本題は遠く
会議を短くする方法はなんでしょう。
時間を決める、参加者を絞るなどがあります。
「この子達は、私の特殊部隊とする」
「・・・・・・賛成」
「それでいいから早く聖都攻略作戦の話し合いを」
「そして普段は、忙しい首席様に代わってわたくしが面倒を見る。目指すは世界よ!」
「それをクロノちゃんが見て楽しむ。ね~クロノちゃん」
やっと幹部達の結論が出た。死体獣踊子隊のデビューが決まったのだ。私は右手に持ったジフ様にも報告する。
ジフ様・・・・・・ジフ様の子が行きます。
「悪夢が終わった・・・・・・今までのは夢だったんだ・・・・・・そう夢だ」
隣では死霊魔術師デニム様が起き上がる。会議が退屈だったのか途中から寝られてたのだ。『職場を変えたい』『ユウ殿はどこだ? 奴らを』とかうなされていた。
「それでは次の議題だ。この子達の名前を・・・・・・」
「待て! 今度こそ待て!! 幹部が集まって話す内容じゃない!!!」
再び首席様の話を遮り、厚着死霊魔術師バトゥーリア様が意見する。今回はちゃんと手を上げている。
「バトゥーリアなんだ?」
「頼むから重要な議題を先にしてくれ」
「・・・・・・分かった。それでは粛清した死霊魔術師達の後任について」
「今回は、席次順に昇進させて繰り上げればいいんじゃない? 真面目な死霊魔術師が得をするし、やる気を出すわ」
「・・・・・・賛成」
「いいんじゃないかしら? ね~クロノちゃん」
「外見と口調は、変人になったが中身はまともだな。俺もそれに賛成だ」
桃色道化師の意見に白い紳士、喪服の女、厚着の骸骨・・・・・・三人の幹部が同意を示す。
「分かった。各死霊魔術師には昇進を連絡する・・・・・・また忙しくなるな・・・・・・次の議題は、勇者の件だ。第248席デニム報告を」
首席殿――黒い蛞蝓人間――がこちらを向きながら言う。一度は治まった嫌悪感が再び背骨に走る。
「はっ! 勇者に襲撃された”骸骨洞窟”は、骸骨兵一体及び死体獣一箱を残して全滅。勇者は既に撤退しておりました。戦闘の詳細は、こちらの骸骨兵から御確認ください・・・・・・骸骨兵、戦闘の情景を思い浮かべて精気で伝えろ」
長身の死霊魔術師が報告してから私にあの時のことを伝えるように指示する。
私は蛞蝓への嫌悪感を押さえ込みながらジフ様の勇姿を思い浮かべていく。
勇者に不意討ちの死の呪文を打ち込むジフ様。
勇者達を罠に掛けるジフ様。
勇者達に多勢で掛かるよう命令されるジフ様。
聖女に庇われて動揺する勇者に襲い掛かるジフ様。
ジフ様を中心にした戦いが私の中で再現される。最後に二つに斬られたジフ様の頭蓋骨が浮かんだ。
【ジーフーーさーーーまーーーー!!!】
私の悲しみに呼応して青い光が周囲を照らした。その光は波に変化して部屋の中にいる全ての者に私の思いを伝える。
「蛞蝓?」
「・・・・・・聖女殺害?」
「待て! 死霊魔術師が素手で殴りかかるな!!」
「この方が骸骨兵さんの創造主なの? クロノちゃんはどう思う?」
「あぁぁぁぁぁ!? ジフ様・・・・・・直接御会いする前にこんな事になるなんて・・・・・・あの時拉致していれば」
「おっ落ち着け! もう十分伝わった!」
幹部達の声と隣からの制止に私の感情が落ち着いていく。虚脱していく体の中で唯一ジフ様の棺を持つ右腕だけが強張り震えている。
「御苦労、質問がある。私のどこが蛞蝓・・・・・・」
「待て! 今度も待て!! 聞くなら聖女に刺さった毒手の性能だろ!? ついでにおまえの見た目は蛞蝓か蛭だ!」
三度首席様の話を遮り、厚着死霊魔術師様が意見する。今回もちゃんと手を上げている。
「蛞蝓、蛭・・・・・・」
首席様が呟き椅子から崩れ落ちた。自分の外見にやっと気がついたのだろうか。
「・・・・・・同意」
白い紳士死霊魔術師フロスト様が止めを刺している。
「骸骨兵さん頑張るのよ」
「ジフ様! あんなに素晴らしい子達を創造するあなたに、せめて一目だけでも御会いしたかった! 本当に惜しい方を亡くしたわ」
他の幹部の方々は私に御優しい言葉を掛けてくださった。ありがとうございます、死霊魔術師カリン様と桃色道化服の方・・・・・・確かアーネストだったけ? どこかで聞いたような・・・・
私や幹部達を気にせず死体獣踊子隊はただただ踊る。
「勇者の話はしないのか・・・・・・」
長身の魔術師の悲痛な声が聞こえた。
利害が絡む場合は妥協するのも手です。
・・・・・・本当に大事なことはとことんまで話し合いましょう。