西へ
全てを知る骸骨兵、彼は何を語るのか?
長い森を抜けると平原だった。
「やはり森を抜けるだけで一日掛かってしまったか」
私の右で死霊騎士ユウ様が空を見上げながら言うと。
「はい。骸骨馬がワンハンに壊されていなければ、今朝には”死体墓地”に着けたのですが」
それに私の左から死霊魔術師デニム様が応じる。
「骸骨馬を”骸骨洞窟”まで連れて行かず、森の外に待たせるべきだった」
「過ぎたことですよ。ユウ殿。それより急ぎましょう。司令部に援軍を要請しましたが、また襲撃されないとは限りません」
そうなのだ。ジフ様は、何者かに狙われているらしい。
昨日、死霊魔術師ワンハンを倒したら死霊魔術師デニム様が水晶玉を取り出しなにか呟き、直後『遠見の魔術で監視されています! 急ぎこの場を離れましょう』と言い出したのだ。
その後、御二人はどこかに遠話をすると洞窟の中に待機していた骸骨騎士達を連れて西・・・・・・”骸骨洞窟”へ来るとき中央から転移した”死体墓地”という死霊軍団の拠点があるらしい・・・・・・へ移動し始めた。
・・・・・・私への質問を繰り替えしながら。
「それで骸骨兵、ジフ殿の秘密には本当に心あたりはないのか?」
「何でもいいののだ。ジーンの奴が最近やったことだと思うのだが」
西を目指して歩き始めて以降、何度も話しているのだがジフ様の偉大さはなかなか伝わらない。
【ジフ様は強い! 凄い! 山に行っても助けてくれました!】
「・・・・・・ジフ殿が強いことも凄いこともよく分かった」
「・・・・・・要塞を一人で壊したという話も信じる。そうではなくて死霊魔術師に狙われるような何かを教えて欲しいのだ」
やはり御分かりいただけないようだ。私ではジフ様の素晴らしさを表現しきれない。
自らの限界に苦悩した私は、右手で頭蓋骨をかく。蛇腹の腕にまだ慣れないのでうっかり顎骨をかいたりするがまあいい。
「・・・・・・そういえばジフ殿は新しい骸骨兵として蛇骨兵を幽霊船に送っていたはずだが、それついてはなにかなかったのか?」
幽霊船?
私はその言葉に愛しい幽霊船を思い出した。自然と骨が振るえ歯が鳴り、心から恐怖が漏れ出す。
【船長ガデム様サイコー! 幽霊船愛してるー! 死んだ人間だけがいい人間だー!】
「・・・・・・・キャプテン・ガデム、また地獄のフルコースをやったのか。すまなかったな骸骨兵。被害者とは思わなかったのだ」
「ユウ殿、地獄のフルコースに被害者とは? いった・・・・・・」
【あああーーーーーーーーー!】
「・・・・・・いえ、今はいいです。後ほど骸骨兵のいないところで御聞きします」
「そのほうがいい。被害者が狂化しても不味い」
「狂化!?」
私の叫びが続く中、死霊騎士ユウ様の言葉に死霊魔術師デニム様が絶句した。
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私への質問が幽霊船以外の話になって半日たった。夕日に向かって歩きつつジフ様の武勇を語る。
【ジフ様は王子のように現れました! たくさんの友達と長遠話をしてました!】
「王子で、友達が多くて、遠話が長いんだな・・・・・・ジフ殿の秘密とはなんなのだろうか? 分かるかデニム殿?」
「今までの話から推察するに、ジーンの奴は出世を自慢していたようですな。ワンハンが襲ってきた原因はそれでしょう。
しかし、秘密というのが分からない。要塞が落ちたのはジーンが人柱に気づいたためのようですし、新しい骸骨兵もまだ成果が上がっていなかったっ、ん?」
突然、死霊魔術師デニム様が立ち止まった。
「・・・・・・なにかが前方にいます!?」
長身の死霊魔術師は、光りだした水晶玉を覗き込み伝える。
水晶玉には、夕日を背に進む死に損ないの集団が映し出されていた。
必要な情報を持っていても活用できるかは別問題です。