誘拐
大切なものが失われるかもしれません。
飢え。
死霊魔術師ブルトゥス様から感じるその気配に、危機感を覚え後じさりする。
「どうしたんだ、骸骨兵?」
死霊魔術師デニム様が訝しげに声を掛けてくる。
何かジフ様を欲する気配を感じたんです。
私が長身の死霊魔術師にそう答えようとしたとき死霊騎士ユウ様が割り込む。
「ブルトゥス殿、一つ御聞きしたい」
「なんでしょうか?」
「貴殿の部下は、なぜ外側ではなく内側を向いている?」
私は驚きながら周りを見回した。周囲を警戒するために広がった死に損ない達は、確かに全員こちら・・・・・・私達四者、いやジフ様の棺を見ている。
まっまさか! 彼らもジフ様が欲しいのか!?
「緊縛魔縄!」
棺越しでも皆を魅了するジフ様に感動していた私は、いきなり光る縄で簀巻きにされた。その光の縄は、私とジフ様の棺を芸術的に密着させ一纏めにしている。
あああっ! ジフ様とこんなに近く!
至高の御褒美を堪能する私の横で緊迫した声が交差する。
「どっどういう積もりだ! ブルトゥス! おまえもか!」
「すみませんデニム様・・・・・・ジーンの残した力は私が使います。奪え!」
軍服の死霊魔術師の宣言に黒き死霊騎士が焦り命じる。
「いかん! 守れ!」
私達を囲む死者が先に動いた。
数人掛りで素早く私ごとジフ様の棺を持ち上げる。仰向けになった私の視点が空を向く。無数に輝く星達が綺麗である。
頭蓋骨を地に向けると丁度骸骨騎士達が、大きな黒焦げの箱を中心に円陣を組んでいた。
見事な円陣である。一部の隙もない。並々ならぬ絶対死守の気迫が伝わる。
「ジーンの秘術・・・・・・要塞潰しの力は私が貰っていきます」
身動きできない私を置いて話が進む。袂を分かった友人達の生暖かい会話が・・・・・・
「まっまて! ブルトゥス違うのだ! それはジーンのっ、とにかくやめろブルトゥス! 誤解なんだ!」
「デニム様、間違いでも誤解でもないのです! 私は友の力を使ってこの戦いを終わらせます」
「いや、だから! ジーンの力というのがそもそも・・・・・・」
「分かっています。友の形見を自らの野望のために使うことの過ちは」
「無理なんだよ! ブルトゥス! それを手にしても出世はできない!」
「元より出世など求めていません。しかし、この力を司令部に・・・・・・あの一桁台の幹部達に渡すことはできないのです」
「違うと言っているだろう! 根本的に間違っているんだ!」
「・・・・・・そうなのかもしれません。さようなら、あなたと話すと決意が揺らぎそうになります・・・・・・半分は足止めのために残れ!」
死霊魔術師ブルトゥス様はそう言うと身を翻し走り出す。死に損ない達も死霊魔術師デニム様達を囲む者を残してそれに続く。当然、私とジフ様の棺も一緒に運ばれる。
走っているせいか激しく頭蓋骨が揺さ振られる。だんだんと気持ちが悪くなってきた。棺の中のジフ様は大丈夫だろうか?
ジフ様の心配をする私の耳小骨に後方からともに旅をした仲間達の声が届く。
「敵は減った! 守りきるぞ!」「おう!」「ジーンの棺を取り戻さねば!」「今は、こちらの身が危ない!」「助ける必要あるんですか?」「・・・・・・あまりない」「だよな~」「見捨てる気か!」
・・・・・・助けはあまり期待できないかもしれない。
自分自身の含みます。