偽りの軍団
上には上がいます。
「私達を見逃す? 逆ではないかな」
ジフ様の棺を狙う謎の敵と私達が緊迫の度合いを高める中、そう言いつつ長身の死霊魔術師デニム様が洞窟から現れた。
「ぎゃ逆ではないかな、だと?」
「そう逆ではないかな?」
ジフ様の敵の声に再び死霊魔術師デニム様が同じ言葉を告げる。
「めっ目が悪いようだな。おまえ達を囲む骸骨兵が目に入らないのか?」
私達を嘲るような響きが森に広がる。それに答えるように真っ赤な骸骨兵達が木々の陰から続々と出てきた。見える範囲が木と骸骨兵達だけになってしまう。剣・槍・棍棒・盾・弓矢それに旗持ちまで、まるで軍隊のようだ。旗には大きく名前まで書かれている。えっ~と、ワンハン――
「みっ見ろ、私の軍団を! 数は圧倒的、しかも私の骸骨兵は全て血塗れ骸骨兵なんだぞ!」
「血塗れ骸骨兵か……森から出てきたおかげで確信できた。ジーンに対する侮辱を謝罪して、大人しく帰るなら目をつぶってやるぞ!ワンハン・サウザン!!!」
自らの軍隊を自慢する声に叱り付けるような大声が返される。
「なっなっなっぜっぜっぜっ!?」
森の中から明らかに動揺した気配と声が漏れる。
旗に名前書いているから、私でもわかる。もしかして馬鹿なのだろうか?
「デニム殿、ワンハン・サウザンとは?」
「ワンハン・サウザン、伝説の死霊魔術師です」
「伝説の死霊魔術師?」
「はい。ユウ殿」
「やっ止めりょ!」
死霊騎士ユウ様の質問から始まった二人の会話を、呂律の回らない声が妨げようとする。しかし話は続く。
「もう三年ほど前になります。スチナ王国を滅亡させた際、奴は一万体の血塗れ骸骨兵を率いて最前線に乗り込んだのです」
「血塗れ骸骨兵を一万体! あり得ない!! 本当なのかデニム殿!?」
「はい、全ての骨がムラなく均一に血の赤に染まった血塗れ骸骨兵で、武器も盾も傷一つなく非常に見栄えが良かったそうです」
死霊騎士ユウ様が一瞬だけ私を見てから首を傾げた。
何か?
「デニム殿、血塗れ骸骨兵とは、彼……ジフ殿の骸骨兵のように戦場の名誉というべき傷や汚れがあるものだが?」
戦場の名誉……ジフ様! 偉い人に褒められました! 偉い人には分かるんです。
「はい、そのとおりです」
「では、やはり……」
「奴、死霊魔術師ワンハン・サウザンは、骸骨兵を赤い塗料で染めて戦場に送ったんです。しかも、魔術が稚拙で即席骸骨兵より使えなかったそうです」
「やっ止めりょ、それ以上喋るな!」
森の中からの嘆願、誰も気にしない。もちろん私も気にしない。
「結果、スチナ王国の王城攻略戦の先鋒を任せられながら敗走。戦自体は圧勝でしたが、魔王軍全体に死霊軍団の恥を晒すことになりました」
「……思い出した。民兵にすら勝てなかった骸骨兵の話だな」
「普通なら粛清のところを、慈悲深き死霊王様は降格と左遷だけで許したのです……そうだな死霊魔術師第10000席ワンハン・サウザン!」
死霊魔術師デニム様の問いへの回答は――
「ふっふざけるな! あれは慈悲じゃなくて見せしめだ!! おまえ達、皆殺しにしてやる!!!」
――逆切れだった。
……死霊魔術師デニム様、馬鹿が怒ってますよ。
下にも下がいます。