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骸骨の夢  作者: 読歩人
第五章 死霊軍団編
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黒い女

危険からは逃げましょう。

「うおっ!? 逃げるぞ! ここにいては命が幾つあっても足りん!」


 死霊魔術師(ネクロマンサー)デニム様が私を掴んで青い精気が荒れ狂う部屋から脱出する。


 ・・・・・・左腕を掴まず、鎧を掴んでいるところは案外冷静である。それと私達は死の損ない(アンデッド)ですが?


 後方からは、『軍人でもない・・・・・・偉そうに・・・・・・ジフ殿の謙虚さを・・・・・・骨の欠片でも呑め・・・・・・』――死霊騎士(デスナイト)ユウ様の魂の叫びと罵倒がまだ届いている。貴族の横暴にブチ切れした兵士長と先輩を思い出す・・・・・・二人とも今頃どうしているだろうか?


 長身の死霊魔術師(ネクロマンサー)に引かれるまま、私は脱出した部屋より大きな空間に出る。


 そこは小さな家が入りそうなほど広く、白い柱が何本、何十本と並んでいた。周囲に頭蓋骨を巡らせると銀の祭壇に真っ二つに割れた銀の六角形――聖一教の聖印――がある。規模は違うが兵役で連れて行かれた街にあった教会と似ている。


「ふっーー! 危なかった! ユウ殿の怒りも分かるが、私達死霊魔術師(ネクロマンサー)は将軍でも軍師でもないからな。

 仕方が無い・・・・・・と済ます訳にもいかんが・・・・・・私の席次ではな。ん?」


 死霊魔術師(ネクロマンサー)デニム様が中間管理職の独り言を止め、巨大な部屋を見回す私に気づく。


「教会が珍しいのか? それとも大きな聖堂を見るのが初めてなのか? どちらにしろここはもう神の加護が消えた場所だ・・・・・・聖都の北を守る城塞都市が、死に損ない(アンデッド)の巣窟になって神も悔しいだろうな」


 ここは教会・・・・・・聖堂なんですか?


 改めて見ると窓枠に砕かれた色硝子が残っていた。大きな教会には、神話を描いた硝子絵があるらしいから恐らくその残骸だろう。

 神話といえば、巡回で村にきた神官が、村中の人を集めて『星界より降臨された銀に輝く偉大なる・・・・・・』とかなんとか聞かせていた。あの時、私は・・・・・・


「おや? あれは・・・・・・」


 聖堂の中に何か見つけたような声に、私もそちらを見る。そこには、壊れた聖印に向かって跪き頭を垂れる――祈っている――人影があった。


 人間?


 私はそう思った。その人影は、黒い服を着て顔を黒い布で覆っていたが剥き出しの二の腕や首筋は肌色であり、長い黒髪が床に向かって伸びていたのだ。

 『人間! 殺せ! 殺せ!! 殺せ!!!』了解・・・・・・私は瞬時に身を沈め、ジフ様の棺で一撃を加えるため黒い人間に跳びかかる。


「え!?」


 死霊魔術師(ネクロマンサー)デニム様の驚きの声を置き去りにして私は棺を叩きつけた。


「あら?」


 ・・・・・・その感触をどう表現すればよいのだろう? 経験したことはないが粘土に頭から突っ込んだらこのような感触ではないだろうか・・・・・・


 とにかく私と私が叩きつけた棺は、人間の・・・・・・女の声と共に現れた粘土ぽっい蒼い壁にめり込んだ。蒼い壁はそのまま私を引き擦り込むように体積を増していく。


 くっ喰われる!? ジフ様! 助けて! ・・・・・・てっ! ジフ様も呑まれてる!?


「・・・・・・そこの死霊魔術師(ネクロマンサー)さん。この変わった骸骨兵(スケルトン)は、あなたのですか?」


 もがく私をほうって黒い女が長身の魔術師に尋ねてた。よく見ると黒い服は、喪服であり胸に何かを抱えている。


「いっいえ! 私の骸骨兵(スケルトン)ではありません。カリン様どうかお許しください! 私は、第248席のデニムと申します。骸骨兵(あれ)は私の友人・・・・・・ジーンという死霊魔術師(ネクロマンサー)の形見のようなものでして・・・・・・」


 私ってジフ様の形見なのだろうか?


「・・・・・・ジーン?・・・・・・どこかで聞いた名前ね~?・・・・・・ね~クロノちゃん」


 頭蓋骨を傾げる私と同じように喪服の女は頭を傾け、自らが抱く何かに尋ねている。その姿は赤ん坊をあやす母のようだ。赤ん坊を連れて教会に礼拝しにきた信徒であろうか?


骸骨兵(スケルトン)! おまえも謝罪しろ! この方は、死霊魔術師(ネクロマンサー)第六席マルヤム・カリン様だ! いきなり跳びかかるなんて何を考えて・・・・・・いや、主なし(ロスト)だから狂ってる可能性もあるか?」


 え! 死霊魔術師(ネクロマンサー)様だったんですか!?


 死霊魔術師(ネクロマンサー)デニム様の言葉に私は驚きそしてすぐに謝る。


【すいません】


主なし(ロスト)?・・・・・・ジーンって、あの(・・)可愛い死体獣(ゾンビビースト)の創造主のこと?」


 ・・・・・・無視された。それはともかくジフ様って有名人である。


「はい。個性的と評判の死体獣(ゾンビビースト)骸骨兵(これ)の創造主は同じです」


「そうなの・・・・・・それならいいわ。クロノちゃんもあの死体獣(ゾンビビースト)が好きなの。ね~クロノちゃん」


 喪服の死霊魔術師(ネクロマンサー)が腕の中のおくるみに語りかけると、蒼い壁が消えて体が自由になる。ジフ様の棺も無事である。

 それにしても私の同胞・・・・・・死体獣踊子隊ゾンビビーストダンサーズが好きとはなかなかいいお子さんである。

 顔を見ようと頚骨を伸ばした私は、おくるみの中にそれを見た。


 白い。



 小さい。




 とても細い。





 骸骨を・・・・・・






 カタカタカタカタカタカタカタカタカタ








 骨を鳴らす音が響く(あかごのこえがひびく)

逃げた先が安全(主に精神的)とは限りません。

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