主の棺
友人とはいいものです。
「デニム様・・・・・・なぜここが!?」
肉のない顔に驚きを示しつつ死霊魔術師ブルトゥス様が問う。私も頭蓋骨を傾げる。
『決着は私がつける』と言われましても、もう半身不随ですよ?
私が突っ込む前に話が進んでいく。
「ブルトゥス、おまえの考えぐらい分かる・・・・・・と言いたいところだが、これのおかげだ」
月を背にした死霊魔術師――銀の月光が背後からその身を包み表情が分からない――デニム様が腰の袋から何かを取り出しつつ答えた。
「水晶玉? しかし、遠視の魔術は確認されて・・・・・・」
取り出された何かが地に投げられる。転がってきたそれは、目出し帽を着けた頭蓋骨だった。
かすかに見覚えがあるような? ないような? 最近、死霊魔術師様の登場が多くて困る。もう少し個性的ならいいのに。
「や~あ! 昨日ぶり? 僕のこと覚えてる? 当然覚えてるよね」
「その自称、仮面の死霊魔術師が、おまえの協力者から目的地まで全部教えてくれた」
「貴様! 独断専行の上に同志を売ったのか!!!」
「怒らないでよ。僕だって悩んだんだよ? だけど頭蓋骨を潰すって言われたらさ、仕方ないじゃない?」
「・・・・・・”死体墓地”に集まっていたおまえの言う同志達は、『事の次第は司令部に伝えた。間もなく粛清部隊がくる』と言っただけで全員逃げ出した。残るはおまえだけだ」
「そういうことでさ。ブルトゥスもさ~、僕を連れて逃げてくれない? 司令部にばれたら、もう出世も何もないからさ~」
「・・・・・・まだだ! 元より事が露見することは覚悟の上! 必ずや要塞潰しを手に入れて戦況を・・・・・・」
「ブルトゥス、そもそもそれが間違いなのだ。要塞潰しなど存在しない。それは――」
ん? 聞き捨てならない。要塞潰しとはジフ様のことである。訂正しなければ!
【要塞潰しはジフ様!】
私は、右腕に持つジフ様の棺を大地に立たせつつ伝えた。
「――誤解なのだっと骸骨兵っ! 余計なことは言うな!」
なぜか死霊魔術師デニム様に怒られた。
「・・・・・・ジーンが要塞潰し?」
軍服の死霊魔術師が考えるように呟く。
そのとおりです! ジフ様は偉大なのです!
「まっまさか! ジーンの奴は自分自身を要塞潰しにしたというのか!? 死霊魔術師の身を捨てて骸骨兵に!? あり得ない! ・・・・・・しかし! しかし! ジーンならやるのか・・・・・・」
「まて! ブルトゥス、それも誤解だ。いくらジーンでも自分を骸骨兵にするはずが・・・・・・ありそうな気もするが今回は違う」
「・・・・・・それほどの覚悟が必要なのか・・・・・・私も・・・・・・まだまだ甘いのか・・・・・・我が友よ」
なんだろう? 死霊魔術師ブルトゥス様が小さな声でブツブツ言っている。今のうちに止めさしたら駄目なのだろうか?
「ジーンが要塞潰しということは、その棺の中は?」
【ジフ様!】
死霊魔術師様に問われたので素直に答えておく。
「いろいろ誤解があるが、その棺はジーンの亡骸なのは本当だ。ブルトゥス、まさかそれを聞いてもまだ棺を奪うとは言うまいな?」
「はい・・・・・・私には覚悟も力も足りないようです。ジーンのようにまずは自らを変えます」
「では、大人しく投降するな? 私もできる限りのことをするから安心しろ」
「・・・・・・いえ、私は私の道を歩きます。さようならデニム様」
「逃げても粛清部隊に追われるぞ・・・・・・それでも行くのか?」
「・・・・・・」
隻腕の死霊魔術師は無言で地平線に現れた太陽に向かって歩き出した。杖に縋るその姿は弱々しかったが何かを決意した力強さも感じられる。
「ちょっとさ~! ブルトゥス! 僕も連れてってよ! こら~無視しないでさ~!」
感動的な場面に目出し帽の頭蓋骨が喚く。
【デニム様、これ潰していいですか?】
私は友人を見送られる長身の死霊魔術師に尋ねた。
とくに見逃してくれる友人は。