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骸骨の夢  作者: 読歩人
第五章 死霊軍団編
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道に外れた母

人は大切な人のためにどこまでできるのでしょうか。

 カタカタカタカタカタカタカタカタカタ


 母の腕に抱かれ骸骨(あかちゃん)が笑っている。


 ここは礼儀として褒めておくべきであろう。


 私は、常識的な判断を元に骸骨(あかちゃん)を抱く母親――喪服の女死霊魔術師(ネクロマンサー)カリン様に空洞(カラ)の頭蓋骨を捻った素晴らしい褒め言葉を伝える。



【丈夫そうな骨です】



「だほぉーーーーーーーーー!!!」


 ぎゃ!?


 私は派手な音をたてて大理石の床に崩れ落ちた。死霊魔術師(ネクロマンサー)デニム様が叫びながら私の頭蓋骨を殴ったのだ。


【いきなり、な・・・・・・】


「何をじゃない! 失礼なことを言うな!?」


 他にどこを褒めろと? 脳が無いのに賢そうと言うのも不味いだろうし・・・・・・


「丈夫そう?」


 喪服の女死霊魔術師(ネクロマンサー)様が呟く。


「申し訳ありません、カリン様。この骸骨兵(スケルトン)は、主を・・・・・・」


「本当に丈夫に見えます?」


【はい】


 長身の死霊魔術師(ネクロマンサー)の言葉を遮った問いに私は答えた。頭の先から足の先まで骨なのだ。普通の赤ん坊に比べて丈夫に違いない。


「・・・・・・良かったわ。この子・・・・・・クロノちゃんは昔から体が弱くて。今朝、アーネストさんから貰った骨素(ホネノモト)を食べさせたのが良かったのかしら? 会議の時にまた貰わないと・・・・・・ね~クロノちゃん」


 よく分からないが、とにかく喜んでいる・・・・・・・ん? 死霊魔術師(ネクロマンサー)デニム様が頭蓋骨を押さえている。貧血だろうか?


「分からん。なぜあれで喜ぶんだ?」


「それで主なし(ロスト)骸骨兵(スケルトン)さんはどうして司令部(こちら)に? 新しい主を探しにきたの?」


 先ほど殴りかかったのにとても優しげに話しかけてくる。心の広い方のようだ。私は後半の意味が分からなかったので前半の問いにだけ答える。


【ジフ様を起こす】


 同時に右手で巻いている棺を揺らす。


「あら? ・・・・・・主なし(ロスト)なのよね? 創造主さんは生きてるの?」


「それは骸骨兵(スケルトン)の創造主・・・・・・ジーンの亡骸が浄化されてなかったので、もしかしたら治療できるのではないかと運んできたのです」


「そう・・・・・・創造主を蘇らすために・・・・・・」


 おや? なんか気配が変わった。優雅というか余裕のある態度から真剣な感じに・・・・・・


「失われた大切なものを求めるその心!!! よく分かるわ! 愛! 愛ですね! 愛するが故にこの世界の不条理に挑む!!! 人々が! 夫が! 国が! 王が! 神が! この世のありとあらゆる存在(もの)が邪魔をしようと取り戻すのです!!!」


 その叫びになぜか頭蓋骨の芯が痺れた。私の膨れ上がる感情のままに応じる。


【そのとおり!!! ジフ様! ジフ様!! ジフ様!!! この世がジフ様!!! 全てがジフ様!!!  ジフ様! ジフ様!! ジフ様!!!】


「そうです! 何を犠牲にしようと取り戻すのです!!! 愛するものを、この世にたった一つの素晴らしき子供(もの)を!!!」


【ジフ様起こす! ジフ様出世する!! ジフ様喜ぶ!!!】


 死霊魔術師(ネクロマンサー)カリン様・・・・・・なんと素晴らしい方だ! ジフ様の次ぐらいに偉大な方に違いない!! 詳しい意味はよく分からないが言葉と共に溢れ出す精気が、魂が、直接心を揺さ振る。


 ジフ様、必ずや再び・・・・・・ジフ様を想い、更なる決意を心に刻む。


「マルヤム・カリン様・・・・・・失った子のために全て(・・)を捨てた(おんな)・・・・・・死霊魔術師(ネクロマンサー)の私が言える立場ではないが・・・・・・骸骨兵(おまえ)の進む道は煉獄かもしれんぞ・・・・・・」


 そして私は背後で呟かれた言葉の意味を、長い間理解することはできなかった。




~~~~~~~~~


「愛ゆえに」【愛する】「失われたものを」【取り戻す】


 私達が歌うように自分をさらけ出していると死霊魔術師(ネクロマンサー)デニム様が声をかけてきた。


「カリン様、もうそろそろ聖都攻略会議の時間ではないでしょうか?」


「あら?」


 ピタッと動きを止めた死霊魔術師(ネクロマンサー)カリン様が硝子の無い窓から外を見る。大聖堂の外では傾いた日が街を赤く染めていた。


「いつの間に? 会議に遅れると首席さんが怒るわ。ね~クロノちゃん」


 喪服の女魔術師は、そう言うと足早に大聖堂の出口に向かう。


「私達も御一緒します。緊急の報告がありますので」


 長身の魔術師もそれに続く。


骸骨兵(スケルトン)、おまえにも勇者戦の報告をしてもらうからな・・・・・・幹部達の前で無礼なことをするなよ・・・・・・他の幹部はカリン様のように優しくはない」


 警告するようなその言葉に私はなぜか骨が震えた。

それには限界があります。


してはいけないことがあるからです。

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