ジフの魂
生の概念は人により異なります。
【ジーーー】
寝台に向かって右足を踏み出す。
【フーーーーーー】
その上に座る存在を目指し左足で床を蹴る。
【さーーーーーーーーー】
魔術師の外套で身を包む主に跳びかかる。
【まーーーーーーーーーーーー!!!】
両腕を広げ宙を舞う・・・・・・全力を持って抱きしめるために!
「緊縛魔縄」
光る縄で縛られ墜落する・・・・・・
あれ?
鎧が床にぶつかる音と共に私は床に転がった。一瞬だけ呆然としてから左腕で青白い縄を裂き起き上がる。そして再び・・・・・・
「少しは躊躇しろ! 緊縛魔縄!」
怒鳴り声と共に現れた光る縄で再び簀巻きにされる。
【ジフ様がいるのに何を躊躇!?】
「ジーンの体をよく見ろ!」
魔術で私を縛った死霊魔術師――デニム様の言葉に私は床に転がったまま寝台に座るジフ様を見上げた。
・・・・・・喜びのあまり気が付かなかったがジフ様の体――頭蓋骨や四肢の骨――には包帯が巻かれていた。包帯の巻かれた人骨・・・・・・血こそ滲んでないが間違いなく重症を思わせる姿である。
【ジフ様!?】
「ジフ様はまだ初めの治療を終えただけなのよ。頭蓋骨も繋げただけ・・・・・・」
私の叫びに桃色道化師アーネスト・エンド様がジフ様の状況を述べつつ机の上を指す。
「さっきの頭蓋骨でいろいろ試したんだけど精気の回復・・・・・・魂・・・・・・意識を戻すことができないのよ」
私の位置からでは、机の上は見えないが何かあるのだろう・・・・・・長身の魔術師がそちらを見て全身の骨を震わせている。
いや、それより魂が戻らないとは一体? ジフ様は治ったのでは?
【ジフ様! ジフ様! ジフ様! ジフ様! ジフ様! ジフ様! ・・・・・・】
私は、背骨を震わせる嫌な寒さを感じつつジフ様に呼びかけ続ける。
「・・・・・・」
・・・・・・反応は無い。ジフ様は座ったまま虚空を見つめている。怪しげな踊りも踊らず『出世!』とも叫ばない。まるで生気が感じられないのだ。
【・・・・・・】
魂が戻らない・・・・・・ジフ様が治らない・・・・・・・
徐々に世界から色が消え、光が消え、あやふやになっていく。体の上で死体獣踊子隊が励ましの踊りを踊っているようだが沈んでいく意識が戻ることはない。ジフ様がジフ様でない・・・・・・その思いが私の心を蝕んでいく。
「・・・・・・アーネスト・エンド様、ジーンの精気が回復する可能性は?」
「死霊魔術師は、精気が減ったら風や大地から徐々に奪っていくものよ・・・・・・それが行なわれていないから・・・・・・なんとかして注ぐしかないわね」
暗い世界の中、二人の声だけが響く・・・・・・微かに私の意識が浮上する。
「それでしたら私の精気を」
「駄目よ。そんなことをしたらジフ様の骨を使った骸骨兵ができるだけ! カリンちゃんの子供・・・・・・クロノと同じで動き喋りはするけれど・・・・・・それはジフ様じゃないわ!」
動き喋るジフ様・・・・・・また少し意識が浮上する。
「それでしたら・・・・・・人間の血肉に浸けてはいかがでしょう?」
「・・・・・・骸骨兵にはならないとは思うけど。それで治るなら骨素で治っているはずよ。何せ使ってるのは死霊魔術師の頭蓋骨なんだし・・・・・・むしろジフ様の精気を活性化させられれば」
ジフ様の精気・・・・・・世界に光が戻る。
「活性化ですか?」
「そうよ! 死霊魔術師になるからには生前に得られなかった何かがあるはずよ! ジフ様の精気を! 魂を揺さ振ることができれば・・・・・・できそうなのにニ、三人心当たりがあるわ」
ジフ様の魂・・・・・・視界に色が戻る中、私は縄を引きちぎり起き上がる。その身に青き光を纏って。
【ジーフーーさーーーまーーーー!】
「起きたか・・・・・・落ち着いては・・・・・・いないか」
「むしろ狂ってるわね? 精気駄々漏れだし」
狂う? 私は正気である。
体から吹き上がる青い光とみなぎる力が私にやるべきことを教えてくれる。私はジフ様に向かって一歩踏み出す。
動き喋るジフ様、踊るジフ様、叫ぶジフ様・・・・・・ジフ様の魂!
「この精気は・・・・・・骸骨兵の精気が死霊魔術師を回復させるでしょうか!?」
「分からないわ! 死霊魔術師が創造物から精気を吸収する魔術なら知ってるけど・・・・・・どちらにしろ実験してからのほうがいいわ! 止めなさい!」
私を挟むように二人が移動する。
「そこまでだ!」
「動いちゃ駄~目!」
【・・・・・・・・】
私の精気が荒れ狂う中、三者が・・・・・・いや、私の正面にジフ様がおられる。
「・・・・・・・」
四者が向かい合う。
自身の生は自分で決めたいです。
骸骨兵の考えは・・・・・・