謎の糾弾
はじめが上手くいくと成功しそうな気がします。
躓いた。
洞窟からジフ様復活への第一歩を踏み出した私は足を何かに取られたのだ。新しい体に慣れていないためかもしれない。前方に倒れながら足元を見ると縄が張られている。
なぜ縄が?
考えているうちに地面が近づいてきてぶつかる。草に覆われた森の地面なのでさほどの衝撃は――
ゴォン
――私は地面にめり込んだ。背負っていたジフ様の棺がその重量を叩きつけたのだ。顎割れ死体騎士の鎧を着ていなければ全身の骨が折れていたかもしれない。
ありがとう顎割れ死体騎士。この鎧が無ければジフ様復活の旅が終わるところだった。
顎割れ死体騎士に感謝しながら起き上がろうとしたとき私達に声が放たれた。
「うっ動くなーーー!」
その声と共に地べたに這いずる私の隣に矢が刺さった。『敵の待ち伏せ、先制攻撃、一時撤退後復讐』了解しました船長ガデム様。私は一時撤退しよう棺の下でもがきはじめる。思いのほかジフ様が重いのだ。
ジフ様の骨密度は、高かったのだろうか?
「何者だ!」
死霊騎士ユウ様が悩む私の隣まで歩みを進めて、敵に問いかけた。私はその姿を地に伏しながら見上げ思う。
待ち伏せするような敵がそんな問いに答えるわけ無いでしょう。これだから騎士さまは。
久々に生前の記憶が的確な突込みを入れる。
「わっわたしは、死霊魔術師第あっと!? 違う! 死霊魔術師ではない! おまえこそ誰だ!?」
答えた! この敵! しかし死霊魔術師様?
私は、声のした方向、森の中を見つめた。木々の間から弓を構えた真っ赤な骸骨兵達が私達を狙っている。声はその更に奥から届いているようだ。
骸骨兵を従えているのに死霊魔術師様ではない?
「私は、死霊騎士ユウ・バジーナ!」
「なっなんで!? なんで!? 死霊騎士が”骸骨洞窟”なんて辺境拠点に!」
私が難問に頭蓋骨を回転させている間に謎の声と死霊騎士ユウ様の会話が進む。
「私は、死霊軍団幹部会議の命令で”骸骨洞窟”の状況確認と救助にきたのだ」
「きゅ救助だと? もしかして誰かが襲撃したのか? 畜生! 先を越されたか」
「先を越された? おまえ達の目的は”骸骨洞窟”の襲撃か。死霊魔術師がなぜ死霊軍団の拠点を襲う? ・・・・・・まさか、裏切りか!?」
死霊騎士ユウ様は、静かだが鋭い声で言い放つとゆっくりと剣を抜いた。その全身から青い光が霧のように漂いはじめる。声の主は慌てて言い返す。
「ちっ違う! むしろ裏切り者は、ジフ・ジーン! ジフの奴だ! あの馬鹿が我々を裏切り、抜け駆けをしたのだ!」
「ジフ殿が裏切り者だと! ふざけるな! 彼こ・・・・・・」
死霊騎士ユウ様の怒声は、途中で止まった。いや、止められた、この私の手によって。大地のへこみから立ち上がった私の手が死霊騎士ユウ様の肩を掴んだのだ。
起き上がった私は、真っ赤な骸骨兵の後ろ、森に隠れる何者かに怒りの意思を叩き付けた。
【ジフ様は、・・・・・・馬鹿じゃない!!!】
私の怒りに両者も、森も、世界さえも沈黙に包まれる。
「・・・・・・ジフ殿の骸骨兵、いまはジフ殿への言われなき誹謗の。いや、馬鹿も誹謗か」
「なっなんだ? おまえは! 薄汚れたごみのような骸骨兵が私と死霊騎士の会話を邪魔するな」
私が薄汚れたごみのようだと? なんと失礼な!
私は憤りながら自分の姿を思い出す。歪みへこんだ胴鎧と欠落のある四肢の鎧、それを装飾する灰、兜には大穴が開いている。特に左腕の鎧は、竜骨毒手で溶けてしまって既にない。
・・・・・・せいぜい敗残兵である。
「彼を薄汚れたごみだと! 勇者と戦った唯一の生き残りである彼をごみだと」
「ゆっ勇者と戦った? それに唯一の生き残りだと・・・・・・じゃあジフの奴は死んだのか。そうか、あの馬鹿死んだのか。そりゃあ良かった!!! あんなに偉そうに自慢しといて! ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」
死霊騎士ユウ様の怒りの声に死霊魔術師様の笑い声が答える。
・・・・・・私を薄汚れたごみと呼ぶのは、まあどうでもいい。しかし、この死霊魔術師様はジフ様を馬鹿にしているようだ。
『上官には逆らうな! 死霊魔術師を守れ!』了解できません船長ガデム様!!!頭の空洞を満たす声に反論する。
私の右腕がゆっくりと腰の大鉈を抜いていく。まだ新しい腕に慣れていないせいか、反応が鈍いのがもどかしい。
「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃ・・・・・・さっさ~てジフの奴が死んでいるならしかたがないか。後は・・・・・・その棺だろう? ジフの秘密は?」
敵が、ジフ様の棺をジフ様の秘密と呼ぶ。
ジフ様の亡骸が欲しいのか?
私の思いは、自然と体を後ろに下がらせた。
「あっ当たりだな。その棺をよこせ! そうすれば見逃してやろう」
謎の敵は、ジフ様の棺を欲していた。
はじめから躓いたときはどうでしょう?