同胞
絶望の後に希望がある。
「なんだと!?」
死霊騎士ユウ様が生存者発見の報に驚きの声を上げた。先ほど生存者無しの報告をともに聞いた私も驚きと希望を感じる。
まさかコメディが!? コメディは頭の良い子だ。安全と分かるまで隠れていたのかもしれない。
そして、報告は続く。
「部屋の隅にあったので発見が遅れました。申し訳ありません。すぐにこちらに御持ちします」
ほどなく骸骨騎士が、黒い大きな箱を運んできた。いや、黒い箱に見えたのは、箱の表面が焼け焦げているためだ。死霊騎士ユウ様が運ばれてきた箱に近寄る。
「この箱の中に彼らが?」
「はい。運んでいる最中も中から鳴き声が聞こえていました」
箱の中? 鳴き声?
私が話についていけず頭蓋骨を揺らしていると、生存者の捜索をしていた骸骨騎士達が箱の周囲に集まってきた。彼らは無個性で不気味な顔に確かな表情を浮かべていた。
歓喜である。
「では開けるぞ」
死霊騎士ユウ様が宣言するとともに箱の蓋を開けた。私は床に転がっているため箱の中が見えない。しかし、中を見た骸骨騎士達の反応から生存者がその中にいることは理解できた。
「やった!」「全員無事だ!」「奇跡だ!ジフ様サイコー」「可愛いな~~~」「ジフ様、良い仕事だ!」
ついでに箱の中からも声が聞こえてきた。
「コーン!」「ピョーン!」「キュフフ」「チュウチュウ」
その同胞の鳴き声に歓喜を覚えつつ、顎割れ死体騎士の行動が頭蓋骨の中に浮かぶ。
死体獣踊子団を念入りに刷毛ですく顎割れ死体騎士。
死体獣踊子団を丁寧に山吹色の箱に入れる顎割れ死体騎士。
『トテモ重要ナ箱ダ。ジフ様ト同ジヨウニ守ルンダゾ』と言う顎割れ死体騎士。
私は顎割れ死体騎士のその姿に、肋骨さえ無い胸を痛めた。薄暗い岩の天井に、死体獣踊子団とともに踊る顎割れ死体騎士の姿が浮かぶ。
顎割れ死体騎士、おまえの同胞を想うその心は確かに実を結んだぞ!
頭蓋骨の裏側についていた血が眼窩より涙のように流れた。
「よし、最重要救助者の確保に成功した! すぐに死霊軍団司令部の幹部達に遠話を送れ。首の骨を長くして待っているぞ」
「はっ! 了解しました」
私が顎割れ死体騎士の冥福を祈っていると死霊騎士ユウ様と骸骨騎士が何か話をしていた。話の内容からするに死霊軍団の幹部が私達のことを心配しているのだろう。そんなことからもジフ様の偉大さが分かる。
「しかし、本当に良かった! この踊る死体獣達さえ確保できなかったら最期の道化師・・・いや、癒しの道化師に改名されたのだったな。とにかくアーネスト・エンド様に粛清されるところだった」
「ユウ殿、改名されてからのあの方は、死に損ないのにも癒しや治療が必要だと宣言し自ら実践しています。このデニムも大いに感服いたしました。ここに向かう直前にも死に損ないの用の治療薬を・・・」
ん?
死霊騎士ユウ様と話していた長身の骸骨が急に言葉を止めた。その顎骨が徐々に開いていく。その様を見ていた死霊騎士ユウ様も同じように顎骨を開け始めた。
「まさか!?」
「いや! 試してみる価値はあります! ユウ殿」
「・・・確かにデニム殿の仰るとおりだ」
何か二人だけで納得している。死霊騎士ユウ様が床の私を見つめる。ちなみに骸骨騎士は死体獣踊子団と踊っているので、体はまだ無い。
「・・・心して聞いてくれジフ殿の骸骨兵。もしかしたらジフ殿は蘇るかもしれない」
私の頭蓋骨が狂喜に溢れた。
有名なあの箱ですね。




