予期せぬ遠話
合否判定に辞令に査定どれも受け取るまで長く感じます。
ここ一週間、ジフ様に元気がない。水晶玉を見つめたまま微動だにしないのだ。いや……時々頭蓋骨を掻き毟ったり、床を転がったりしているか?
ジフ様がこうなられたのは、ロッキー山脈へのお出かけより戻ってからだ。
いきなり要塞が崩れた後、私は瓦礫の中よりジフ様を掘り出し。ついでに顎割れ死体騎士も助けた。
しかし、周囲を見たジフ様は『なんじゃこりゃーーー!』と歓声を上げ倒れられた。御一人で要塞を壊して、御疲れだったのだろう。顎割れ死体騎士は『全滅か……』と疲れきった声をこぼしていた。何か知らんが瓦礫の中でジフ様を庇っていたのは偉い!全身鎧は伊達じゃないな。
私達二体は気絶されたジフ様を御運びしつつ、要塞の崩落を逃れた死に損ないを集め”骸骨洞窟”を目指した。要塞にいた人間どもは粉微塵、良くて挽肉になっていたので反撃の心配はなかった。もっとも、壁や床から現れた仲間達もほとんどが粉微塵になったのは少し残念だった。
”骸骨洞窟”についたジフ様は、目覚められると躊躇しつつ水晶玉で誰かに遠話をされた。小さな声で話されていたので、『正当防衛……要塞崩壊……山道封鎖……被害甚大……材料破損』と微かに聞こえただけだった。そして、遠話の最後に『幹部会議!?』と大声を上げられ現在に至る。
「うぎゃ~~~! うお~~~! なぜ!? こんなことに~~~!!!?」
あっ。ジフ様が床を転がり始めた。転がるのに邪魔な周囲の物は、事前に私が移動させている。
この気遣いこそが私の本領だ。ジフ様の周りで踊っている死体獣踊子隊とは、違うのだよ死体獣踊子隊とは。
「幹部会議! 左遷!! いや、処刑の可能性も!!!」
おっ?
今度は頭蓋骨を掻き毟り始めた。随分と頭蓋骨が削れているが大丈夫だろうか?
頭蓋骨の傷……塗り薬でいいのか?
私は、脱毛に効く薬草が森に生えていたのを思い出したので、探しに行くことにした。
待っていてくださいジフ様すぐ戻ってまいります。
ジフ様の部屋を出て通路を進んでいると、顎割れ死体騎士が荷物を運んでいるのに出くわした。顎割れ死体騎士は、”骸骨洞窟”に戻ってから荷物をまとめたり、地図を確認したり忙しくしている。
時々『とにかく死霊軍団の支配地域……旧スチナ王国から出ればなんとかなる!』と言っていたが……旅行にでも行くのだろうか?
まあいい。今は薬草を探しが先である。
私は洞窟の出口に向かった。
~~~~~~~~~
森の中で三日ほど迷った後、私はやっと”骸骨洞窟”に戻った。
薬草を探していたら随分遠くまで行ってしまったのだ。しかし目的は果たした。
ジフ様すぐに御持ちします。
踊るように”骸骨洞窟”の中を進む。途中、荷物を背負った死体鉄土竜や死体兵が整列してたが気にしない。ジフ様の部屋が見えてきた。
ジフ様~~~!
「ジフ様、一時的避難デス。御理解クダサイ」
「しかし、まだ処刑されると決まったわけでは無い!」
「処刑ガ決マッテカラデハ遅イノデス!」
「独自の判断で要塞を落としたぐらいでは処刑は無いだろう?」
「独断先行、任務放棄、拠点破壊、進軍路ノ消滅、シカモ成果ハ無シ。コレダケヤレバ十分デス」
「あぁぁぁぁぁぁァァァーーーーーーーーーッ! やっぱりそうなるかーーーーーーーーー!」
部屋の中でジフ様と顎割れ死体騎士が何か相談している。ジフ様は頭蓋骨を抱えて悩まれているようだ。今こそこの薬草の出番である。
私が薬草を取り出そうとしたそのとき机の水晶玉が瞬いた。
「うああああああああ! ついに処刑がーーー!」
「ジフ様! 冷静ニ! 処刑ダトシタラ遠話デハナク、執行者ガ転移シテクルハズデス」
「そっそうなのか?」
「ハイ。マズハ応答ヲ」
「あ、ああ」
ジフ様が水晶玉に触れる。
「死霊軍団司令部だ。死霊魔術師4649席ジフ・ジーンか」
「しゅ、しゅ、しゅ、首席様! なぜ辺境村落攻撃拠点に遠話を!」
「死霊魔術師4649席ジフ・ジーンか?」
「はっはいーーー!」
「死霊魔術師ジフ・ジーンに命じる。一ヶ月以内に全戦力を率いて大陸中央の死霊軍団に合流せよ。合流後は司令部に出頭し辞令を受け取れ。略式だが昇進を伝える。さらばだ」
「へっ?」
ジフ様の声とともに水晶玉から輝きが消えた。
首席様って誰だ?
結果にかかわらず受け取った瞬間はほっとします。