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骸骨の夢  作者: 読歩人
第三章 死体獣の主編
46/223

予期せぬ結末

戦う者は、何かのために戦います。

「勇者・・・」


 ジフ様は、その報告に顎骨を大きく開け動きを止めた。その頭蓋骨に岩が当たる。


「ぐぁん!」


 再び衝撃が部屋を揺さぶったのだ。ジフ様、大丈夫ですか?


「うぅ痛い・・・ではなくて!勇者だと!どこの御伽噺だ!そんな奴がいる訳ないだ・・・

 ・・・強力な少数の敵がどうとか緊急連絡があったな確か?腐敗王、墳墓の帝、嘆きの聖人がやられたとか・・・」


 小刻みに震動が襲う中、ジフ様の声が尻すぼみに小さくなっていく。


「ばっ馬鹿な!こんな辺境の拠点になんで勇者が?不味いぞ!不味いぞ!不味いぞ!如何すれば?どうすれば?ドウスレバ?・・・・・・・・・」


 ジフ様が頭を抱えられた。勇者?・・・子供のころ御伽噺で聞いたことがあるな。魔王を倒す強い人。


「ジャー!」【報告!】


 久々にコメディの助言が飛ぶ。


「大鉈?いや蛇一号か。そっそうだな。まずは報告だ。報告!・・・司令部!司令部!応答しろ!勇者だ!勇者が出た!も~し!も~し!聞こえますか・・・」


「こちら死霊軍団司令部のジョウ・デニム。その声はジーンか?昇進おめでとう。それより何だ?勇者とか聞こえたが」


「デニム!なぜおまえが、司令部にいる!?」


「私も昇進したんだ。なんと第248席だ!それより勇者の・・・」


「勇者の襲撃など後でいい!248席だと!私より上じゃないか!」


「勇者の襲撃だと!いかん!ジーン逃げろ!」


「誰が逃げるか!」


「これは命令だ!早く転移しろ!!!」


「なにが命令だ!五月蝿いーーー!!!」


「勇者一行の聖女は、陰の精気を消し・・・」


 ガシャン!


