踊る大補給戦
補給任務の続きです。
「その空っぽの頭蓋骨を少しは回せ! 我々は、大陸中央の最前線に援軍を送るのが目的なんだ! 戦えもしない小動物を死体兵にする時間も余裕もないのだ!!」
ジフ様の御怒りは絶賛継続中である。先ほど擦れ違った仲間の骸骨兵に続き、私まで兎の死体を持ってきたのがよほど頭蓋骨にきたのだろう。怒っている上官には、反論しないのが正しいので私は無言で頭蓋骨を垂れた。
「だいたいだな昼間に出て兎が一体とはなんだ!数日後には、回収部隊が来るんだぞ!今月こそはノルマ以上の死体兵と骸骨兵を創造して席順を上げられると思っていたのに! 何で私ばかりこんな目に・・・・・・」
叱責が愚痴に変わりながらジフ様の御話は続く。途中、別の骸骨兵が栗鼠の死体を持ってきて叱責がさらに激しくなったのにはさすがにうんざりした。
ジフ様が疲れ叱責が終了すると凝った肩の骨を鳴らしつつ洞窟の外に向かった。反省を踏まえ戦える生物の死体を見つけるのだ。
ジフ様の御話を空の頭蓋骨に反響させながら私はすばらしい方法を思いついていた。日の光をまぶしいく思いつつ先ほど兎を手に入れた場所に急ぐ。むろん二羽目の兎を期待しているわけではない。あそこには戦える生物の死体があるのだ。
ぶつ切りになった蛇の死体が!!
夜の間に他の動物に喰われたのか、ほとんど骨だけになった蛇の死体(残骸だろうか?)回収した私は”骸骨洞窟”に走る。微かに覚えている先ほどの御話からジフ様が急がれていることは理解できたからだ。
抱えた蛇の残骸を落とさないように洞窟を進むと途中の部屋で十体の死体兵が下から上がってきた。ジフ様が新たに創造された仲間達だ。仲間が増えたことを喜びつつ私はジフ様の部屋に向かった。
部屋に入るとジフ様が机に向かって踊られている。
はて? 神官の死体は部屋の隅にあるし他に死体は無かったような?
ジフ様が何のために踊っているか理解できず頭蓋骨を回転させる。そのうちジフ様から青い光が広がり机の上に集まった。光が広がるとジフ様は、踊りをやめられ机に手を伸ばされた。
その机の上には・・・
踊る死体兎と死体栗鼠がいた。
ジフ様は、クルクルと踊る死体兎二匹と死体栗鼠一匹の耳や尻尾をつついたりなでたりしつつ頭蓋骨を左右に揺らされている。
斜め後ろからなので表情までは分からない。
「は~、なんで私ばかりこんなことになるんだろな? 辺境に飛ばされるし、神官付きの兵隊は攻めてくるし、ノルマはきついし」
死体兎達に語りかけているのだろうか? ちなみに死体兎達の濁った目は不気味だ。
ジフ様が机に肘をつき手のひらに顎骨をのせられた。
「ふふふふふ、踊れ! 踊れ! 兎一号と兎二号。かわいくキュートな耳で私を癒すのだ。栗鼠一号は、尻尾フリフリ音頭を続けろ」
間違いない。ジフ様は、あの不気味で可愛い兎一号、二号と栗鼠一号に命令をしているのだ!!
しかしいったいなぜ? 大道芸でもさせて兵士の慰安をされるのだろうか?
謎が謎を呼ぶ中、頭蓋骨を回転させ続けていると抱え込んでいた蛇の残骸が一つ床に落ちた。骨と岩がぶつかる軽い音が響く中、ジフ様が背骨を鳴らしながらゆっくりとこちらを向かれた。
「き、き、き、き、きさまそこで何をしている。いやいつから見ていた!!!!」
ジフ様の命令に、蛇の残骸持ってきたこと机に向かって踊っていたときからと伝える。
「なぜこんに早いんだ!!いや、全部見ていたのか、そうか、そうなんだな?」
ジフ様は、私に近づきつつ全身から青い光を撒き散らす。まるで村の祭火のようだ美しい。
「頭蓋骨を砕くか?いや幽霊になられたら不味いし他の死霊魔術師に拾われたら最悪だ。神官に依頼して浄化するのが確実だが・・・・・・」
低い声で何か呟かれている。
御命令に従い戦える生物の死体を御持ちしましたがこれはどのようにすれば?
「なんだ?少し待て神官への依頼方法が思いつかんのだ。・・・そんな蛇がノルマの足しになるか! ノルマ? ノルマ! ノルマ!?」
頭蓋骨を抱え天上に向かって叫び始めたジフ様の後ろで、三匹の小動物が踊り狂っている。
「冷静になれ。冷静になれ。母上助けて。・・・ただでさえ少ない骸骨兵を減らすことはできない。しかしこのことがばれたら身の破滅、おのれ神め! 私がそんなに憎いのか!!」
ジフ様から溢れる青い光が勢いを増す。後ろの小動物もさらに大胆に、さらに爆発的に踊る。
ついでに私の腕の中の蛇も踊りだす。いつの間にか骸骨蛇になっている。腕の中で踊りだす骸骨蛇を見た瞬間、私の頭蓋骨が冴え渡る。
謎は全て解けた!
さすがジフ様。私が戻る前から骸骨蛇を創造する準備をされていたのですね!
「なにっ?」
抱えていたせいか私の肋骨と絡みあっている骸骨蛇を指差し続ける。
ですから踊りと呪文のことですが?違うのですか?
「・・・いや。大鉈の骸骨兵、そのとおりだ。骸骨兵と他の骨を組み合わせる実験を準備していたのだ。良くやった実験は成功だ。引き続き死体を運んで来い」
ジフ様にお褒めいただいた。とても嬉しい。
新たな仲間が増えました。