初めての出会い
まずは、お互いをよく知りましょう。
黒い。
私は黒い光に呑み込まれ、より濃い黒に沈んだ。暗いではない、光が無いのではなく泥水の中で目を開いているような・・・・・・
私がそんなことを考えていると頭蓋骨が上に引かれ、続いて体が浮遊感に包まれる。
「着きました。全員いますな」
反射的に上を見上げるといつの間にか視界を包む黒は無くなり、死霊魔術師デニム様の声が聞こえた。
視線を下ろすと黒い光に呑まれる前と同じ位置に長身の魔術師と騎士達がいる。ただし背景が全く変わっている。先ほどまでの廃屋ではなく、四角い大理石を積み重ねた壁に流麗な彫刻が施された柱が並ぶ部屋なのだ。
ここはどこなのだろう?
てっきり暗くてジメジメとした”骸骨洞窟”のような場所にいくと思っていた私は困惑した。こんな教会のように綺麗な場所にジフ様を治してくれる死霊魔術師様がいるのだろうか。
「死霊魔術師に死霊騎士・・・・・・ようやっと着いたか」
不意に背後から声が掛けられた。
老人?
口調から背後の人物を予想し振り向く。
・・・・・・背後の人物は、見た瞬間だけなら老人に見えたかもしれない。肉の無い皮と骨だけの四肢、顎が膝につきそうな猫背、どちらも長い年月を生き抜いた証と言えば頷けるだろう。
しかし虚ろな眼窩と三角頭巾の外套から零れる陰の精気が、この人物が死者であることを示していた。
この枯れた死体・・・・・・浮いている!?
おまけにこの死者は、宙に浮いているのである。一緒にきた騎士達も驚いているのか部屋に鎧がぶつかる金属音が響く。
「モーゼス様!? なぜ転移陣の部屋に?」
「ん? なぜもなにも主らを待っておったのさ。アーネストの坊主からあの興味深い死体獣が、また届くと聞いてな・・・・・・その黒い箱じゃな? 渡してもらうぞ」
長身の魔術師の問いに答えた枯れた死体――モーゼスの顔が死体獣踊子隊の入っている箱に向く。
「デニム殿、この方は?」
「・・・・・・ユウ殿、こちらの方は死霊魔術師第四席デクテル・モーゼス様です。モーゼス様、こちらは死霊騎士ユウ・バジーナ殿です」
「そうか、そうか・・・・・・では死霊騎士、貰っていくぞ」
「・・・・・・デクテル・モーゼス殿、申し訳ないがこの最重要救助者は、死霊王様の代理人である首席殿より、直接連れてくるように命令を受けている。今ここで御渡しするわけにはいかない」
「・・・・・・首席殿ね・・・・・・あやつは、前のも全部独り占めしておる。次はわしの番じゃ! いいからよこせ」
なぜかこの浮遊干物死霊魔術師様は、とても死体獣踊子団が欲しいようだ。声は老人なのに言っていることが非常に子供っぽい。
あと死体獣踊子団、いつの間に営業活動をしていたんだ。世界は私と共に目指すのではなかったのか?
「命令なので御渡しできない・・・・・・どうしても必要でしたら首席殿と御相談いただきたい」
「ちっ、けちな奴じゃ! 首席の奴がよこさんから横取りにきたというのに・・・・・・」
「モーゼス様・・・・・・横取りって・・・・・・」
その会話に死霊魔術師デニム様が仕事に疲れた兵士長のおやっさんのように目頭を押さえた。浮遊干物死霊魔術師様がどうかしたのだろうか?
「仕方が無いの隙を見て・・・・・・ん? その血塗れ骸骨騎士は・・・・・・」
浮遊干物死霊魔術師様が私のほうを向く。
何か?
「即席骸骨兵か・・・・・・それにしては陰の精気が多いのう。百人以上殺してそうじゃ」
そう言うと浮いたままスーと私に近づき私の左手――竜骨毒手を両手で掴んだ。その両手は瞬く間に・・・・・・溶けない。そのまま私の左手を観察するように撫でたり触ったりしている。
この左手で溶けない存在に初めて会った!
「ふむ? 瘴気竜の骨に複合毒・・・・・・即席骸骨兵には分不相応な腕じゃな。逆なのか? 相応しいだけ殺したからこの腕なのかのう? ・・・・・・興味深い! 非常に興味深い!! 非常に非常に興味深い!!!」
興奮する浮遊干物死霊魔術師様が死霊騎士ユウ様に言う。
「死霊騎士よ、血塗れ骸骨騎士、解体してよいな!?」
私はこれではなく大鉈ですが?
それとばらすって?
ただし解体はやりすぎです。