 水晶玉が砕け散る。ジフ様が水晶玉を床に叩きつけられたのだ。ジフ様がユラリと幽霊のように私達を見る。

 ジッ、ジフ様の精気がこれまで感じたことが無いほど濁っている。紺より暗い青き光だ。


勇者(せいか)を迎え撃つぞ!私はこの戦いに勝って出世するんだ!」


 宣言したジフ様は、部屋の隅に置かれた血肉の壷を見つめる。


「まずは罠だ」


 天井からの衝撃は、徐々に治まりつつあった。




~~~~~~~~~


 洞窟が静寂を取り戻した。顎割れ死体騎士・・・勝ったのか?

 私の思いは、足音とともに近づく四色(ししき)の輝きに裏切られた。金、赤、銀、紫、明かりの中でもはっきりと分かる精気を纏い人間達が現れる。精気の圧力だけで骨が軋む。


 一人は男、軽装の戦士、金色の光を纏い先頭にて刃を構える。


 一人は男、鎧の戦士、赤い光が集う鉄鎚を手に金色に並ぶ。


 一人は女、白の神官、銀光が二人の戦士の背を守る。


 一人は女、紫の魔術師、交じり合う赤と青が全てを狙う。


 先頭の男が口を開く。


死体獣の主ゾンビビーストマスタージフ!私は、閃光の勇・・・」


「死ねぇー!死の呪文(デススペル)!」


「・・・者、えっ!?」


 金色の男・・・勇者の口上を遮りジフ様の先制攻撃が炸裂した。流石はジフ様!御伽噺の魔王とは、一味違う。頭蓋骨に響く『殺せ!殺せ!殺せ!』という声に逆らいながらジフ様を褒め称える。

 ジフ様に命令されているのだ。勇者達が部屋の真ん中にくるまで待てと。


「卑怯な!さっきの騎士とはまったく違う。そうやって要塞の兵やマリエル嬢を殺したんだな!」


 なんと!死の呪文(デススペル)を受けながら勇者は平然と喋り始めた。しぶとい奴である。


「いきなり攻めてきてほざくな!!!それに誰だ?マリエルって!?」


「忘れたというのか!おまえ達に死に損ない(アンデッド)された女性だ!保護された彼女のおかげで、いや彼女の願いに応えるため私達はここにきたんだ!!!」


 マリエル?死霊魔術師(ネクロマンサー)マリエル様か?いつの間にかいなくなっていたが、御無事だったのか。良かった!


「マリエル・・・ああ、あいつか。・・・保護ね~?実験台(モルモット)の間違いだろう?拷問で情報を聞き出してから切り刻んだんだろ」


「・・・外道め!行くぞ!ハンマ!ラリス!シシィ!」


「承知」


 鎧の戦士が鉄鎚を構える。


「はい!」


 白の神官が答え。


「シシィって呼ぶな!エリザベートよ!」


 紫の魔術師が反論する。


 四人の英雄は、ジフ様に向かって躍りかかる。そう部屋の中央に・・・


「馬鹿めーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」


 ジフ様の勝利の叫びが轟く!

 床に血肉を使って描かれた陣が浮かび上がる。莫大な陰の精気を噴出しながら。


「なっ!」「お!」「これは」「・・・金縛りの陣」


 陰の精気は、目に見えるほど濃く。人間どもを鎖のごとく縛り付ける。


「百人近くの血肉が混ざった血文字の陣だ!勇者と言えども動けまい!勇者など所詮、御伽噺よ!」


「百、人、だ、と!」


「そうさ!出世のために骨が必要だったのでな。邪魔な血肉は剥いどいたんだ。思わぬところで役にたった」


「赦さん!」


「ふん!おまえも、おまえの仲間達も同じように死の世界に招待してやる。()れ!」


 ジフ様の命令に私は、超蛇骨兵スーパーバイパーヘッドスカル達とともに勇者達に躍りかかる。


「勇者様!危ない!」


 しかし、白い神官がそれを妨げた。爆発的に広がる銀の精気によって。熊に突進されたとき以上の衝撃が私を吹き飛ばす。床を滑り、足を岩に削られる。


 おのれ!


 睨みつけた先では、ジフ様が作られた陣さえ掻き消え、三人の人間達が自由を取り戻していた。白の神官だけは膝をついて苦しげだ。持病の(しゃく)でも起こったか?


「まだだ!敵は減った!数で押しつぶせ!」


 はっ!了解しました!


 再び私と超蛇骨兵スーパーバイパーヘッドスカル達が突撃をする。


「聖女様だけにいい格好はさせられないわね!灼熱の投槍(バーニングジャベリン)!」


 それを紫の魔術師が放つ炎の槍衾が迎え撃った。私は自らに飛んでくる炎を槍を竜骨毒手で叩き落す。

 しかし、超蛇骨兵スーパーバイパーヘッドスカル達は防いだ盾そして鎧ごと貫かれ炎に包まれている。この腕は、素晴らしいです。

 マダム・ケルゲレンに感謝しつつ人間達に肉薄した。


「チェストー!」


 鎧の戦士が打ち下ろす赤く輝く鉄鎚を左手で受け止める。左手は砕かれることなく、逆に鉄鎚に手形を刻む。そして右手の大鉈を叩き・・・


 視界が沈んだ。


 なに?


 驚き、理解する前に左の肩甲骨が砕ける。眼窩を向けると、腕を残して左半身が崩れ落ちていくところだった。


 体が耐えられなかった?


 愕然とする内に鎧の戦士が再び鉄鎚を振り上げ、勇者がジフ様に向かう。


「正義の裁きを受けろ。死体獣の主ゾンビビーストマスター!!!」


要塞潰しフォートレスブレイカーたる私の真の力を見せてやろう!!!」


 ジフ様の魔術師の外套(ローブ)が開き、無数の蛇骨が飛び出した。暗き光もより濃度を増し世界を蝕む。その口、その指先、その身から滴る精気は、岩を溶かし空を腐らす。

 だが!その暗き光を勇者の金色の刃が斬り進む。


 ヤバイ!


「シャー」


 私がジフ様の危機に恐怖する中、コメディが鎧の戦士に襲い掛かった。鎧の戦士は、微かに鉄鎚を逸らし迎撃する。そこに一瞬の隙とも言えない間が生まれる。

 私は、躊躇無く床に転がる左腕を掴んだ。そして骨が溶けるのさえ無視して投げつける。




 勇者に!


 そして蛇体に沿って振り抜かれた鉄鎚が私の体に直撃する。


 何度目になるだろうか。頭蓋骨が宙を舞うことを感じながら私は見る。


「ギュシャー!」


 コメディに噛みつかれた鎧の戦士。


「チェストー!」


 鎧の戦士に砕かれた私の体。


「危ない!」


 私の投げた竜骨毒手に貫かれる白い神官。


「ラリスッ!」


 白い神官に庇われ叫ぶ勇者。


「その首もらったーーー!!!私の出世はこんなところでは終わりはしないのだーーー!!!」


 勇者の見せた隙に歓喜狂乱して襲い掛かるジフ様。




 地を這う強欲(ジフさま)が、夢と希望を肋骨から溢れさせ人の正義(ゆうしゃ)に挑む・・・




 バシャン


 酷く短い浮遊感の後、赤く暗い世界に沈んでいく。


 川に潜ったときのようなくぐもった声が聞こえた。


「ラリスーーー!目を開けろ!」


「聖女殿は!?」


「毒消しが効かない!普通の毒じゃない!?」


 ジフ様は?


 意識が薄れいく中、ただただ想う。


【ジ・フ・さ・ま】

望んだものが手に入るとは限りません。


これにて第三章を終わります。


第四章を御楽しみにしていてください。

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