誤解
正しい情報からでも正しい答えを導くのは困難です。
「援軍にしては早すぎる」
私と同じように水晶玉を覗き込んでいた死霊騎士ユウ様が呟く。死霊魔術師デニム様もその言葉に頷き答える。
「昨日から私達を監視していたのは彼らでしょう。死に損ないの中に水晶玉を持った死霊魔術師がいます」
「数は・・・・・・死体兵、死体獣あわせて三十程度か。なめられたものだな」
「よほど自信があるのか、こちらの力を見誤っているのでしょう・・・・・・まっすぐ向かってきます。日が落ちるまでには接触することになりますな。逃げますか?」
「・・・・・・逃げるまでもない。むしろさっさと倒してジフ殿の秘密とやらを聞き出そう。骸骨兵から聞くより早いだろう」
「同感です。彼らから聞き出しましょう」
これからジフ様を狙う不届きものと戦うというのに、その声は苦行から解放されるように弾んでいた。
「戦闘だぞ!」「剣の錆びにしてくれる」「昨日は戦えなかったからな~」
背後からも存在感が薄い骸骨騎士達の喜びの声が聞こえた。
ジフ様、彼らには緊張感が足りない気がします。
思わず背中のジフ様に報告してしまった。
~~~~~~~~~
「僕の名は、仮面の死霊魔術師!
君達が運んでいるジフの秘術を渡してもらおう。あり得ないと思うが、もし拒むなら僕が創造した究極の死体兵と死体獣が君達を八つ裂きにしてしまうよ?
さあ! 僕が寛大にも話し合いで済まそうとしているうちにその棺を置いて去りたまえ。僕の気が変わらないうちにね。はっはっはははははははははは・・・・・・」
「デニム殿、最近の死霊魔術師は、仮装をするのが流行なのか?」
「いえ、そんなことはありません。あと目出し帽は仮面ではないでしょう」
ジフ様を狙う第二の刺客は、目出し帽の死霊魔術師様だった。
前回の刺客と違い自分から名乗るとは・・・・・・礼儀正しい刺客である。
「はっ!」「とう!」「てりゃ!」「我が技を受けよ!」「灰になれ!」「雑魚だな」「どこが究極だ?」
おや?
私が礼儀正しい刺客に感心していると究極の死体兵と死体獣が肉片に変わっていた。
「ぼっ僕の究極の死体兵達が・・・・・・あり得ない! 一体一体丹念に肌を手入れして髪と毛を整えたのに! 服だって全員揃いのものをあつらえたんだぞ!?」
礼儀正しい目出し帽の死霊魔術師様がその光景に驚き慌てている。
肌の手入れに揃いの服・・・・・・羨ましい。ジフ様が起きられたらおねだりしてみよう。
「おっ覚えていろ! 今度は必ずジフのひっぎゃえ!?」
――結局、第二の刺客は、別れの言葉を話している内に首をはねられて御用となった。
「なぜジフ殿の棺を狙ったんだ? 秘密じゃなくて秘術とか言っていたようだし。 何が目的だったんだ?」
死霊騎士ユウ様による尋問の時間が始まる。
「とっ惚けるな! 君達が運んでいるその棺だ!」
「・・・・・・ふむ? では、なぜこの棺がジフ殿の秘密か秘術だと考えた」
尋問の内容が少し変わった?
「ふっ、それは僕の優れた頭脳が断片的な情報から真実を導き出したからさ!」
目出し帽を被った頭蓋骨が自慢げに揺れている。対する死霊騎士ユウ様が何か呟いてる。
「・・・・・・こいつも話が伝わらない」
「その断片的な情報とやらを教えてもらえるかな仮面の死霊魔術師?」
こんどは長身の死霊魔術師が問う。
「はっはっはっいいだろう教えてやろう! 謙虚な態度は大切だぞ。
始まりは、ジフの奴が新しい骸骨兵を創造したと自慢してきたことだった。
その時は聞き流したんだけど、暫くして大陸中央で画期的な死に損ないが幹部の注目を浴びているという噂を耳にした。
そして、三日ほど前にジフから『ロッキー山脈要塞を潰して出世した』と遠話があったのさ。始めは信じられなかったけど、中央の知人に確認したらジフの昇進が本当のことだと分かったんだ。
ここでピーンときたのさ!ジフの奴は、要塞を破壊できるほどの骸骨兵を創造したんだってね」
「そして出世したジーンの奴を亡き者にし、新型骸骨兵の創造方法を奪い取ろうとしたと?」
「そのとおりさ! 盗聴した遠話だと抜け駆けしたジフは勝手に死んだようだけど、最重要救助者の新型骸骨兵は回収されたみたいだし譲って貰おうとしたのさ・・・・・・なに? その哀れみの視線は?」
私が初めて知るジフ様の秘密に驚愕する中、騎士と魔術師の御二人は、とても残念な骨を見る視線を礼儀正しく親切な刺客に送っていた。
それはそうとジフ様はいつの間にそんなにすごい骸骨兵を創造されていたんだろうか?
そもそも正しい情報を手に入れるのが困難です。