前にもらっているから大丈夫よ~ん」
「なんだとっ! 許可取ってるって・・・・・・なんで!?」
「わたくしの御仕事忘れたのん? ちょっと前まで粛清とかしてたでしょ? だから他の幹部と違って秘め事が多くてね~ん・・・・・・後は分かるわよね?」
「・・・・・・処刑命令・・・・・・」
バトゥーリア様の怒りを静めた桃色道化師は、骨の顔に笑いを浮かべることでそれに答えた。
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「さあ! こっちよ。ここは死霊王様の私室みたいなものだから余計な手間を掛けずにすぐ会うことができるわ」
道化師――アーネスト・エンド様は、明るい声で私達を案内し始めた。先ほどの件については、私を含めてもう誰も話さない。ジフ様の昇進に比べれば些細なことだと分かっているからだろう。
「あっそうだわ! デニムちゃんとジフ様の骸骨ちゃんに注意事項がありま~す」
アーネスト・エンド様はそう言いながら私達を振り向く・・・・・・案内をしながら。後ろ歩きでもその歩みに変化はない。こけたりしないか心配になる。
「これから死霊王様に会うけど、余計な質問は駄目よ~ん! 死霊王様はほとんどの時間、ある研究に集中しているの。それを邪魔すると怒られるからね」
「・・・・・・そもそも裏口から謁見することは大丈夫なんでしょうか?」
「それは大丈夫よ~ん。死霊王様はそこらへん無頓着だから・・・・・・後は・・・・・・死霊王様の外見に驚かないでね。ものすごく生きた人間に似てるから」
生きた人間・・・・・・カリン様のような姿なのだろう。
「死霊王様は、防腐の魔術を使われてるのですか?」
「ん~ん? 違うわね~・・・・・・そもそも死に損ないなのかしら?」
「それはどういう?」
「これは秘密なんだけどね。死霊王様って元々スチナ王国の王族らしいの。そして何代か前の国王に死霊魔術の元となる研究をするように命令されたそうよ」
桃色の道化師は、豪奢な扉――螺旋の中心に髑髏の刻まれた扉を開けながら続ける。
「不老不死と死者蘇生の研究をね」
ゲームのラストダンジョンを攻略するたびに思います。
『絶対に裏口があるはずだ』
普通に暮らすには不便ですから。