診察
検査して治療方針を決めましょう。
「ジフ様をそこに置いてちょうだ~い」
桃色道化師――アーネスト・エンド様は、寝台の隣を指差しつつ告げた。私は机の白い粉から視線をそらして寝台に近づく。床に散らばっている骨の破片が蹴られ転がる。
【ジフ様】
私は、骨を震わせながら静かに棺を床に下ろした。
「ジーン」
死霊魔術師デニム様が私の主の名を呟く。
「それじゃあ開けるわよ」
骨だけの指が棺を開く。
「・・・・・・この灰は?」
【同胞の灰】「ジーンの部下達です」
「そう・・・・・・死者の灰は、陰の精気を秘めているわ。いい処置ね。この外套は・・・・・・」
「その中にジーンの遺骨があります」
「・・・・・・」
アーネスト・エンド様は、しばし棺の中を見つめた。しかし、顎骨を一瞬震わせると外套ごとジフ様を抱え上げ寝台の上に置く。白い台の上、焼け焦げた外套が開かれていく。
「酷い!・・・・・・これが勇者の殺り方なのね!」
「・・・・・・ここまで壊されてはいなかったはず?」
外套の中――ジフ様を見た御二人が怒りと困惑の声を上げた。真っ二つになった頭蓋骨、粉々に砕かれた全身の骨・・・・・・私はジフ様の無残な姿を目にし気が遠くなる。
ジフ様ーーーーーーーーー!!! なんという御姿にーーーーーーーーー!!!
視界が歪み暗くなる中、私の頭蓋骨に歌が響く。
『ひつぎの なかには、ジフさまが ひとり
ひつぎを おそうと、ジフさまは ふたつ
もひとつ おそうと、ジフさまは みっつ
おそって みるたび、ジフさまは ふえる』
部屋の隅で死体獣踊子隊が歌に合わせて踊っている。
おまえ達にも聞こえているのか? まさかこの歌は、神託なのか!?
「頭蓋骨切断に全身の粉砕骨折・・・・・・粉砕骨折の治療は時間が掛かるけど可能ね」
「砕けた骨は、骸骨兵のように他の骨で代用しては?」
「デニムちゃん、ジフ様の精気・・・・・・この場合は魂とも言えばいいかしら。その精気が頭蓋骨にさえちょっとしか残っていないの。だから少しでもジフ様の精気が残っている骨を使わないといけないのよ」
私が天から響く歌に混乱しているとジフ様の治療が進められていく。
「頭蓋骨は、ちょっと欠けただけなら治したことあるの・・・・・だけどここまで酷いのは初めてだから・・・・・・さっきの頭蓋骨、処置せず少し残しとけばよかったわ・・・・・・新しい治療方法の研究が必要ね!」
アーネスト・エンド様は、そう言い切るとまず私をジッと見つめる。
何か? ジフ様のためなら何でもしますが?
「ん~? できれば死霊魔術師がいいのよね~?」
そう悩ましげな声を漏らすと次は、長身の死霊魔術師に頭蓋骨を向けた。私では役に立たないようだ。残念である。
「デニムちゃ~ん! ちょっと御願いがあるんだけどい~い? 頭蓋骨を・・・・・・」
「アーネスト・エンド様!!! 頭蓋骨が必要でしたらこれを!!!」
桃色道化師の発言を遮るようにデニム様が叫んだ。同時に突き出した手には、目出し帽子の頭蓋骨があった。以前ジフ様を狙った親切で礼儀正しい刺客である。確か五月蝿いと言う理由で顎骨を外され袋に放り込まれてたような・・・・・・
「反乱を起こした死霊魔術師です! どうかこれを御使いください!」
「あら! ありがと」
頭蓋骨を受け取ると表面を軽く撫でる。
コトッ
何気ないその仕草と共に頭蓋骨が斜めに斬れて上半分が床に落ちた。
「やっぱり傷が大きいと精気がほとんど消えちゃうわね~? ちょっとでも精気が残っているジフ様ってやっぱりすごいわ~!」
何かよく分からないがジフ様は凄いのだ。
隣では長身の魔術師が自らの頭蓋骨を押さえ震えてる。ジフ様が凄いことに驚いているのだろう。
「・・・・・・ん~ん? もう一体ぐらい実験体が欲しいわね~?」
桃色道化師が呟いた。
デニム様が逃げ出した!
次は治療方法の確立です。
尊い犠牲は無駄にはできません。
作中歌は、三月二十七日にいただいた「ジフ様の歌♪」を使用しております。(賛美歌にしようとかとも思ったのですが・・・)
バックダンスも完璧です。