現実
現実は悪夢と違い目覚めません。
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー・・・」
ジフ様が! ジフ様が!! ジフ様が!!!
私は上下に断たれた頭蓋骨をつなぎあわせるため、無い腕を伸ばそうと藻掻き足掻き叫ぶ。
「・・・・・・ジフ殿であったか。残念だ」
「ジーンの奴っ! 報告があったとき、なんとしても止めていれば! こんなことには」
背後で死霊騎士ユウ様と魔術師の外套の長身骸骨が悼むように話している。
しかし、私には関係ないことだった。ジフ様を早く治さなければという思いが頭蓋骨を埋め尽くす。
ジフ様が! ジフ様の!! ジフ様を!!!
「骸骨兵、ジフ殿を倒したのは誰だ? 報告のように本当に勇者が攻めてきたのか?」
ジフ様が! ジフ様の!! ジフ様を!!!
「答えろ! 骸骨兵! ジーンの奴は、勇者にやられたのか!?」
私は、二人の問いかけにも答えず。なんとか顎骨を動かしジフ様に近寄ろうとする。
「あっ!」「おい!」
カラン
顎骨の動きだけで死霊騎士ユウ様の手を這い出た私は、床に転がり落ちた。落ちた勢いのまま転がる私は、ついにジフ様の元に辿り着く。
【ジフ様! ジフ様! どうか! どうか! 今すぐに! 治します! 治します!・・・】
「これは、・・・・・・狂っているのか」
「忠誠心の高い”主なし”が狂うという話を聞いたことがあります」
「・・・・・・骸骨兵よ。貴殿の主、ジフ殿は亡くなられたのだ。ジフ殿を倒した者のことを教えてくれ。仇は必ず討つ」
ジフ様! ジフ様!! ジ、フ、さ・・・
ジフ様の名を繰り返す私に死霊騎士ユウ様の言葉が染み込んできた。
ジフ様が亡くなった。仇を討つ。仇! かたき!! カタキ!!! カ・タ・キ!?
眼窩の中に金色の戦士が浮かぶ。
【勇者! 勇者!! 勇者!!! ユーーーウーーーシャーーーーガーーーー】
「勇者なんだな!? どんな人間だった? 報告しろ骸骨兵!」
その言葉を聞くと『死んでも情報は伝えろ』声が頭蓋骨に響き、自然と精気が放たれた。
【勇者達、戦士男二人、神官女一人、魔術師女一人】
「四人組、腐敗王達を襲った勇者と同じ人数だな」
「はい、他の報告とも合致します」
【戦士一人、勇者、金色】
「金色の勇者か」
「金色の精気を纏いし者、伝説の勇者と同じですな」
【戦士一人、鎧と鉄鎚、赤い光】
「アンスター王国に城門を砕いた鉄鎚使いがいると聞くが」
「同一人物でしょう」
【神官、銀の光、罠破る】
「銀の光?」
「間違いありません。床にある金縛りの陣を浄化したのはその女です。恐らく聖一教の聖女」
【魔術師、紫の光、炎の槍】
「焼かれている骨は、その女魔術師の仕業か」
「紫の光、恐らくスチナ王国最後の大魔女エリザベートです。生前に会ったことがあります」
【罠破られ、皆焼かれた、コメディは戦士に噛みつき、私は毒手を勇者に投げた、聖女庇った】
「コメディとは?」
「蛇の骸骨でしょう。部屋中に砕かれた蛇の骨があります。それに毒手とは・・・・・・」
私の報告を聞きながら話していた死霊騎士ユウ様と長身の骸骨は、背後を振り向き続ける。視線の先には私の左手、竜骨毒手が転がっていた。
「・・・・・・触れただけで骸骨騎士の手を溶かした、あの紫色の骨でしょう」
「聖女にあれが・・・・・・」
「上の部屋は全てが浄化され灰になっていたのに、この部屋が浄化されていない理由が分かりました。聖女が死んだか、致命傷を負ったので撤退せざるえなかったのです」
「ジフ殿、見事一矢報いたか」
【戦士が私粉砕、ジフ様は勇者に挑む】
「ジーンめ! 一人で勇者に挑むとは」
私の報告に死霊騎士ユウ様と長身の骸骨は、悲しみを伴う複雑な声を漏らした。
「御報告します。転移の陣は、上の部屋の浄化の影響か発動しません。この地の陰の精気が大きく減少しています。また他の生存者は確認できません」
先ほど、私を血肉の壷から取り出した骸骨騎士が二人に報告をした。私はその報告を聞き再び大きな悲しみに包まれる。
コメディ! コメディまでもやられた! コメディまでもいなくなるのか!
【コメディ!】
私は相棒を想いながら顎骨を動かし、戦士とコメディが戦っていた場所へ行こうとする。
「骸骨兵、待て!先に体をつけろ。・・・・・・誰か無事な骨を持ってこい! この忠義の士に体を・・・・・・」
私を止めた死霊騎士ユウ様が新たな命令を下す中、その声が響く。
「生存者発見!」
現実にも救いはあります。