急報
吉報でしょうか? 凶報でしょうか?
「この城は・・・・・・聖都?」
水晶玉を持つ死霊魔術師デニム様が怪訝そうに呟く。
このお城が聖都?
再度、水晶玉を覗き込む。水晶玉に映る老人は、聖一教の聖印――六角形の銀板を胸に提げており背後の城は白銀の輝きに包まれていた。
これが聖都・・・・・・『一生に一度は巡礼したい』と兵士長のおやっさんが言ってたな。一応拝んでおくべきだろうか?
「そうね~ん。そしてこのおじいちゃんは・・・・・・聖一教の特級大神官ね」
「特級大神官ですか! 聖都のトップがなぜ私の水晶玉に!?」
特級? 神官の位だったかな。見たことあるのは四級の神官だけだけど・・・・・・いつ見たんだっけ?
「広い範囲への遠視の強制・・・・・・ちょっと待ってね~ん・・・・・・やっぱり遠話もしているわ」
桃色道化師――アーネスト・エンド様がそう言いながら水晶玉に触れると部屋に力強い男性の声が流れる。声自体は大きいのだが音が歪んでいて聞き取りにくい。
『・・・・・・魔王は・・・・・・きる全ての民より一人の聖女を奪ったのです。
この悲劇は、魔王に虐殺された民への鎮魂の旅で起こりました!
なぜ神の使いたる彼女が亡くならなければならなかったのでしょうか!?
魔王が神を・・・・・・』
聖女が死んだ? そうか死んだのか・・・・・・良かった! 顎割れ死体騎士やコメディの仇を一人でも殺せたのか! こんなに嬉しいことはない!
ジフ様も元気になりそうだし・・・・・・そうだ!
【アーネスト・エンド様、ジフ様の出世】
「ええっ! これで確定ね! 最低二桁、上手くすれば第五席になれるかも・・・・・・引きこもりのアイツより聖女殺しの方が一桁台に相応しいもの!」
私の問いかけにアーネスト・エンド様が嬉しそうに答えた。聖女殺し? 一桁台?
・・・・・・ジフ様なんだか凄いことになりそうです。
私は、寝台のほうを向き心の中で主へと伝える。その時まだ水晶玉を見ていた長身の魔術師が呼ぶ。
「アーネスト・エンド様! まだ演説が続いてます」
「さっさと終わってくれないかしら? 首席様に遠話ができないわ!」
『これまで私達聖一教は、神の教えを知らない魔族もこの世界にいることを赦してきた!
しかしスチナ王国の虐殺、死者への冒涜、そして今回の聖女への卑劣な暗殺・・・・・・』
「元人間のわたくしが言うことじゃないと思うんだけど聖一教の神官、何様のつもり?」
「・・・・・・確かに『いることを赦してきた』とは・・・・・・人間性を疑います。それに聖女は、ジーンを暗殺しにきて返り討ちにあったはず」
「戦意高揚のためでしょ~?」
『魔王の邪悪なる軍勢は、何度も、何度も聖都を攻めその度に神の力に滅びました!
これは神の偉大さと私達の正義を示しています!
私は聖なる唯一の神の名に宣言する!
聖一教と南部王国連合はこれより”北聖都ノスセト”を亡者より奪還し聖女の仇を討つ!!!』
水晶玉の中の老人が歪み、行進する騎士達が映る。
『聞こえるか! 神の教えを知らぬ者達よ!
これより神の力が、天使の矢が汝らを裁く。
悔い改め神の慈悲に縋るのなら・・・・・・自ら首を落としその証とせよ!
もし悔い改める魂さえ持たぬなら、汝らの魂は天使の矢によって焼き尽くされるであろう!!!』
水晶玉は、騎士達を映しながらも特級大神官の最後通牒だか宣戦布告だかを流した。そしてその言葉を最後に水晶玉は、沈黙し騎士の姿も見えなくなる。
”北聖都ノスセト”ってここだったような? 後、聖女の仇は・・・・・・もしかしてジフ様!?
「これは降伏しろということでしょうか?」
「どこの世界に『自ら首を落とせ』って言う降伏勧告があるのよ? そんなことより首席様に遠話、遠話!」
私がジフ様との忠義の逃避行を考えてると再び水晶玉が光る。
「アーネストか? ちょうどいい緊急連絡がある」
首席様の声を聞き頭蓋骨の中に黒い蛞蝓が浮かぶ。気分が悪くなった。
「それよりちょっ~と御願いがあるんだけどいい?」
「連絡を・・・・・・」
「先に御願い聞いて! 御願い!」
「・・・・・・早く話せ」
「ジフ様を昇進させて! 聖女殺したんだしいいでしょ~」
「・・・・・・いいだろう。席順は後で・・・・・・」
「今! すぐ! 上げて!」
「連絡を伝えてからだ」
「・・・・・・ちっ! な~に?」
「聖都の最前線にいた第七席・・・・・・デービルからの連絡があった」
「あの戦闘馬鹿から? 珍しいわね~ん?」
「連絡は一言で途切れた。内容は『聖都が飛んだ』、その後デービルとの遠話は繋がらない」
「・・・・・・空飛ぶお城ってどこの御伽噺よ!」
桃色の道化師の喚き声を聞き流しながら私はジフ様に報告する。
【ジフ様! 出世です!】
ジフ様の顎骨が大きく動く・・・・・・
大地の揺れによって。
両方です。
これにて第五章を終了します。
次回より第六章になります。