治療室へ
死に損ないに癒しを!
「聖都攻略に成功したら軍団を四つに分ける」
「三つは南部王国連合の三国として・・・・・・もう一つはどおすんだ?」
「最後の軍は、大陸最北端へ」
「魔王城か・・・・・・死霊王の許可は取ってんのか?」
「『些事は任せる』とのことだ」
死霊軍団の幹部会議は、首席様と厚着骸骨様の二人でまだ続いていた。私は頭蓋骨だけの状態でその光景を見ている。
「ジフ様を蘇らせるなら早速わたくしの拷問室にっ、じゃなくて治療室に行きましょう」
私を掴んでいる桃色道化服のアーネスト・エンド様がそう宣言した。ジフ様を治そうという意気込みが言動の端々から感じ取れる。私も顎骨を鳴らすことで賛意を示す。
「ありがとうございます! アーネスト・エンド様・・・・・・しかし、会議は宜しいのですか?」
なぜか死霊魔術師デニム様が会議を続ける幹部達を窺いながら問いかけてくる。まるでジフ様を起こすより優先することがあるような態度である。
「い~のよ! 首席様とバトゥーリア様に任しとけばい~の! バトゥーリア様ってアレでもいいとこの坊ちゃんだったのよ。乱暴そうだけど真面目だしとっても便利なの。わたくしがジフ様の治療をするために会議を抜けてもまっ~たく問題ないわ」
アーネスト・エンド様はそう言うと私の頭蓋骨を床に転がる鎧を着た人骨――私の体――につなぎあわせた。体の感覚が戻ってくる。私は、軽く手足を動かしながら立ち上がる。
よし早速、アーネスト・エンド様の頭蓋骨を・・・・・・
「ジフ様の棺を持ってついてきてね!」
桃色の姿が御礼をする前に部屋から出て行った。私は慌ててジフ様の棺を持ち上げるとその後を追う。ジフ様の目覚めを共に祝いたいのだろう机の上で踊っていた死体獣踊子隊も一緒についてきている。
「チュウチュウ!」「ピョン!」「ココン! コン!」
移動しながらも踊っている。以前より技も増えているし芸達者な子達だ。箱の中で秘密の特訓でもしていたのだろうか?
私は、箱の中で繰り広げられた大冒険を想像しながら絨毯の上を足早に進む。廊下を曲がり、階段を上り、窓から飛び降りアーネスト・エンド様を追いかける。
「さあ! ここがわたくしの治療室よ!」
私達が辿り着いたのは大聖堂の一室だった。死体獣踊子隊はしっかりついてきている・・・・・・さらに後方ではデニム様が倒れている。飛び降りたときにこけたようだ。
「すこ~し散らかっているけど気にしないでね!」
ジフ様が起きるなら何もかもが些細なことである。
私は、頷きつつ開かれた扉を通り部屋に入った。
「死なせてくれーーーーーーーーー!!!」「ギェン! ゲフ! デム!」「神はいないのかーーー!!!」「夢なんだ。起きたら母さんが・・・・・・」「ギェウエヘボグロズデ」
・・・・・・床で頭蓋骨達が悲鳴を上げ合唱している。綺麗な頭蓋骨、穴の開いた頭蓋骨、針が刺さってる頭蓋骨、溶けた頭蓋骨、ひび割れた頭蓋骨、とにかくさまざまな頭蓋骨だ。
これが治療室?
確かに寝台や机、治療道具だろう鋸や槌、他にもよく分からない刃の付いた薄い金属円板がある・・・・・・そうか!
久々に私の明晰な頭蓋骨の空洞が冴え渡る。
床の頭蓋骨達は患者さんだ!
こんなに多くの患者さんがいるとはアーネスト・エンド様は、腕のいい医療魔術師なのだろう。
「御免なさいね~! 実験体と材料が五月蝿いわね!? 少し静かにさせるから待ってて!」
アーネスト・エンド様は、白い顔に笑みを浮かべ床に転がる喋る頭蓋骨達を部屋の奥――布で仕切られた場所――に持って行った。少しすると布の向こうからは、石臼で硬いものを磨り潰すような音が漏れてくる。
・・・・・・実験体と材料だったらしい。患者ではなかったようだ。
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しばらくしてアーネスト・エンド様が戻られた。手には袋を提げているだけだ。一緒についてきた長身の魔術師は隣でなぜか震えている。
「御待たせ! 顎骨を外すだけでも良かったんだけど~ついでだから処置をしといたわ!」
「アーネスト・エンド様・・・・・・先ほどの頭蓋骨はもしや・・・・・・」
「あの頭蓋骨達? 反乱を起こそうとした死霊魔術師達よ。どうかしたの?」
「・・・・・・処置された死霊魔術師にスレダーという者はいましたか?」
「スレダー? ・・・・・・いないはずだけど~それが?」
「いえ、なんでもありません」
「ならいいけど?」
桃色の道化師は頭蓋骨を傾げながら手に持った袋を傍らの机に置いた。
袋の淵からは粉末状の白い何かが零れている。
あの粉はなんなのだろうか?
もう悲鳴は聞こえない。
それは地に還ることかもしれません。