勝利に向かって
圧倒的な敵に勝つ方法・・・・・・
中に入って壊す。もっと大きな力を持ってくる。相手の力を利用する。
いろいろあります。
それはまだ遠くにありながらはっきりと確認できた。
とにかく大きいのだ。その異様な外見さえなければ入道雲と思ったことだろう。
水平に流れ星をばら撒く巨大な水晶と、その上に立つ高い壁と無数の塔の連なり――城がなければ。
白銀の尖塔が瞬くと本当の入道雲のように雷が地に落ちる。
【綺麗】
「そうね~ん・・・・・・下にいるのが死に損ないじゃなければね~ん」
感動する私にアーネスト・エンド様が同意を・・・・・・示さなかった。それどころか下に仲間がいるとか言われる。
私は空飛ぶ城の下に眼窩を向ける。瓦礫の山や街の壁が邪魔で確認できない。
「聖都と北聖都ノスセトの間かっ! 十万、二十万じゃねえぞ! 早く逃げろって伝えねえとっ!」
「無駄じゃな~い? 雷はともかくモーゼスお爺ちゃんを薙ぎ払った銀の流星・・・・・・たぶん聖なる光の強化連射だと思うけど~ん。あれから逃げるのは無理よ?」
「・・・・・・爺もやられたかっ・・・・・・」
御汚れ厚着のバトゥーリア様が激しく死に損ないの心配をしたが、桃色道化師の軽く冷たい指摘に絶句している。
仰ぎ見た空には、『解体ー!』と叫ぶ浮遊干物死霊魔術師の姿は無かった。
・・・・・・ジフ様・・・・・・昇進先ができました!
「ピョピョン!」「ワオ~ン!」「チュチュチュ~ン!」
空を睨むバトゥーリア様を囲み死体獣踊子隊が勇ましい踊りを踊っている。
ジフ様の昇進を喜ぶ踊りだろうか?
「ありがとよ! チビども!」
どうやら違うようだ。バトゥーリア様を励ましているらしい。
「よし! アーネスト! 行くぞ!」
精気に溢れたその姿が勇ましい声とともに空に舞い上がる。
「ええ」
珍しく真剣にアーネスト・エンド様が応じた。
「あいつらを一つ残らず叩き・・・・・・」
「さっさと逃げましょうね~ん」
「・・・・・・はあっ!?」
気の抜けた声とともにバトゥーリア様が落ちてきた。濡れた布を叩きつける音が響く。
「汚いわね~ん。血が跳ねるじゃない。気合で飛ばないでちゃんと魔術使いなさいよ~ん」
・・・・・・死霊魔術師様って気合で飛べるんだ。
「・・・・・・」
「それよりアーネスト・エンド様・・・・・・逃げるとは?」
血の海に墜落して沈黙するバトゥーリア様に代わり死霊魔術師デニム様が質問した。
「デニムちゃ~ん、性格は少し変わっているけどモーゼスのお爺ちゃんは強いわよ。魔術だけなら死霊王様に匹敵するわ。その魔術の達人がかなわない相手に勝てると思う? わたくしは思わないわ~ん」
桃色道化師は、地にめり込むバトゥーリア様に眼窩を向け続ける。
「だいたいね~ん。バトゥちゃんだって『逃げろ』って言っていたでしょう? 何、熱くなっているの? わたくし達に体温なんて無いのに」
「・・・・・・は~」
デニム様が溜め息をつき、
「・・・・・・かちっ」
地面から這い出たバトゥーリア様が顎骨打ちをした。
「でもよ! 逃げるたってどうすんだっ! さっき逃げられないって言ってなかったか!?」
「大聖堂の転移陣で”絶望の岬”へ行くだけよ~ん」
「はっ!? 何言ってんだ!」
「だ・か・ら! 転移で”絶望の岬”に行けばいいのよって言ってるの~ん」
「『の~ん』じゃねえっ! 死に損ないはどうすんだ! 今もバリバリやられてんだぞ!」
雷で焼かれる骸骨兵と死体兵の群が水晶玉に映っている。まさに地獄絵図である。
「死に損ないを助けられないのは悲しいけど。他に手は無いわ。死霊軍団の数が生かせないこの状況じゃ、どうしようもないのよ」
「・・・・・・しかたねえってのか!」
「・・・・・・」
アーネスト・エンド様の撤退意見に私を除く全員が納得しているようだ。しかし私は反対する。ここで逃げるわけにはいかないからだ。
【逃げるの反対!】
「・・・・・・戦う気なのかよ! 血塗れ骸骨騎士いい根性だな!」
「ジーンの奴はどうする気だ! 考え直せ!」
「・・・・・・わたしくにはなんとなく理由が分かるけど・・・・・・一応聞いてあげるわ~ん」
三者三様の言葉に私は続ける。
【ジフ様の出世が!】
「主想いはいいけどよ! 血塗れ骸骨騎士、頭蓋骨の中身無いだろう!」
「・・・・・・そうだな・・・・・・おまえはそういう骸骨兵だったな・・・・・・」
「予想どおりね! 大丈夫よ~ん! 死霊王様に進言すれば出世はできるわん。幽霊船免状もあるから謁見も問題なし」
・・・・・・ふむ?
【逃げましょう】
私は柔軟に意見を翻すと大聖堂の奥――転移陣のある部屋へ歩き出した。もちろんジフ様も一緒である。
「さあさあ! 二人とも急いでよ! 神聖騎士団が突っ込んできたら面倒だしね~ん」
「・・・・・・今、攻撃受けてんのに何でこんなに暢気なんだこいつら・・・・・」
「・・・・・・分かりません」
背後では死霊魔術師様達が喋り、人間達の反撃の狼煙が虚しく昇っていた。
逃げるが勝ち。
相手にしないという手段もあります。
目的を忘れないことがポイントです。