崩落
陣頭指揮は、士気が上がります。
「なっ!」「ひぃ!」「床が、骨!?」
杖を持つ三人の魔術師が混乱していた。自分達が立っていた床が割れて無数の骨の腕が突き出したのだから当然だろう。立っていることさえできず尻餅をついている者さえいる。
しかし、私には関係ない。私の心にはただただ感動だけが満ちていた。
ジフ様が私を救って下された!!!
死霊王が滅ぼうが、魔王が死のうが、神が降臨しようが関係ない。人間どもに囲まれ丸焼きされようとしたとき、白馬に乗った王子様のごとく私を救ってくださったのだから。
「ヒギュアア!」「やめてくれぇ」「逃げろやばい!あっ」
邪魔な外野が静かになっていく・・・
「魔術師がやられた!」「なんだこれは?」「骨、死に損ないか!」「対魔術装甲人陣が落ちた」「いや崩れたらしい」「なにがいったい」「魔王だ!魔王が現れたんだ!」「逃げろ!」「冷静になれ!!!」「司令官に連絡だ急げ」「待機している魔術師達は!?」「煉獄のようだ!」
・・・五月蝿くなっていく。ジフ様への妄想を邪魔する人間がそこかしこから湧いてくるのだ。私は静かにジフ様を妄想するために、大鉈を手近な人間に叩きつけようとした。
「邪魔だーーーーーーーーー人間ども!!!」
壁を打ち抜いて何者かが・・・いや、あのお方が降臨される。
「何百、何千、何万か知らないが!おまえ達!出世のために死ねーーーーーーーーー!」
その姿、青き光を纏い白骨の海をいく。
「さあ戦え私のために!さあ殺せ私のために!さあ壊せ私のために!」
死者を現世に呼び起こし、生者を黄泉へと送り出す。
「死霊魔術師か!」「馬鹿な、魔術師が先頭に」「奴を倒せ!」
愚かな人々、逆らえど。
「しゅっーーーせーーー!」
青き光が死に導く。
「アーーーーーーーーー!」「あーーーーーーーーー!」「阿ーーーーーーーーー!」
魂消る声が響くのみ。
おお!ジフ様!ジフ様!!ジフ様!!!なんと素晴らしいお姿でしょうか。明かりの中でも青き光を纏うジフ様の御姿がしっかと眼窩に映ります。無数の死者を従えるその威厳まさしく王者です。
「ジフ様、コノ要塞ニハ万モ人間ハイマセン。精々五千デス・・・聞イチャイナイナ」
いたのか顎割れ死体騎士。おまえも邪魔だ。ジフ様が人間どもを殺すのが見えないだろう。
「一人殺して出世のため」
頭蓋を砕き!
「二人殺して出世のため」
首を折る!
「三人殺して栄転を、この手に掴むその日まで」
胸を打つ!
「さあ起きろ人間ども残業の時間だ!」
引き裂かれた人間達が身を起こす。上司の命令を果たすべく。
「化け物だ!」「撤退しろ!」「駄目だ!こっちにも骸骨兵が!」「遠話が出来ない」「司令が死体兵になってる!」「神よ!」
過去の仲間を殺すため、未来の仲間を殺すため、創造主の出世のために死に損なったその身を削る。
圧倒的ではないですかジフ様は!
「出世だー!出世だーー!!出世だーーー!!!」
ジフ様の叫びに天地が震る。
天井が落ち!
壁が崩れ!
床が割れる!
「ジフ様、少々ヤリ過ギデハ?コノママデハ要塞ガ!」
顎割れ死体騎士、ジフ様になんと無礼なことを!ジフ様がそれぐらいのこと気づかないはずがなかろう!
「私こそが出世だーーーーーーーーー!!!」
ジフ様の振るう腕に沿って死者が無限に現れる。自らの棺である壁や天井を引き裂いて・・・
・・・ジフ様?
「マサカ、狂化・・・?」
顎割れ死体騎士の言葉とともに視界が傾いた。
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その日、難攻不落と謳われたロッキー山脈要塞は、たった一人の死霊魔術師によって一晩で落ちた。・・・・・・・・・文字通り崩れ落ちた。
私は瓦礫の山の中心で主を呼ぶ。
【ジーーーフーーーさーーーまーーーどーーーこーーーでーーーすーーーかーーー?】
何事もほどほどに。