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骸骨の夢  作者: 読歩人
第四章 争奪編
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悪夢

悪夢は覚めれば終わります。

 私は、薄暗い森の中を走っていた。走り続けたせいか、息が上がり胸が苦しい。隣を走っている兵士長も随分と苦しそうだ。


「こっここまでっ! 逃げればっ! 大丈夫だっ!」


 兵士長・・・おやっさんが走る速さを落としつついう。確かにあの場所からかなり離れた。あの死体兵(ゾンビ)に襲われた場所から。


「ちっ! なにが貴族だ! なにが隊長だ! 立派なのは鎧だけじゃないか!」


 おやっさんが木にもたれて休みながら、あいつを罵る。罵りたい気持ちも分かる。あいつは、私達のことをスチナ王国の人間・・・滅びた国の人間と見下していたのに死体兵(ゾンビ)が現れた途端『神官もいないのに戦えるか!』と言って逃げ出したのだ。唖然とする間もなく、その姿は森の中に消えていた。


「まあ、逃げられて良かった! 後は森を出るだけだ。・・・そうだ! 蛇に気をつけろ。ここらには、一歩蛇(いっぽだ)と呼ばれてる毒蛇がいるからな。こいつに噛まれると・・・」


 汗を拭いながらおやっさんの話を聞いていると、足首に刺すような痛みを感じた。足元を何かが這いずっていく。急におやっさんの声が遠くなる。あれ? 眠い・・・


「・・・・・・・・・! ・・・・・・・・・! ・・・・・・・・・!」


 空を背景におやっさんが顔を覗き込んでくる。


 何を喋っているんだろう?


 それを最期に私の意識は途絶えた。




~~~~~~~~~


 そして私は、再び覚醒した。

 夢を、とても懐かしい夢を見ていた気がする。はっきりと思い出せないが、あの夢は生前の・・・


「・・・・・・・・・・」


 赤い世界に沈む私に誰かの声が届いた。誰の声だ?そして、ここはどこだ? いや、私は誰だ?


「・・・ここも生存者はいないようです」


「まだ分からん。捜せ!例え一体でもいい。生存者を見つけろ!」


 再び聞こえた声に複数の何かが動き始めた。足音、震動、呼びかけが・・・


「誰かいないかーーー!」「生き残りはいないかーーー?」「そこは死に損ない(アンデッド)だろーーー!」「いいじゃないかーーー!」「おまえ達!真面目に捜せ!」


 死に損ない(アンデッド)


 それは、死の世界を生きるもの。


 私は、骸骨兵の大鉈。


 主は、ジフ様!


【ジフ様!】


 ジフ様はどこだ! ジフ様! ジフ様!! ジフ様!!! ジフ様はどこにいる!?


【ジーフーさーまー!?】


「ユウ殿! あの壷の中から精気が!?」


「ああ、私にも伝わった。捜せ」


 私の精気に何者かが気づく。ジフ様ではない。しかし誰でもいい!ジフ様のところに私を!

 私の願いに応えるように私を誰かが掴み持ち上げた。


「ユウ隊長! 頭蓋骨です。壷の、血肉の中に頭蓋骨が沈んでいました!」


 赤い世界から・・・血の海から引き上げられた私は、血の滴る顎骨を激しく鳴らす。声にならないその音は、岩が散らばり煤に汚れた部屋に響き渡る。そして、その音に重なるように私の意志も部屋を満たす。

 私を持ち上げた者・・・鎧を着けた骸骨は、そのまま私を部屋の中央に持って行く。


【ジフ様! ジフ様!! ジフ様!!!】


 私は、変わり果てた部屋を確認しながらも、延々とジフ様の名を繰り返す。


【ジフ様! ジフ様!! ジフ様!!!】


「この頭蓋骨は、ジフ殿の骸骨兵(スケルトン)では?」


「はい。ユウ殿。恐らくジーンが創造した骸骨兵(スケルトン)です」


 ランプの明かりの中、見覚えのある赤黒い死霊騎士(デスナイト)様と魔術師の外套(ローブ)を身に着けた骸骨が話している。残念ながらその骸骨は、ジフ様ではない。騎士と比べても頭蓋骨二つ分は高い長身骸骨である。


骸骨兵(スケルトン)。ここで何があった?あれ(・・)はジフ殿なのか?」


【ジフ様! ジフ様!! ジフ様!!!】


 死霊騎士(デスナイト)ユウ様の問いに、私は延々とジフ様の名を繰り返す。


「ジョウ・デニム殿、どうやら混乱しているようだ。どうすればいい?」


「”主なし(ロスト)”が混乱することは、よくあることです。つまり・・・」


【ジフ様! ジフ様!! ジフ様!!!】


 私は延々とジフ様の名を繰り返す。


「どちらにせよ。この骸骨兵(スケルトン)に確認しなくてはならない」


「・・・”主なし(ロスト)”にあれ(・・)を見せるのは酷だと思いますが?」


「それでもしなければならない。この”骸骨洞窟”で起こったことの確認が私の任務だ」


「・・・分かりました。では私が」


「いや、私がやろう。主を失った経験は、私もある。生前のことだが、辛いという言葉では足りない苦痛だった」


【ジフ様! ジフ様!! ジフ様!!!】


 ジフ様の名を繰り返す私を、死霊騎士(デスナイト)ユウ様が丁寧に鎧の骸骨から取り上げる。そして私の視界は、部屋の中央から机や棚のあるほうを向いた。


骸骨兵(スケルトン)、忠義篤き貴殿に残酷なことだと理解している。しかし、あれ(・・)がジフ殿なのか確認してもらいたい」


 私の眼窩の先には、焼け焦げた魔術師の外套(ローブ)が床に広がっていた。あのほつれと汚れ! ジフ様の身に着けていた魔術師の外套(ローブ)である。

 死霊騎士(デスナイト)ユウ様は、魔術師の外套(ローブ)に近寄ると静かにそれを持ち上げる。


 魔術師の外套(ローブ)の下から現れたあのお方は、


 私の主たるあのお方は、



 黒く煤に汚れ、




 頭蓋骨を、





 右から、







 左に、







 断ち切られていた・・・


「ジーフーーさーーーまーーーーーーーーー!!!」


 初めて放つ私の声が、世界を震わせた。

本当の悪夢は覚めません。

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