予期せぬ手紙
うまい話には裏があります。
首席様?どこかで聞いたことがあるような?
私が首席様について悩んでいると固まっていたジフ様が声を上げた。
「・・・おい、死体騎士。私の頬を抓れ」
「ジフ様。ジフ様ノ頬ニ肉ハアリマセン。後、現実デス。空耳デモ幻覚デモアリマセン」
「そうか。ならおまえの頬を抓ろ・・・・・・夢じゃないのか?」
「夢デハアリマセン。中央ヘノ栄転ト昇進ノ御話デシタ」
「・・・処刑のための罠とかは?」
「普通、罠ナド準備セズ処刑執行人ヲ送リマス。・・・一人デ要塞ヲ壊シタジフ様ヲ警戒シテル可能性モ・・・」
「なんだ?急に小声になって。やはり罠なのか?」
「イエ。罠ナラバ戦力ヲ率イテコイトハ命ジマセン」
「・・・ということは?」
「ハイ。間違イナク栄転ト昇進デス」
「おぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーしゃーーーーーーーーー!!!私はついにやっ・・・」
ジフ様の叫びに応じるように部屋の隅に青く光る輪が現れる。ジフ様の演出だろうか?
「・・・てっ転移陣が、う・ご・い・て・る!?やはり罠か!処刑か!」
「ジフ様、早ク上ノ部屋ニ!逃亡準備ハ済ンデイマス!」
「良くやった!死体騎士!後は任せた!」
ジフ様は、そう顎割れ死体騎士にお褒めの言葉を与えると部屋の出口に向かって走っていく。私もついていくべきだろうか?
悩んでいるうちに青い光が治まった。部屋の隅には、見覚えの無い縦に長い箱が出現している。
「箱?イヤ、棺桶カ」
顎割れ死体騎士が、いぶかしむように呟き箱に近づいた。私も気になるので近づき詳しく見てみる。人が入れそうなほどの縦長の箱。色は黒で、淵と上面に金色の装飾が施されている。聖印こそ無いが立派な棺桶である。
「コレハ、聖印ガ無イ?吸血鬼ノ棺桶カ、中ハ?」
顎割れ死体騎士が豪華な棺桶の蓋を開けた。棺桶の中は、これまた黒の革張りで綿でも入れているのだろう盛り上がっている。寝心地が良さそうである。永眠するならこのような棺桶でしたい。
うっとりしながら棺桶を見つめていると何か入っていることに気づく。黒色で見分けがつかなかったのだ。手に取る。手紙だろうか?
【顎割れ、手紙】
「私ノ名ハ、顎割レデハナイ。貸セ!」
文句を言いつつ私から手紙を奪う。失礼な奴だ。顎割れ死体騎士は、鎧の隙間から目を細めると手紙を読み始める。
「高級ナ紙ダナ。・・・要塞潰シジフ・ジーン様へ・・・マタ妙ナ二ツ名ヲ。ジフ様宛テノ手紙カ。勝手ニ読ムワケニハイカンナ」
顎割れ死体騎士は、手紙を棺桶に戻すと部屋を出て行った。どうしたのだろうか?しかし要塞潰し・・・なんと格好いい響きだ!ジフ様に相応しい。
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「本当にただの手紙なんだな?」
「先ホドカラ何度モ申シ上ゲテイマスガタダノ手紙デス」
感動しているとジフ様と顎割れ死体騎士が部屋に戻ってきた。
「それでその手紙は?」
「コチラデス」
ジフ様は、顎割れした騎士が差し出した手紙を手に取り御読みになる。
「え~、
・・・要塞潰しジフ・ジーン様へ・・・
要塞潰しか良い響きだ!続きは、
・・・急な手紙、申し訳ありません。わたくし癒しの道化師アーネストと申します。
転任のため御忙しいと思い、遠話ではなく手紙にて御祝いの言葉と贈物を送らせていただきます。
死霊魔術師ジフ・ジーン様、第459席への昇進内定御喜び申し上げます。
幹部会議の出席者を虜にし、わたくしに新たなる死にがいをもたらしたあの死体獣達の創造者に会えることを楽しみにしております。
送らせていただいた棺桶は、吸血鬼の貴族御用達の対陽光、対浄化、対衝撃棺桶です。使用者は皆、『死んだように眠れる。まるで墓場に戻ったようだ』と好評です。宜しければ御使いください。
死霊魔術師第九席アーネスト・エンドより敬意を込めて・・・」
ジフ様は、手紙を一気に読み上げると頭蓋骨を傾げた。
「何だこの手紙は・・・癒しの道化師・・・第459席・・・棺桶・・・第九席・・・だと、訳が分からん!?」
ジフ様の隣では顎割れ死体騎士が万歳した後、死体獣踊子隊と踊りだしている。いや、死体獣踊子隊に感謝してるようにも思える。
「オマエ達ノ先輩ガヤッテクレタゾ!アリガトウ」
いま感謝した。死体獣踊子隊が何かしたのか?
「待てよ、アーネスト・エンドだと!?・・・最期の道化師と呼ばれる処刑執行人が、私と会いたいだと・・・」
ジフ様は愕然としている。
裏は、分からないから裏なんです。