主のために
千里の道も一歩から
「良かった。無事に戻られて安心しましたデニム殿。どうしても一人で行くと言うので心配していましたぞ」
死霊魔術師ブルトゥス様を御見送りした私は、死霊魔術師デニム様と一緒に”死体墓地”に向かった。草原の中、緑に埋もれる廃村に着いた私達を死者の騎士達が迎える。
ちなみに目出し帽の頭蓋骨は長身の死霊魔術師の腰で揺れている。破壊許可は下りなかったのだ。残念である。
「それでスレダー・ブルトゥスは?」
「・・・・・・ブルトゥスの奴はっ・・・・・・遠いところにっ・・・・・・残念です」
死霊騎士ユウ様の質問に、御友人を見送ったばかりの死霊魔術師デニム様は頭蓋骨を伏せ声を震わせながら答えた。友人との別れは寂しいものだから当然のことである。
「・・・・・・ご心中、お察し申し上げます」
「いえ、ユウ殿。ありがとうございます」
御二人が頭蓋骨を下げ合っている。どうかしたんだろうか?
「ところで骸骨兵のあの姿は?」
はい? 私ですか?
「どうも右手で棺を巻くことが気に入ったようでして・・・・・・」
「自分の体ごと?」
そう! 今の私は完全である! なんとジフ様の棺と自分の体を蛇腹腕で一緒に巻いているのである。これならば光る縄で巻かれるより密着度は高く、自分で移動できる。さあもっと見てください。
あれ? 左の毒手だけは一緒に巻けてないのでまだ未完なのか?
「ジーンの骸骨兵は、ほうっておきましょう」
「そうだな。では、中央司令部への転移準備を御願いしたい」
「分かりました」
御二人が廃村の中心にある朽ち果てた家屋に入っていった。特に呼ばれてはいないがなんとなく私も付いていく。
中に入ると御二人以外にも骸骨騎士達がいた。内部は、家財どころか床板さえ無く地面が剥き出しになっている。
「ユウ殿、隅の方によっていただきたい。念のため地脈を確認しておきます」
死霊魔術師の言葉に騎士達は部屋の端に移動する。
地脈?
聞きなれない言葉に頭蓋骨を傾げていると長身の魔術師を中心にして幽霊船でドジッ娘が描いたような紋様が黒く浮かび上がった。確かあの後は・・・・・・とても怖い影が現れたような・・・・・・
「陰の精気も十分、地脈も安定している。いつでも転移できますな・・・・・・骸骨兵、こちらにこい」
恐怖に震える私に御呼びが掛かる。
【なっなんでじょょう?】
「どうした? 中央に行くのだろう? 一度転移すると地脈が乱れて、次に転移できるようになるまで時間が掛かる。全員一緒に転移するから早くこい」
中央に転移? なぜですか?
騎士達が大きな黒い箱を紋様の中心に運び自身もその場に立つ。残るは恐怖に震える私だけになった。
「早く転移陣の中に入れ。アーネスト・エンド様にジーンの治療を願うのだろう」
アーネスト・エンド? ジーンの治療・・・・・・治療・・・・・・治療・・・・・・あっ!
私は、ジフ様が棺の中で永眠していることを思い出した。もちろん一時たりとも忘れてはいない。ただ少しだけ思い出すのに時間が掛かっただけだ。
ジフ様! 私は常にジフ様のことを想っております。
念のため右腕に抱くジフ様に語りかけてから、黒い紋様の中に入る。まだ怖いがこれもジフ様のためと思えば骨が震えることはなかった。
「よし。全員、陣の中から出ないように。これから転移を行なう」
死霊魔術師デニム様の言葉と共に黒い光が地面より溢れ出し家屋の中を満たしていく。視界が黒に包まれる。
体が地面に吸い込まれるような感覚と共に私はその場から消えた。
転移、テレポート、瞬間移動・・・・・・どれもとても便利です。
これにて第四章が終了します。
次回より大陸中央編(仮)となります。