死霊騎士怒る
正しき怒り・・・・・・それは・・・・・・
「は?」
死霊騎士ユウ様が間の抜けた声を上げ。
「解体していいんじゃな。よし! こっちにわしの研究室が・・・・・・」
浮遊干物死霊魔術師モーゼス様が私の左手を引いた。その細い・・・・・・私も細いが・・・・・・腕の見た目とは違う凄まじい力に驚く。私は右手に巻いたジフ様の棺ごと引き摺られる。
引き摺らないで欲しい。あと先ほどから言っているばらすって何?
「おっ御待ちください! モーゼス様、その骸骨兵は勇者と戦った生き残りで、貴重な情報が・・・・・・」
「何!? 勇者と戦って生き残ったじゃと! 馬鹿もん!! なぜそれを早く教えん!!! ・・・・・・解体どころか骨の髄から精気の一滴まで調べんといかんではないか。非常に! 非常に!! 非常に興味深い!!!」
死霊魔術師デニム様の制止の声に、私を引く浮遊干物死霊魔術師様の力はより強くなる。骨が外れそうである。
ズポン
「お?」【おや】
・・・・・・いや、いま外れた。太い根野菜を抜くような音と共に左腕が肩甲骨から外れる。最近組み立てたばかり新しい体だからだろうか、幽霊船の時に比べて壊れやすいような気がする。
ジフ様から最初に頂いた体は、頭蓋骨のみか・・・・・・
「ギャン」
自身の体の変化に寂しさを感じていると苦痛の声と共に干物を岩に叩きつけたような音が響いた。宙に浮いていたせいか浮遊干物死霊魔術師様が勢いよく大理石の壁に突っ込んだようである。
「大丈夫ですか!? モーゼス様!」
「大丈夫じゃ! それより早く研究室に!」
「モーゼス殿、骸骨兵も”骸骨洞窟”の救助者です。解体したければ首席殿に御相談いただきたい」
「あれも駄目! これも駄目! わしは何を解体すればいいんじゃ!」
「モーゼス殿!? もしや可愛いこの子達まで、解体するつもりか!」
「当たり前じゃろ。あんな生きがよくて個性的な死体獣、解体さんでどうする」
「・・・・・・今の言葉、聞き捨てならん! 身命をかけて死霊王様に直訴を・・・・・・」
「モーゼス様もユウ殿も落ち着いて・・・・・・」
「直訴じゃと!? やれるもんなら・・・・・・」
長身の死霊魔術師が仲裁するが御二方の口喧嘩は段々と白熱していく。私は、床に転がる左腕を取り付けながらその様を眺める。
ジフ様を起こしてくれる死霊魔術師様にはいつ会えるのだろうか?
私が早く口喧嘩が終わらないかと考え始めたころ、背後から鳴き声が聞こえた。
「ピョン!」
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結局、御二人の口喧嘩は、箱から抜け出した死体獣踊子隊の踊りを見た死霊魔術師モーゼス様が、『くっ・・・・・・くやしいっ・・・・・・だが可愛いいっ』と言ったことで終了した。
流石は、ジフ様が創造した私の同胞である。
「・・・・・・モーゼス殿、骸骨兵の件については、この子達の安全と交換でということで」
「よかろう! わしもそれで手を打とう。そうと決まれば、さっさと首席に・・・・・・」
「どうかされましたか? モーゼス殿」
「首席の坊主・・・・・・今ここにおらんのじゃ」
「司令部にいないのですか? では街に?」
「いや、この”北聖都ノスセト”に、じゃ」
「・・・・・・確か、これから聖都攻略会議の予定だったと記憶してますが?」
「少し前に大勢の下っ端死霊魔術師が任務放棄をしおってな。詳細は知らんが、辺境のどっかの拠点で反乱を起こそうとしてたらしい。それで仕事を増やされた首席の坊主が怒ってな『会議開始までには戻ります』と言い残していってしもうた」
「・・・・・・それではアーネスト・エンド様に・・・・・・」
「アーネストの坊主も『実験体! 実験体!』といいながら出かけたぞ。あと次席と三席も」
「・・・・・・一度に四人も・・・・・・ここは聖都戦線の最前線拠点だぞ・・・・・・死霊軍団の幹部は何を考えているんだ!?」
「そもそも五席と八席は、この街にすらきとらん。気にするな」
「勝つつもりあるのか死霊魔術師!!!」
死霊騎士ユウ様の心の叫びが青い光と共に部屋を満たした。
棺を盾にしてその精気の奔流をしのぎつつ私は思う。
ジフ様! 艱難辛苦を乗り越えて私は頑張っております!
精気に晒される棺が軋む。
ギシギシギシ
可愛いは正義です。
密約? 裏取引? 犠牲?
些細な問題です。