予期せぬ来訪
大切な人の急な来訪は嬉しいものです。
「はははははははははっ! 羨ましいか? 羨ましいだろ! 中央に行ったらまた連絡してやる! じゃあな!!」
ジフ様が嬉しそうに遠話をされている。見ているだけで私も嬉しくなってくる。とても良いことだ。こんなときが永遠に続けばいいのに。
「次は、スレダーの奴にでも知らせてやるか。一気に三桁台だ。羨ましがるだろうな。くふふふふふふふっ!」
棺桶とともに届いた手紙を読んだ後、しばらく愕然とされていたが突然『もう知るかぁぁぁーーー! とにかく出世だ!459席だ!』と叫ばれ、水晶玉で遠話を始められた。どうやら御友人達に出世のことをお伝えになっているようだ。ジフ様は御友人を大切になさるお方なのだ。
「……羨ましいだろ! これからは、要塞潰し様と呼ぶんだな! ……さて次は……」
それにしてもジフ様は、御友人が多い。もう半日ほど遠話を続けられている。せっかく出世なされたのだから、もう少しごゆっくりなさればいいのに。
おや?
顎割れ死体騎士が山吹色の大きな箱に死体獣踊子隊を丁寧に入れている。
そういえば顎割れ死体騎士は、半日ほど掛けて死体獣踊子隊の毛を念入りに刷毛ですいていたが……いつの間に仲良くなったのだろうか?
「ジフ様、大陸中央ニ行クニハ二十日以上掛カリマス。不慮ノ事態ニ備エテ少シデモ早ク出発スルベキデス」
山吹色の箱にしっかり蓋をした後、顎割れ死体騎士が遠話をしているジフ様に進言した。
「私は第九席様に手紙をいただいたんだぞ! すごいだろう……『処刑予告じゃないか』だと!? そんなことは無い! じゃあな!
……死体騎士か、避難準備はしてあったんだろ。もう少し自慢させろ」
「……了解シマシタ。机ヤ本棚、大鍋ナドノ備品以外ハソノ水晶玉ガ最後デス。御気ガ済ンダラ上ノ部屋ニオ上ガリクダサイ」
そう言うと顎割れ死体騎士は、部屋の出口に歩いていく。死体獣や死体兵の待機する上の部屋に行くのだろう。山吹色の箱は、持っていかないのだろうか?
「超蛇骨兵、ジフ様ガ上ガラレルトキ、ソノ箱ヲ持ッテ上ガレ」
出口で顎割れ死体騎士が振り向き、数少ない生き残りの超蛇骨兵……ジフ様の護衛達に命令した。
「トテモ重要ナ箱ダ。ジフ様ト同ジヨウニ守ルンダゾ」
超蛇骨兵達がその命令にコクリと頷いていた。死体獣踊子隊がそんなに大事なのだろうか?まあ仲間を大事にするのはいいことだ。
私は、顎割れ死体騎士の優しさに胸骨の空洞を震わせジフ様観賞を再開した。
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昼夜を忘れてジフ様を観賞しているときにそれは起きた。
重々しい衝撃とともに天井から岩がはがれ部屋のそこここに落ちてきたのだ。幾つもの松明が壁から落ちる。
「何だ! 地震か? ……揺れじゃない、爆発の衝撃か!?」
遠話をされていたジフ様が驚きの声を上げられる。そこに死体兵が飛び込んできた。
「ジフ様、襲撃者です!」
「なんだと! またか、忌々しい! 私の出世が、いま始まったばかりだというのに!」
死体兵の報告にジフ様が吐き捨てる。その間にも死体兵の報告が続く。
「敵は、人間。数は四人。男の戦士二人に女の魔術師が一人そして女神官一人です。現在、死体騎士様が上の部屋で迎撃されています」
「はっ! たった四人でこの要塞潰しにして死体獣の主の私が支配する”骸骨洞窟”に挑むとは……愚かな奴らめ! 私自ら出向くまでも無いな!」
襲撃の報告を聞きながらもジフ様の余裕は崩れることは無い。
「襲撃者の一人、戦士の片割れが言っていました……」
陰の精気に満ちた部屋に、その言葉が響くまでは、
「自分こそがアンスター王国の……」
その忌まわしい言葉が響くまでは、
「勇者であると」
人間の希望が訪れた。
厄介な人の急な来訪は困ったものです。