会議は踊る
会議にもいろいろあります。
物事の決定、情報共有、ブレインストーミング・・・・・・
「何を平然と会議を始めとるんじゃ! アーネストの坊主に言うことがあるじゃろう!」
会議の開始を宣言した首席様に死霊魔術師モーゼス様が叫ぶ。
「・・・・・・そうだな。アーネスト、早く座れ」
「は~い!」
「ちっがーーーう! あの格好と口調じゃ!!! アーネスト! 今朝までの死神みたいな格好と慇懃無礼な態度はどこに置いてきた!? 少し前からおかしいと感じておったが何があった。頭蓋骨でも打ったのか!?」
「この服? いいでしょう。さっきできたばかりの新品なの。服も喋り方も死に損ないを少しでも癒そうと思って工夫したの。どう?」
「いっ癒しじゃと?」
「そう! 癒しよ! 時代はまさに癒しなの! この世で最後に見るのが死神なんてありきたりでしょ? ・・・・・・看護服にしようか迷ったんだけど、道化服にしてみたの」
幹部達が桃色の服について白熱した討論を始めた。強烈な桃色道化を見たせいか、首席様への恐怖が治まっている。
「・・・・・・」
隣を見ると死霊魔術師デニム様が顎骨を開けて凍っていた。桃色の道化を見て驚いているのだろう。
「モーゼス、会議に関係ないことは話すな」
「・・・・・・わし、欠席していいか? 頭痛がするんじゃ」
「いいだろう・・・・・・他の三人も欠席すると連絡があった」
首席様に言って浮遊干物死霊魔術師様が部屋から出て行く。先ほど壁に頭をぶつけたのが響いてきたのだろうか?
「では会議を続ける。実は、聖都攻略作戦の前に至急相談しなければならないことがある」
「・・・・・・」
「ほう?」
「クロノちゃん、なんでしょ~かね~?」
「もしかしてあれのこと~?」
至急という言葉に幹部達はそれぞれ反応を示す。
「フロスト、あれを」
首席様の指示に隣に座る紳士服の死霊魔術師フロスト様が指先で机に黒い円を描く。
「・・・・・・転移」
短い呟きと共に円が光り、黒い大きな箱が現れた。私は頭蓋骨を傾げる。その箱に見覚えがあったのだ。死体獣踊子隊の箱である。
「ピョン!」「コーン!」「チュウ!」
案の定、箱の蓋を開けて顔を出したのは私の同胞達だった。
「・・・・・・」
「おい? まさか・・・・・・」
「あら! 可愛いわね~クロノちゃ~ん」
「やっぱり! 何度見ても癒されるわ~」
幹部の方たちには概ね好評のようだ。
「先日、私達の心を鷲掴みにしたあの個性的な死体獣達が増えた。この子達の今後について死霊軍団としての方針を・・・・・・」
「待て! 今日集まったのは聖都攻略のためだ! 他にも反乱を起こした死霊魔術師の件に勇者の件! 話し合うべき重要な課題があるのになぜ死体獣のことを話す!」
首席様の話を遮り、厚着死霊魔術師バトゥーリア様が意見する。
「バトゥーリア、意見があるときは挙手しろ」
確かにそれが礼儀だ。
「俺の話を聞けーーー!」
厚着死霊魔術師様が手を突き出して叫ぶ。
「バトゥーリアなんだ?」
「だから! なぜ!! 死体獣のことを話す必要がある!!!」
「相談せずに私だけで楽しんだら、また争奪戦になるからだ」
「その件は、創造した死霊魔術師に必要なだけ量産させるってことで決着しただろう」
おや? 今、ジフ様のことが。
「昇進させてこちらに呼んだ直後に倒された」
「はっあ!?」
「この子達が最後の希望だ」
「あら~それならクロノちゃんに貰えないかしら?」
「わたくしも欲しいわ~! 遠視と遠話で大陸中にその子達の愛らしい姿を届けるの。素敵だと思わない」
死体獣踊子隊は、幹部達に大人気のようだ。そして死体獣踊子隊の大陸デビューが決まりつつある。
いきなり世界に手を掛けた同胞に、ここまで一緒にやってきた私は一抹の寂しさを感じる。
ジフ様・・・・・・あいつらが高みに行きます。喜んでやるべきなんですよね。
その死体獣踊子隊は、箱から出て長い机に一列に並んで踊り始めている。
「だから! 創造主の有無ではなく他に優先すべきことがあると」
「・・・・・・」
「チュチュウ」「ココーン」「ピョピョーン」
「本当に可愛いわね~クロノちゃん」
「世界を狙うべきなの! 癒しが世界を救うのよ!」
「私専属の特殊部隊として運用するのが好ましい」
「・・・・・・首席様の仰せのままに」
「違うだろフロスト! そこは諌めろ!」
「あっ! 跳んだわ! ほら、クロノちゃん」
「首席様は、前の子達を独り占めしてるじゃない!? 次は皆で分け合うべきよ!」
活発に意見が交換されている。しかし自分が参加しない会議とは暇なものである。
隣のデニム様を見ると頭蓋骨を抱えて床に寝ておられる。
変わった寝相だ。
会議室の机の上で死体獣達が踊る。
踊ってます。されど進みます。
ナポレオンは誰でしょう。