英断
ピンチとチャンスは紙一重です。
「ジフ様、新タナ仲間ノ歓迎モヨイデスガ、人間ノ反撃ガ予想サレマス。対策ヲ練ラレテハイカガデショウカ?」
決め姿のまま死霊魔術師について語っていたジフ様を顎割れ死体騎士が邪魔した。せっかくジフ様の役者のような姿を観賞していたのに。
「ん? ああ、そっ、そうだな。そうか人間の反撃があるのか」
ジフ様は、顎骨を手でつまみ御考えになる。ジフ様、人間の反撃などこの私が防いで見せます。『攻めてくる人間は殺せ! 逃げる人間も殺せ! 殺さない人間は死んだ人間だけだ』と頭蓋骨の中にも響いております。
「魔術師もいるとか言ってたな」
いつの間にか死体獣踊子隊に囲まれている名前の分からない死霊魔術師様をチラッと見てから確認するように呟かれる。
「ハイ、デスカラロッキー山脈要塞ヲ監視シテ、人間ノ出撃及ビ戦力ヲ確認シマス。ソシテ森ニ入ッタラ死体獣ニヨッテ夜間奇襲ヲ行イ魔術師達ヲ殺害シ……」
「死体騎士、現在の戦力はどれぐらいだ?」
「エッ? ハッ、ハイ、死体騎士一体、死体兵二十三体、骸骨兵一体、蛇骨兵二体、超蛇骨兵ガ……五十体、死体獣ガ大型三十八頭、中型ハ百一匹ニナリマス……ソレト死霊魔術師様ガ御一人加ワルカモシレマセン」
「人型が八十に、獣が百四十か……よし出撃準備だ!」
「ハッ? 今ナント」
【了解】
「シャー」
「シャー」
ジフ様の命令に顎割れ死体騎士は間の抜けた声で、私達幽霊船派遣組は鋭い返事で答える。
さて出撃準備をしよう……何をどうすればいいのだろうか?
ロッキー山脈はどこだ?
「ジフ様! 出撃トハドコニ?」
縋るような声で顎割れ死体騎士がジフ様に質問している。
愚かだな顎割れ死体騎士よ。どこをどう聞いてもロッキー山脈の要塞とやらに人間を殺しにいくに決まっているじゃないか。
「ロッキー山脈要塞にだ。決まっているだろう」
「何ヲシニ!?」
「人間を殺しに決まってるだろう」
ほらな……どうした顎割れ死体騎士、なんで頭を抱えて天を仰いでいるんだ?
更になんか呟き始めた。
「要塞ダゾ……魔術師……脳無……ドウ考エ……不可……逃……イヤ……シカシ……」
よく聞こえなかったが顎割れ死体騎士の呟きが終わった。
大きく肩を落とし息を吐いている。
深呼吸だろうか? 私達には呼吸の必要がないのに変わった奴だ。
「ジフ様、ジフ様ノ任務ハ戦力ノ確保ト拠点ノ防衛デス。許可モナク拠点ヲ離レテ、人間ヲ攻メルノハ出世ニ影響スルノデハ」
「うっ! ……大丈夫だ! ロッキー山脈要塞を攻めるのは、”骸骨洞窟”を守るための行動だ。いわゆる過剰防衛、いや違うか? ……そう専守防衛と言う奴だ。これなら問題なかろう」
「私ガ問題ニシテイルノハ、留守ニシテイル間ニ”骸骨洞窟”ガ落トサレル可能性ヲ……」
「ここから北は、魔王軍の占領下だ。そして南のアンスター王国とは、ロッキー山脈で隔てられてる。どこから攻めてくるんだ?
というかあのロッキー山脈要塞があるから人間どもの国に攻め込めないんだ! あの要塞さえなければここも主戦場になって出世し放題なのに!!!」
「シカシ、モシ上層部ニバレレバ……」
「誰がばらすんだ?」
「……ソレハ……」
「上層部には、要塞を落としてから報告すればいい。それに要塞を落とせば、また死霊魔術師が増えるかもしれない。そうすれば死霊魔術ジフ・ジーン流として一門を持つことができる」
ここでジフ様がニ回転半した。いつも一回転なのによほど興奮されているのだろう。
「超蛇骨兵の創造!
”二つ名”死体獣の主!
幽霊船艦隊! ロッキー山脈要塞の攻略!
死霊魔術師の弟子達!
……完璧だ!! これだけの功績があれば出世どころか最前線への栄転、いや次期首席候補も夢ではないはず!!!」
「ダメダ。出世ニ目ガ眩ンデイル」
顎割れ死体騎士が、両手両膝を床について何か言っている。
まあ、今はそんなことよりジフ様の命令が大事だ。
「これより”骸骨洞窟”はその全力を持ってロッキー山脈要塞に進軍する! 全ては私の出世のために!!!」
どちらになるかは当事者しだいです。