治療開始
治療中、付き添いの方は静かに待ちましょう。
クチャクチャ・・・・・・
今、私は壁を向いて座り骨素を噛んでいる。
「これで両腕はいいわね!」
「はい。次は両足を」
背後では桃色道化師アーネスト・エンド様と死霊魔術師デニム様がジフ様の治療をしている。私の口の中にあるのと同じ骨素で折れた骨を接合しているのだ。
「ここまで粉々だと中々厄介ね~ん」
「私もです。もう少し楽だと思ってました」
ジフ様の治療は時間が掛かりそうだ。本来であれば私も手伝いたい。アーネスト様が始めた骨の接合は、木工細工のようにも見え私にもできそうだったのだ。
「小さな骨は割れてないから・・・・・・」
「頚椎から尾椎を揃えましょう」
しかし私が手伝おうとすると御二人から『ダ~メ!』『止めろ!』と制止された。
別に手の指を十本にしてしまったとか、腕と脚を間違ったとか失敗をした訳では無い。
「ところで~? 血塗れ骸骨騎士ってもしかしておバカ?」
「・・・・・・思慮が足りないとは感じます」
ジフ様の骨に触ることなく『その左手よ!』『これ以上壊す気か!』と言われ部屋の隅に追いやられたのだ・・・・・・今だけは、この竜骨毒手がとても憎い。
「戦力としてはかなりのものなんだけどね~」
「そうなのですか? 確かにあの左腕と右腕は強そうですが・・・・・・」
しかし、『これあげるから大人しくしてなさい』と渡されたこの骨素・・・・・・噛んでると満腹感・・・・・・いや、満足感が出てくる。磨り潰した芋のような見た目だが、コシがあり噛み切れないのがまたいい。
「それだけじゃなくて・・・・・・これよ!」
「幽霊船免状ですか? 失礼します・・・・・・骸骨兵のですか!?」
む! 死体獣踊子隊が物欲しそうにこちらを見ている。骨素が欲しいのか? ・・・・・・そんな濁った目で見ても・・・・・・尻尾を振ったところで・・・・・・半分だけだぞ。
「そうよ。しかも書いたのはキャプテン・ガデムなのよ」
「聞いたことはあります。地獄のフルコースがどうとか」
・・・・・・結局全部渡してしまった。喜んでいるからまあいい・・・・・・コメディがいたら半分こにして・・・・・・コメディ・・・・・・ジフ様がもうすぐ治るぞ。喜んでくれるよな。
「人間相手の戦闘なら骸骨騎士より強いはずよ」
「それにあの両腕と忠誠心・・・・・・」
死体獣踊子隊が踊り始めた。アーネスト様の猫、鼠、狸も混じっている・・・・・・あの三匹・・・・・・先ほどと動きが違う!
「はいっ! これで胸骨と肋骨だけね・・・・・・たぶん勇者や神官以外には負けないわよ」
「そこまでの力が!?」
まっまさか!!! この短時間で覚えたというのか! 教え方が上手いのか学んだほうが優秀なのか・・・・・・またはその両方か?
「あの左腕・・・・・・魔術を切り裂いて鉄鎚を受け止めたでしょ~? 体の強度が高ければ戦士と魔女も殺せてたかも」
「・・・・・・ジーンの奴・・・・・・とんでもないのを創造したな」
死体獣踊子隊も新たな踊りに開眼したようだ。滑らかさの中に芯が感じられる。それが踊り全体にメリハリを生み更なる進化を遂げている・・・・・・この踊り私にもできるのではないだろうか?
「流石ジフ様ね! ・・・・・・先に別々に分けたほうがいいわね。曲がり方で分けるのよ!」
「はい・・・・・・もうすぐだぞジーン」
ターン! スピン! ポーズ! ・・・・・・違う・・・・・・勢いが足りないのだろうか? ターン!! スピン!! ポーズ!! ターン!!! あっ!
「あらっと!?」
「えっ! ギェベブ!?」
勢いよく回転したら右手が伸びてデニム様に当たってしまった。幸いにもジフ様には当らなかったようだ。デニム様が頭蓋骨を押さえながら起き上がる。
【デニム様、大丈夫で・・・・・・】
「出てけーーーーーーーーー!!!」
部屋から追い出された。
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朝日が昇り始めた。窓から差し込む光が廊下を照らす。
私は治療室の扉の前でジフ様が起きるのを今か今かと待っている。
デニム様・・・・・・何も追い出さなくてもいいのに・・・・・・
追い出された当初は扉を叩き喚いたのだが、アーネスト・エンド様に『静かにするのと永眠のどっちがい~い?』と言われたので大人しくすることにしたのだ。
クチャクチャ・・・・・・
再び渡された骨素を噛みながら朝日に眼窩を向ける。
ジフ様~朝ですよ~!
心の中でジフ様に朝の挨拶をしているとデニム様の声が響いた。
「骸骨兵、入っていいぞ!」
【ジフ様ーーーーーーーーー!!!】
バダンッ!!!
吹き飛ばす勢いで開けた扉の向こう、懐かしき主の姿が・・・・・・
でないと放り出されます。
・・・・・・マジですよ。




