同胞の力
仲間の心が力をくれます。
「こっ殺せ! 矢を放て!! 皆殺しにしろ!!!」
死霊魔術師ワンハン様が、狂ったように真っ赤な骸骨兵に命令した。しばしの間をおいて無数の矢が飛んでくる。
「デニム殿、何故煽るようなことを?」
「申し訳ありませんでした。・・・・・・ああでも言わないと逃げてしまうと思ったので」
「逃げる? ジフ殿の棺が目当てのようですから渡さない限り襲い掛かってくるのでは」
「奴は逃げます。三年前も人間相手に逃げました。死霊騎士のユウ殿相手に逃げないはずがありません」
矢が雨のように降り注ぐ中、慌てず騒がず死霊騎士ユウ様と死霊魔術師デニム様が話をされている。
「ふむ・・・・・・それでも何故、わざわざ襲わせたのだ? 正体が分かったなら、逃げても報告すれば今度こそ粛清される」
「・・・・・・ジーンの奴を。友を侮辱した奴の粛清を、他の誰かには譲れません」
「なるほど・・・・・・私も同じだ。勇者に挑んだジフ殿を辱めた罪を、奴には贖ってもらおう」
二人が物語の登場人物のように見つめあい頷きあった。私は矢が骨の間を通り過ぎる中、それに感動する。
ジフ様、御喜びください! ジフ様が物語半ばで倒れた主人公の友人扱いです! 子供心にむしろ主人公より格好いいと思った役です。
「なっ何故だ! 何故死なない!?」
感動する私に外野から声が掛かる。矢の雨を受けても私達三人が平然としていることが不思議なようだ。
死霊魔術師ワンハン様・・・・・・本当に馬鹿なんだな。
私と同じことを思っているのか隣の御二人も頭蓋骨を左右に振っている。
「・・・・・・奴は、私達のような骸骨に矢が無意味なことさえ理解できないのか」
「・・・・・・はい、傲慢で嫉妬深く怒りやすい上に向上心もないようです」
死霊魔術師デニム様が私を向かれた。
「ジーンの骸骨兵よ。その新しい体を試すのに奴とその骸骨兵は丁度いい。・・・・・・ジーンへの侮辱を後悔させてやろう!」
その言葉は、命令ではなく、叱咤でもない。ただ同じ想いを持つ者への呼びかけだった。
私の体が、いや、私の体を成す全ての同胞達が震えた。特に右腕になった・・・・・・恐らくコメディを含めた人あらざる同胞がのたくり伸びる。
【はい】
ジフ様への想い、敵への怒り、同胞の願いその全てを込めて私は答える。
「えっえ~い! 弓はもういい! 突撃しろ切り刻んでしまえ!」
獲物も相手のほうからやってきてくれた。先ほどとは異なり滑らかに動く右腕が大鉈を引き抜く。その勢いのまま腕を最大限まで伸ばす。
「ほう」「ふむ」「なっなんだ!」
【シャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!】
三人の声を私の精気が掻き消した。
私は、水平に長く伸ばした右腕を体ごと右から左へ振るい、何十という真っ赤な骸骨兵を叩き切る。
バギャガギュギュギョバキバキバキビャキャギンガンッギョギョギョバヨ
腕の骨、胸の骨、首の骨、ついでに剣に槍に盾まで森から出てきた一切合財を薙ぎ払った。
「なっなんだ! なんなんだその腕は! 一撃だと!」
その驚きの声を聞きながら、右腕を元に戻す。肩から伸びる無数の関節からなる長い腕を、超蛇骨兵の焼け残った蛇骨つなげた蛇腹の腕を・・・・・・とぐろをまくようにして短くする。
「へっ蛇の腕だと! 馬鹿な! ジフの奴がこんなに強い骸骨兵を作れるはずがない! ジフが創造したものが強いはずがない! やれ! みんな出ろ! 粉々にしてしまえ!!!」
森の中から先ほどに倍する真っ赤な骸骨兵が現れる。
「骸骨兵、私達にも分けてもらおう」
「ジーンの奴は、いい部下を持ったのだな・・・・・・私も負けられん」
こちらも二人が参戦するようだ。
仲間の骨も力をくれます。