人柱
優秀な戦士が優秀な指揮官とは限りません。
「人柱・・・まさかっ!禁断の魔術です!?」
「ほう?マリエル、おまえも知っていたか。私達を死に損ないと蔑む人間どもが生み出した外道の魔術の一つだ。あの要塞は、魔術陣を体に刻み込んだ人間を生きたまま建材として使っているようだな」
「しかし、禁断の魔術は聖一教の調停で北部王国同盟、南部王国連合どちらでも禁止されています」
「スチナ王国の王城”梟の巣”では、城壁の全てがあの要塞と同じ輝きを放っていたぞ。・・・聖一教の調停もざるだな」
「そんなはずがっ!?」
「本当のことだ。”梟の巣”が死霊王様によって一晩で落ちたのもそれが原因・・・そうだ!私が再現してやろう!!死霊王様のように一晩で要塞を落とす・・・出世間違いなしだ!!!」
「どういうことですか?」
「待て、待て。・・・死体騎士、要塞までの穴はいつ掘れる?」
「ハッ、明日昼マデニハ掘リ終ワリマス」
「遅い!明日に朝、いや今夜の中に掘れ」
「ソレデハ十分ナ大キサノ穴ガ掘レマセン」
「構わない。私が要塞に触れればそれで終わりだ。護衛は、超蛇骨兵が何体かいれば十分だ。いくぞ!世界は私のためにある!ワハハハハハハ・・・」
ジフ様が、難しい話を終え高笑いしながら歩いていかれる。美しい山の光景に心癒されたのだろう。良かった。
私は、自分もジフ様についていこうとしてそれに気がついた。死霊魔術師マリエル様が、顔を蒼白にしてジフ様とは違う方向に・・・要塞の方に向かって走り出したのだ。
何をされるつもりなのだろうと頭蓋骨を回転させた私は、ある可能性に気づき驚愕に身を震わせた。私は、死霊魔術師マリエル様に気づかれないよう、細心の注意を払ってその後姿を追った。
死霊魔術師マリエル様は途中で要塞へ向かう山道を逸れてある大岩の前に立つと表面を撫でた。その順番は縦、横、縦、横・・・とにかく何度も撫でた。すると大岩の一部が音も無く奥にへこみ穴が開いたのだ。
予想どおりだった。死霊魔術師マリエル様は、要塞へ一番乗りするつもりなのだ!私は、穴の奥に消えていくマリエル様を追いかける。
狭い穴を進む。・・・随分進んだがまだ要塞に着かない。マリエル様に気づかれないためとはいえ走れないのがじれったい。随分離されてしまった。
おやっ?声が聞こえる。
「だから!司令に伝えて!死霊魔術師が攻めてくるから迎撃をしなければならないと」
マリエル様が誰かと話している。死霊魔術師?御自分のことを話しているのか?
「おまえは誰だ!この通路は一部の者しか知らないはずだ」
「だから!キンケル小隊付き魔術師マリエル・アンブロジウスです。さっきからなんどもっ」
「キンケル小隊は、隊長を残して全滅した!まずその魔術師の外套を取って顔を見せろ」
「こ、これは、死に損ないと戦って顔に怪我をしているから・・・とにかく要塞には、人柱が使われていて死霊魔術師がそれを利用して・・・」
「話は後でゆっくり聞こう。捕らえろ!」
「はっ!」「はっ!」
「待って!触らないで!・・・あっ」
「隊長!こいつ冷たいです」「まさか、死に損ない!」
「やはりな!殺せ!」
どうやらマリエル様が人間に見つかったようだ。仕方あるまい。ここは格好よく助けてやろう上手くすれば、ジフ様に褒めていただけるかもしれない。
私は、穴を駆け抜けその場に跳びこむ。
「おまえ!なぜここに!?」
マリエル様が人間達に捕まりながら驚いている。助けにきたのに怒声で迎えるとは。
それより狭い部屋に人間が三人か。どうやっ『殺せ!殺せ!殺せ!殺られる前に殺れ!!!』了解!
私は呆然としている人間達に襲い掛かる。一人は大鉈、一人は毒手、一人はコメディ、とにかく殺す。
「ギャ」「グアッ」「うお!」
ちっ一人逃した!倒れる二人を無視して最後の一人に追いすがる。
「誰かきて!骸骨兵の死に損ないが要塞に侵入したわ!」
マリエル様が何か叫びながら逃げていく。先ずは、目の前の人間だ。大鉈を振り上げ切りかかる。
「死に損ないが!」
人間も咄嗟に剣を抜いて受け止める。コメディ!
「シャー」「ぬぅ!」
コメディも噛みつきを避けた!?驚いた隙を衝かれ剣を引かれる。大鉈が床を打つ。
「はっ!」
突き出された剣を左手で掴む。指の骨が剣に削られ・・・無い。むしろ剣が変色しているような?左手・・・竜骨毒手に力を入れると腐った果実を握りつぶすように剣が崩れた。
「なっ」
人間が驚く。私も驚く。死霊魔術師ケルゲレン、この左手は物騒すぎます。
「シャー」「ギャン!」
ただ一人冷静なコメディが勝敗を決した。良い仕事だ!コメディ。
たくさんの人間が走ってくる足音が聞こえる。さあ皆殺しの時間だ!
~~~~~~~~~
「ギェヘ」「グッ!馬鹿な!」
新たに二人の人間を殺しさらに進む。要塞の中は狭く、通路は人がやっとすれ違えるほどの幅しかない。私はランプなどの明かりを消しながら捜索を続ける。
敵が多過ぎるので偉い奴を探しているのだ。『敵がとても多ければ偉い奴から殺せ!』了解です。しかし見つからない。それどころか人間さえ減ってきたような気がする。
「おびき寄せたぞ!」「魔術師はまだか!」「気をつけろただの骸骨兵じゃない」
囲まれているような気がする・・・しかし姿は見えない。声はするのだが?
「もう一体は捕まえた」「保護じゃないのか!」「知るか!」
マリエル様は捕まったようだ。一人で逃げるからそうなる。
「火矢呪文!」「火矢呪文!」
おっと。通路の前後から飛んできた炎を一つは避け、一つは左手で打ち払う。左手には焦げ目一つつかない。前後から襲うとは卑怯な!前方の魔術師に向かって突っ込む。
「ファイヤーッグエ!」
すれ違いざまに左手で貫き駆け抜ける。通路の先は広い部屋?周囲が明るい。
「火炎・・・」「火炎・・・」「火炎・・・」
離れた場所に杖を構えた魔術師が三人。杖の先には炎の塊!?不味い!
「・・・ボー」「・・・ボー」「・・・ボー」
間に合わない!?
【目覚めよ死者よ!】
そのときジフ様の意思が伝わる。
全ての床、全ての壁、全ての天井ありとあらゆる全てから・・・
白いそれが、長いそれが、短いそれが、太いそれが、細いそれが這い出た・・・
骨が!
無能な指揮官が無能な戦士とは限りません。
彼の出番です。