大脱線
都合の悪い状況から逃げる秘策です。
「どうしたの~ん? デニムちゃん!」
しかしまわりこまれてしまった!
「なっ!」
急に治療室から出ようとした死霊魔術師デニム様は、目の前に現れたアーネスト・エンド様に息をのむ。
・・・・・・内臓も無いのにどうやっているのだろうか。
「どうしたの~ん? 急に部屋から出ようとするなんて?」
「あっ? なっ! えっ!?」
「デニムちゃん、もう一つ頭蓋骨持ってる? 無いならあなたの・・・・・・」
「アーーーーーーーーーネスト様!!! ジーンの奴とはどのような御関係で!?」
「えっ? わたくしとジフ様の関係?」
「そっそうです!? 私はジーンの奴とは親友! し・ん・ゆ・う、ですがジーンの奴からアーネスト様の話を聞いたことがないもので」
「んーーーーーーーーー?」
デニム様の吠えるような質問にアーネスト・エンド様が腕を組んで視線を天井に向ける。考え込んでいるようにも見えるが何を悩まれているのだろう。
「そうね~? 一言で言うと神とその信者かしら?」
「か、みですか?」
「そうよ! もちろん聖一教のちんけな神じゃなくて、本当の創造神よ!」
「はあ」
「わたくしは、ジフ様によって生まれ変わったのよ! あの子達を見た瞬間に!!!」
ジフ様の信者様は、踊る死体獣踊子隊を全身で示し世界に訴えた。流石の小動物死体獣も驚いたのか踊りが止まる。
「・・・・・・」
【・・・・・・】
「あれは任務放棄した死霊魔術師の粛清を、首席様に命令されたときだったわ。首席様の御友達がその子達を連れてきたのよ! ・・・・・・まさに天使の矢を受けたとしか表現できなかったわ!!!
それまでのわたくしは命令を受けて、殺して、また受けての繰り返しだったの。死に損ないを殺すことだけが楽しかったのよ。
それがあの瞬間変わったの! なんて表現すればいいのかしら? 好意? 恋慕? 傾倒? 執着? 興奮? 心が! 魂が燃える!? いえ! あぶられるような暖かさかしら!?
とにかくわたくしの魂は、満たされ癒されたの。それからの日々は楽しかったわ。首席様達とその子達を奪い合ったり、ジフ様を出世させたり、死に損ない達も癒したり・・・・・・」
「はあ」
ほとばしるような道化師の叫びに長身の魔術師はただ一言漏らすだけだった。
「何より決定的だったのはその創造の力よ! 見なさい!」
パチッ
アーネスト・エンド様は、指を鳴らすと再び顎骨を開く。まだ話すようだ。
ジフ様の治療はいつ始まるのだろうか?
頭蓋骨に苛立ちが溜まっていく。
「わたくしもジフ様のように小動物で死体獣を創造したのよ・・・・・・」
部屋の奥から猫、鼠、狸が出てきた。死体獣なのだろう不自然なほど背筋を伸ばした見事な行進だ。三匹は、私達の前まで来るとピタッと停止する。
「・・・・・・踊りなさい」
桃色道化師の命令と共に三匹の死体獣が踊りだした。
ピシ! パシ!
ピス! パス!
ピセ! パセ!
・・・・・・なんと言えばいいのだろうか。兵隊の訓練? 仕掛け人形?
三匹の動きは単調で一動作ごとに止まり滑らかさが無かった。集団でやれば迫力はあるだろうが可愛さが足りない。
「ね? 可愛くないでしょ? 他の幹部にも創造させたんだけど同じなの」
「はい、まあ」
【可愛くない】
「死に損ないを癒すことはできるのよ。でもそれは、擬似的に睡眠欲や食欲を満たしてるだけなの。わたくしでは、本当の意味での快楽は感じさせることができなかった!」
アーネスト・エンド様が声を落として悲しみを訴えた。
ジフ様が凄いことは分かっているから早く治療を・・・・・・
「だからこそ! ジフ様を復活させなければいけないのよ!! 全ての死に損ないのために!!!」
アーネスト・エンド様は大声で宣言すると机の上から白い粉の入った袋を手に取った。続いて机の下から複雑な模様の描かれた壷を取り出す。
「先に複雑骨折を治しましょう。固まるまで時間が掛かるからその間に頭蓋骨の治療をするわ」
そう言いながら白い粉を壷に入れ、懐から出した粉末や液体と混ぜ合わせていく。薬の調合でもしているのだろう。昔、村の薬師のばあちゃんが似たようなことをしていた。子供のころの記憶だ。
・・・・・・なぜかとても懐かしい・・・・・・
「これは骨素、噛んでるだけで精気と反応して骨を丈夫にするわ。何より死に損ないが満腹感を得られるの。わたくしが開発した薬よ」
「それは凄い! ・・・・・・材料さえ気にしなければ」
デニム様が薬の効果に驚きの声を上げた。ただ後半の声が小さく聞き取れなかった。
なるほどそれをジフ様に噛ませれば治るわけだ・・・・・・でも今のジフ様に噛めるだろうか?
「そして砕けた骨を骨素で接着することもできるの・・・・・・以前より丈夫になってね~! ・・・・・・さあできたわ」
アーネスト・エンド様が壷を持って寝台――ジフ様の亡骸に向かう。
「治療を始めるわよ~ん!」
話を逸らした!
しかしまた戻りそうだ!