主の力
頭蓋骨と亡骸は使いようです。
どうすればいいのだろうか?
私は悩む。
いったいどうすればいいのだろうか?
私は棺とともに揺れながらさらに悩む。
いったいどうすればこの至福の時を味わい続けることができるのだろうか?
私は棺とともに死に損ない達に運ばれながら真剣に悩む。
”死体墓地”に着けば私は解放されジフ様との至福の時が終わってしまう。”死体墓地”への移動を開始してから延々と考え続けているが、いい方法が思い浮かばない。
こうして悩み考えている間も疲れ知らずな死に損ないは、着実に”死体墓地”に近づいている。
少しは休んでくれればいいのに・・・・・・んっ!?
ふと頭蓋骨に浮かんだその考えに素晴らしい方法を思いつく。
私を運んでいる死に損ない達を倒してしまえば”死体墓地”に着くことはなくなる!
なんという完璧な手段であろうか。私を運ぶ死に損ないを全滅させれば誰も私を”死体墓地”へ連れて行くことはできなくなる。つまり永遠にジフ様の棺と一緒にいられるのである。
私は早速、敵の情報を確認する。私と棺を運んでいるのが八体、前後左右に各十体、先頭に死霊魔術師――『上官には逆らうな! 死霊魔術師を守れ!』聞こえませ~ん、知りませ~ん――ブルトゥス様の四十九体。
ちょっとだけ多いから魔術師から狙う。
まずは体を拘束する光る縄を左腕で引き千切る・・・・・・魔術の縄を侵す毒って、どんな毒なんでしょうかマダム・ケルゲレン?
自由になった体で棺の上に膝立ちになり死霊魔術師ブルトゥス様目掛けて右腕で大鉈を振るう。
血塗れの大鉈を持った白い蛇が夜の平原を伸びていく。
「もうそろそろ”死体墓地”につぎゃあっぁぁ!?」
ちっ外した!
真っ直ぐに伸びた蛇腹の腕は、軍服の死霊魔術師に届きはした。しかし残念なことに砕いたのは頭蓋骨ではなく右肩であった。それでも人間であれば体の半ばまで叩き割られるその一撃は致命傷だったろう。
人間であれば。
「くっうぁぁぁぁうぅ! バッ緊縛魔縄の効果っ、消えたのか!?」
死霊魔術師ブルトゥス様は、死に損ないである。頭蓋骨を砕かない限り倒れはしない。
初撃を外した私は、右腕を縮めながら速やかに次の行動に移った。大鉈をしまい、右腕をジフ様の棺に巻きつけながら地面に飛び降りる。
そして棺を担いでいた死に損ないが振り向く前に右腕を棺ごと大きく振り上げる。『使えるものは主でも使え』了解です船長ガデム様!
【ジフ様の一撃!】
肉と骨を叩き潰す嫌な音が響く。
私が渾身の力で叩きつけた棺は、直前まで棺を担いでいた八体の死に損ないを大地に叩きつけすり潰した。
流石は、ジフ様! 堅くて強くて格好いい!!
「骸骨兵っ! 狂ったか! ジーンの、主の遺品を武器にするとは!」
肩を砕かれた軍服の死霊魔術師が喚く間に、引き続き雑魚の掃討を行なう。棺を絡めた右腕を振り回し当たるを幸いに死に損ないを砕き潰していく。
どこかの貴族御用達の棺らしいが、剣や槍がいい音をたてて弾かれるこの強度はジフ様に相応しい。掠る程度の攻撃は、寧ろ当たりに行くように体ごと叩きつける。
「なんなんだあの棺はっ! 普通壊れるぞ! まさか吸血鬼の要塞棺桶か!」
死霊魔術師ブルトゥス様が損傷から立ち直る前にできるだけ敵を削る。
振り回される棺を運良く避けた死に損ないには左手で追撃を加える。毒で倒すことはできないが、竜の骨で作られた腕は並みの剣を弾き骨を貫く。
「くっ距離を取れ! 魔術を撃ち込むから同時にかかれ!」
指揮官の命令に残り二十体ほどに減った死に損ないが離れていく。
「緊縛魔縄!」
再び光る縄が私を縛る。同時に死に損ないが一塊となって突っ込んできた。
私は静かに左腕を振るい光の縄を切り裂く。
「なっ魔術を! まずい広がれっー!」
ベシャギュツバキギャギリガツユチュ!!!
その命令に反応する間もなく死に損ない達は、私が振り回した棺に叩き潰され一掃された。まだ動ける者もいるようだが戦力としては数える必要はない状態だ。
残すはあと一体。
私が最後の敵を倒すため一歩踏み出したときその声が響いた。
「待て! ブルトゥスとの決着は私がつける」
沈む月を背に一人の死霊魔術師が現れる。
正解はありません。
目的を達成できればいいのです。