主の友
友人とはなんでしょう?
「止まれ! 方向を確認する。周囲への警戒を怠るな」
どれぐらい経っただろうか、銀に輝く月が傾き始めたころ死霊魔術師ブルトゥス様が死に損ない達に命令した。私とジフ様を継続的に襲っていた揺れが治まり、さらに大地に下ろされる。揺れにもなれて楽しくなっていたのに残念だ。
「・・・・・・”死体墓地”は、丁度南西か。これでデニム様は、私が北に逃げたと考えるだろう」
水晶玉を見ながら軍服の死霊魔術師――ブルトゥス様が独り言を喋られている。ジフ様を誘拐しながら私とジフ様を縛り付けてくれた良いのか悪いのかよく分からない方だ。
私がなんとなく眺めているとこちらに頭蓋骨を向けられた。
「すまないな。ジーンの骸骨兵。緊縛魔縄の効果が終わったら解放してやる」
【このままでいい!】
いきなりこの至福の状態をやめろと言われて同意できるわけがない。私は全力で拒否の意思を伝えた。
「・・・・・・縛られるのが好きなのか? いや、そんな筈はないな。その棺が大事なのか?」
なぜ当然のことを聞いてくるのだろう?
【棺は大事! ジフ様が全て入っている!】
「そうか・・・・・・そうだなジーンの奴は、いつも上を目指して我武者羅に頑張っていた。補給任務で敵に突っ込んだり、偵察任務で敵に突っ込んだり、防衛任務で敵に突っ込んだり本当に勇敢な奴だった。遂には要塞潰しなんていう力まで創造した。私には真似できないことだ」
うむ! ジフ様の偉大さを理解している。この死霊魔術師様はいい方だ。
「しかし! 私はそのジーンの生み出した力を、全てを奪うことになる・・・・・・あの聖都を落とすために」
なんか熱く語りだした。それにこの方も激しくジフ様が欲しいようだ。私と同じ気配を感じる。
「ジーンの骸骨兵、君は知っているかい? 現在大陸中の聖都戦線がどうなっているか」
何それ?
死霊魔術師ブルトゥス様は、私が頭蓋骨を傾げると怒り心頭という声で喋りだす。
「まさに煉獄だ! 数度にわたる攻略戦は全て失敗し、何万、何十万という仲間達が浄化され地に還った! スチナ王国を滅亡させたときに皆殺しにした人間が有るとはいえ無策にもほどがある。
それなのに幹部達は『死体兵や骸骨兵などいくらでも創造できる。少しでも損害を与えられればそれでいい』と言い続ける!
あまつさえジーンの奴が創造した新型骸骨兵のことを・・・・・・要塞潰しのことを秘匿して幹部間だけ情報を交換している! すぐにでも最前線に投入すべきなのに!」
言い切ると死霊魔術師ブルトゥス様が一回転する。まるでジフ様のようだ。それと話が難しすぎて分かりません。
「しかし、私と同じように現在の戦況を憂う同志達がジーンの遺品・・・・・・新型骸骨兵が”死体墓地”に運ばれるということを教えてくれた。
私は決意した! 今こそジーンのように勇敢に戦うべきときだと、そしてジーンの残した力を使って聖都を落とす!」
決め台詞を言い終わった役者のように静かになった軍服の死霊魔術師は、一転冷静な声で続けた。
「デニム様達は、私を追って北に移動しているだろう。その間に私達は、同志達が確保しているはずの”死体墓地”に向かう。後は、転移陣で秘密の拠点に転移すればいい・・・・・・君とはそこでお別れだ」
私は、ジフ様の棺に縛られたまま思う。
・・・・・・つまり”死体墓地”に着いたらこの御褒美は終了ですか?
稀に若気の至りを暴露されます。