癒しの道化師
彼を訪ねて八百里です。
「神官さえ減れば他の魔王軍が全滅しても問題は・・・・・・」
「聖都を落とすまでは頑張ってもらわねぇと駄目だろうが」
「全滅しても死に損ないにすればいい」
「死に損ないじゃ勝てねぇから言ってんだよ! 他にも囮の部隊を出して反撃を分散させねぇと・・・・・・」
会議は、首席様と厚着死霊魔術師パトゥーリア様の話し合いが続いている。内容は難しすぎて理解できない。『聖都さえ落ちれば』『他の魔王軍が滅びてもいい』とか聞こえてきたが・・・・・・まあどうでもいいことである。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 聞こえない!! 何も聞こえない!!!」
隣を見ると死霊魔術師デニム様がその長身を屈めて何か自分自身に言い聞かせている。
どうかされたのだろうか?
「ねぇえ、ちょっといい?」
え?
いつの間にか桃色道化師が私の前に立っている。視線をそらす前は、他の幹部達と一緒に座っていたのに・・・・・・
「アーネスト・エンド様!? わっわっ私は何も聞いていません! 本当です! 忘れます! 私には幽霊になったばかりの娘が三人いるんです! どうかっ! どうか御慈悲を!」
長身の魔術師がいきなり命乞いを始めた。デニム様、三人も娘さんがいるんだ。美人なのだろうか?
「安心してちょ・う・だ・い! 今のわたくしは癒しの道化師よ。いきなり粛清はしないわ」
はて? 癒しの道化師・・・・・・どこかで聞いたような?
「ほっ本当ですか!? あっありがとうございます!」
「そ・れ・よ・り! この血塗れ骸骨騎士が持っている棺は、わたくしがジフ様に送った物だと思うんだけど?」
「そっそうなのか!? 骸骨兵?」
聞き覚えのある名に頭蓋骨を回転させていた私に二人が問う。
この棺は確か・・・・・・
【”骸骨洞窟”に光って現れた】
そうジフ様の部屋にいきなり光って現れたのだ。
「ん~~~ん? わたくしが転移させたってことよね。じゃあ次の質問よ! この棺には何が・・・・・・いえ、誰が入っているの?」
【ジフ様!】「ジフ・ジーンです」
桃色道化師の続けての質問に私とデニム様が同時に答えた。反射的に答えてしまったがなぜそんなことを聞くのだろう。
「・・・・・・そうなの・・・・・・やっぱりジフ様なのね。さっき血塗れ骸骨騎士の記憶を見せてもらったけど、この眼窩で直接確認したいの。いいかしら?」
私はその言葉に素早く頷き棺を床に下ろした。ジフ様の亡骸を見たいという桃色道化師から悲しみとジフ様への敬意を感じたためだ。
「アーネスト・エンド様っ、ジーンのことについて御願いがあります!」
私が棺の蓋を開けようとしたとき長身の魔術師が緊張したようすで話しかけてきた。
「なんだ?」
その声が目の前の桃色道化師から聞こえたことに私は驚いた。先ほどまでの高く明るい声ではなく冷たく低い声だったのだ。
それに殺気とでもいうのだろうか?
目の前の道化師から漏れる精気に背骨が震える。
「つっ! ・・・・・・アーネスト・エンド様は、死に損ないの治療を研究し実践されています! その技をどうか! どうかジーンのために御使いいただけないでしょうか!? 御願い致します!」
死霊魔術師デニム様はそう言うと床に膝を突き深く頭蓋骨を垂れた。
もしかしてこの方がジフ様を起こしてくれる方!?
私はそのことに気がつくと誠心誠意御願いするため、なぜか呆然としている桃色道化師――アーネスト・エンド様に跳びかかる。
【ジフ様起こしてーーーーーーーーー!!!】
ギッ!
次の瞬間、微かな異音と共に頭蓋骨を残して私の体が脱落した。
【あえ?】
何者かに頭蓋骨だけを鷲掴みにされた私の精気が漏れる。
「・・・・・・あら? 御免なさい! 驚いたからつい狩っちゃったわ・・・・・・でもそうよね!? 倒されたのなら治せばいいのよね! デニムちゃんだっけ? それいい考えね! ジフ様をこの手で蘇らす・・・・・・最高だわ!!!」
アーネスト・エンド様は、私の頭蓋骨を掴んだまま踊りだしそうな口調で言った。
・・・・・・頭蓋骨を落として御願いしようとしたのに逆に私の方が落とされてしまった・・・・・・どうしよう?
揺れる視界の中、死体獣の立体三角形が見える。
彼の別名は最期の道化師です。気をつけましょう。