聖一教
宗教初級講座の回です。
「神官がいたのか」
ジフ様は、溜め息をつくようにして言われた。その御姿からは、『誰か何とかしてくれ』と叫びださんばかりの疲労が感じられる。
肩でも御揉みしようかと手を伸ばしかけたが、肉が無いので揉めないことに気づきやめることにした。
「大鉈、この死体はどこにあった」
大鉈とは私のことだろう。死体のあった場所を伝えようとしたが歯がぶつかるばかりである。
「意識を私に向けて伝えたいことを考えろ」
言われるがままに死体のあった場所、状況を思い浮かべる。
すると私の体から一瞬だけ青い光がジフ様に向かって波のように広がり消えた。
「それが我ら死の世界に生きるものの言葉だ。慣れれば人間だったときより便利だぞ。それと今広がったのは陰の精気だ。我々のような死の世界に生きるものは、精気を直接感じ取れる」
陰の精気? この光のことなのか・・・・・・
「ついでだ精気の説明もしてやろう。人間や動物の類は明るい赤色、植物は緑色、岩や土は黄色に感じられる。そして」
ジフ様は、神官の死体から白く光る六角形の聖印を掴み取り私に向けつつ続けられた。
「神官が纏う陽の精気は白色だ!」
聖印を掴む指先から火花と煙を出しながらジフ様は、吐き捨てるように言い放った。
ジフ様、私のために御身を傷けることも厭わずに陽の精気の危険性を御教えくださるとは、なんと・・・
「手がっ!? 手がっ!?」
ジフ様が手を振り回しながら踊りさらに床を転がり始められた。
神官の死体を死体騎士のように仲間にされるのだろうか?
「私では、神官を死体兵や骸骨兵にできない」
踊りを終えられたジフ様が手を押さえつつ震える声で仰る。
でしたら今の踊りはなんだったのでしょうか?
「今のは、踊りではなく・・・・・・それより聖印だ。この六角形は、人間共が信仰している我らが怨敵、聖一教の聖印だ。まあ聖一教以外の神の教えなど滅ぼされて久しいが」
滅ぼされた? 聖一教以外に神の教えがあるのですか?
「当たり前だ。人間達が聖なる唯一の神の教えなどと言いながら、数多の神を否定し自分達以外の種族を迫害したのだ。聖一教の神にしたところで本来は、調停を司る一柱でしかない」
調停? 喧嘩や戦争を止めたりするあれですか?
「そうそれだ。それを人間共は、聖一教を信じる人間だけになれば、永遠に争いは無くなり神の国が降臨するとかなんとか・・・なにが事前調停だ」
酷い理屈ですね。同じ人間とは思えません。あっ、骸骨兵でした。
「そう我々は、偉大なる魔王様に重要な拠点を任されている死霊魔術師とその偉大なる死霊魔術師が創造した骸骨兵だ。人間などとは格が違う」
おおっ。さすがは偉大なる死霊魔術師第4649席のジフ・ジーン様。感動いたしました。
「席順のことは言わなくていい!! 私だって大陸中央の最前線にいれば聖一教の神官や王侯貴族達を皆殺しにして・・・・・・あの時アイツさえいなければこんな辺境の閑職に回されることも・・・・・・うぅ」
ジフ様どうかなされましたか? まるで出世を絶たれた兵士長のおやっさんのような嘆きっぷりですが? あれ? 生前の記憶が微かに・・・・・・
「煩い黙れ! まだ席順は上がるし最前線にもいける。それより大鉈、お前は上の部屋ある残りの死体を持って来い」
私は、生前への追憶を中断して上の部屋に向かって死体の運搬を再開する。残りの死体は、全員同じ円形盾と皮鎧を装備しており、円形盾の中央には光こそしないが聖印と同じ六角形の浮き彫りがあった。
この円形盾、どこかで見たような気がするのだが?
最後の死体をジフ様の前に置きながら、円形盾の疑問について頭蓋骨を回転させていると仲間の骸骨兵が別の死体を引きずって現れた。その骸骨兵の姿を見た瞬間、私の頭蓋骨を回転させていた謎は全て解けた。
なんと私達骸骨兵が装備している円形盾は、上の部屋にあった死体が装備している円形盾を同じものだったのだ!?
どおりでどこかで見たような気がする訳である。大きな謎が解消された私は、清々しい気持ちで死体探しを再開した。
ジフ様をいじるのが面白いです。