幹部
死霊軍団の幹部達が登場です。
あの人も・・・・・・
大聖堂を出た御二人は、すぐ隣の建物に入った。今出てきた大聖堂に比べると装飾こそ少ないが石造りの立派な御屋敷である。周囲の建物も全て石造りであり、私が知る街とは随分と違う。
教会以外も石造りって砦じゃあるまいし・・・・・・
普通、石造りの建物といえば教会や一部の城砦だけである。建てるのに手間が掛かるし、夏は暑いし、冬は寒い・・・・・・街の砦に配属されていた時は、本当に辛かった。
・・・・・・この頃、生前のことをすんなりと思い出せる気がする。私は誰だったろうか・・・・・・・・・・・・・・・まだ思い出せない。やはり気のせいか?
「骸骨兵、早くこい!」
屋敷の入り口から死霊魔術師デニム様が呼ぶ。私は実りのない思考を打ち切り慌てて屋敷の中に入った。
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屋敷の中は、砦とは異なり丁寧に天井や壁が塗られ絨毯まで敷かれていた。貴族様でも住んでいるのだろうか・・・・・・ジフ様が起きたらこんな御屋敷で暮らすのもいいかもしれない。
光り輝くシャンデリアの下、広間で独り踊るジフ様。そしてそれを観賞する私・・・・・・使用人は、やはり骸骨兵と死体兵だろうか?
・・・・・・可愛い服を着た骸骨の女中さんと格好いい服を着た死体の執事さん・・・・・・何か少し違う。
「着いたぞ。もう一度言うが失礼なことはするな・・・・・・幹部の方々を怒らせるとジーンの奴を治療するどころかおまえが消されるぞ。私が一つ一つ指示するからそれ以外のことは決してするな・・・・・・分かったなら返事をしろ」
考え事をしていたので気づかなかったが、目的の場所に着いたようだ。ジフ様に会えなくなるのは困る。
【はい】
私の返事に納得したのか死霊魔術師デニム様はゆっくり頷くと豪奢な扉を開けて中に進んだ。私もそれに続く。
暗い。
その部屋には窓がなく長い机に置かれた燭台だけが唯一の明かりだった。
「私達はこちらだ。呼ばれるまで余計なことはするな」
長身の魔術師が私を導くように部屋の壁際に移動する。扉から離れつつ暗い部屋を眺めると既に何人かが長い机の席に座っている。
一人は、先ほどまで大聖堂で語り合っていた女死霊魔術師カリン様。腕の中でクロノちゃんをあやしている。
もう一人は、浮遊干物死霊魔術師モーゼス様。今は浮かばないで席に座っている・・・・・・なぜか私を凝視しているように見える。背骨が震えた。
最後に厚着骸骨・・・・・・骨なのだが服を何重にも着ているため太って見える。何枚着ているのか魔術師の外套の間から見えるだけでも一、二、三、四・・・・・・数え切れない。
死霊魔術師様なのだろうか?
「モーゼス様とカリン様は分かるな。豪奢な服装をされているのが死霊魔術師第三席エレッソ・ライ・パトゥーリア様だ・・・・・・気難しい方だから決して口答えするなよ」
死霊魔術師デニム様がわざわざ教えてくれる。
了解しました口答えしません。
キィーと扉が開く音がする。暗くて確認できないが部屋の奥に扉がありそれが開いたのだろう。二つの人影がこちらへ近づいて席に座る。
先に歩いてきたのは・・・・・・黒い何かだった。黒い何かが人型になって歩いてきたのだ。蛞蝓のようなヌルッとした表面が蝋燭の明かりを反射する。
四肢から背骨、頭蓋骨まで私の全てが震える。
気持ち悪い! 怖い!! 駄目だ!!! これは駄目だ!!!
私は少しでもその黒い何かから距離を取ろうと壁に張り付く。その隣に座る白い紳士服の骸骨はまったく眼窩に入らない。
「あの陰の精気を纏った方が首席様で、隣に座られたのが次席のアシュター・フロスト様だ。御二人とも寛容な方だが、邪魔するようなことだけはするな」
陰の精気を纏う!? あのヌルッが!?
【気持ちわ・・・・・・】
私が感じたままの嫌悪をぶちまけようとしたときそれが入ってきた。
「御免なさーい! 遅れちゃった? 実験体を拷問・・・・・・治療室に運ぶのが思ったより大変だったの。『ここで死にたくない!』って五月蝿くて・・・・・・」
それは高い声で話す桃色の道化服を着た骸骨だった。
部屋中の全てが凍りつく中、黒い蛞蝓――首席様が言う。
「第二十五回聖都攻略作戦の会議を始める」
まともなはずがありません。