偉い人にやすらぎを
戦いの間に訪れる一瞬の平穏。
可愛いあの子達が踊ってくれます。
・・・・・・パラパラ・・・・・・
静かな衝撃に天井から粉塵が零れ落ちる。
「アーネスト様、地脈が安定するまで大聖堂は持つでしょうか?」
「そうね~ん? さっきの死霊騎士達がやられてから震動が離れ始めたし大丈夫じゃな~い? どっちにしろ待つしかないわ~ん」
死霊魔術師デニム様の問いに桃色道化師――アーネスト様が微妙な返事をしていた。ジフ様の昇進が掛かっているのだからしっかりして欲しい・・・・・・何もできないのは私も同じなのだが・・・・・・自分の不甲斐無さに落ち込む。
「バトゥーリア兄貴!! 同門の死霊魔術師には逃げるよう遠話しときやした!! 大陸中からきてたんで焦りやしたよ!!」
「おう! ありがとよマサ! ・・・・・・ちょっと待てっ! 俺は”絶望の岬”にしか援軍頼んでねえぞ! なんで大陸中からくんだよ!」
「そりゃ兄貴のことが心配だからに決まってやす!! 聖一教の強制遠話と遠視!! あれ見たら転移してきやすよ!!」
厚着死霊魔術師バトゥーリア様と弟君マサ様は、思わず涙腺が緩むような家族愛を見せてくれた。もっとも骸骨だから涙が流れることは無い。
私もジフ様と早く喋りたい。今は地脈が落ち着くのを願うだけだ。
「あの啖呵、大陸中に流れてたのか!? ・・・・・・奴ら何考えてんだ?」
「ところで兄貴!! 他の・・・・・・首席の旦那や幹部方は今どちらに?」
「他の連中か? 人間どもの攻撃で粉微塵になった! やられたとは思えねぇがな!?」
「別れ別れにですかい!! そりゃ心配ですね!! すぐに遠話で確認を!!」
マサ様が水晶玉を撫でて、叫び始める。
「首席の旦那!! 聞こえますか!! 第十二席のマーサデゥークです!! 聞こえますか!!」
粉々にされたのに聞こえるものだろうか?
私が頭蓋骨を傾げていると水晶玉から風を切る音と共に掠れた声が漏れてくる。
『だ、れだ! 今っ! いそがしっ! 後に・・・・・・』
「チュウチュウ!!」「ピョ~ン?」「ニャ~ン!」
死体獣達が気遣うように水晶玉に向かって鳴く。相変わらずいい子達だ。
「何っ!? 『ニャ~ン!』だと! 新顔か! ねゴッグハッーー!!! やっやられはせん! やられはせんぞーーー!!! 私はっ! 私はあの子達に会うのだっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』
しかし轟音が響くと、長く伸びる絶叫を最後に遠話は途切れた。部屋の中に沈黙が満ちる。
「あれっ!!? 首席の旦那!! もしもし!! もしもし!!」
焦るマサ様。
「マサ・・・・・・今の不味くねぇか!」
さらに焦るバトゥーリア様。
「マサちゃ~ん、戦闘中に遠話は駄目よ~ん? 今みたいに気が逸れるからねん」
冷静に遠話の注意点を指摘するアーネスト様。
「他の幹部の方にも遠話は控えたほうが良さそうですね・・・・・・危なかった」
取り出しかけた水晶玉を戻すデニム様。
【・・・・・・首席様は?】
念のため確認する私。
「・・・・・・」「・・・・・・」「・・・・・・」「・・・・・・」
答えは無い・・・・・・もしかして戦死?
「チュウ~ン」「ニャニャ~ン」「ピヨ~ン」
悲しげに鳴く死体獣踊子隊が鎮魂の踊りを踊り始めた。
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「そっそうだ!! アーネストの旦那!! その格好とそちらの棺はなんですかい?」
「マサちゃん! いい質問ねーん! いいでしょう? 死に損ないの癒しのために・・・・・・」
長い沈黙を破りマサ様が別の話を始めた。他の御二人も進んで話しに参加している。
「確かにチビ達の踊りは癒されるなー!」
「ジーンっ! おまえの成長が嬉しいぞー!」
ジフ様を褒め称える話になってきたから私も嬉しい。だが若干ぎこちなく思えるのはなぜだろう。
「じゃあ!! その棺には聖女殺しがーー!!」
「そうなのよーん! 死霊王様に昇進を御願いするつもりなの! ・・・・・・そろそろ地脈も落ち着いたわねーーー!」
「では早く転移しましょう!」
「そうだな! 俺もそう思うぜ!」
「異議なし!! 兄貴について行きます!!」
【早く行く】
アーネスト・エンド様の言葉に全員の気持ちが一つになった。他のことを思うものは誰もいない。死体獣踊子隊も喜びの踊りを踊っている。
「じゃあ! 転移するわよ~ん!」
いざ行かん! ジフ様の出世のために!!!
黒い光が私達を包み込む。
一瞬の休息が長い休暇になることも・・・・・・
アンデッドも注意一秒怪我一生は同じです。
ちなみに、首席は猫派。